第693話 新しい能力
『グリム先生、どういう能力を得るか決めているのですか?』
「ああ、決めている」
俺は祭壇の傍まで来ると、三つの『賢望の鍵』を祭壇の三つの穴にそれぞれ入れる。それから祭壇の前で、欲しいと思った能力を考えながら祈った。
すると、祭壇の『賢望の鍵』を入れた穴からキラキラと煌く緑色の光の粒が飛び出し、俺の身体に吸い込まれた。その瞬間、身体の底から熱気が発生して全身に行き渡る。
しばらくすると熱気はなくなった。
「終わったのか? 確かめてみるしかないな」
俺は賢者システムを立ち上げた。その賢者システムをチェックすると、『D粒子二次変異』という欄の横に『神威』という欄が出来ていた。これは神威エナジーを使った魔法を創るために希望したものだ。
そう、俺は神威エナジーを使った魔法を創る能力が欲しいと祭壇で要求したのだ。もちろん神威エナジーを使った魔法なので、神威エナジーを扱える者しか使えない魔法になるが、それがなければ邪神とは戦えないと思えたのだ。
俺はどんな能力を得たか、メティスに説明した。
『なるほど、邪神対策ですね。必要な能力だと思います』
「数年先の事になると思うが、早いうちから用意すべきだろう」
『そう思いますが、グリム先生だけで戦うつもりなのですか?』
俺はエルモアに顔を向ける。
「もちろん、エルモアや為五郎、ネレウスには一緒に戦ってもらうつもりだ」
『そうではなく、他の冒険者に協力してもらわないのですか?』
「巨獣を倒せるほどの実力がある冒険者なら、協力してもらうが、そんな冒険者の話は聞いた事がない」
『A級ランキングの一位から三位までの冒険者はどうなのです?』
「それがよく知らないんだ。その三人は秘密主義らしくて、詳しい情報がないんだよ」
本気で調べれば分かると思うが、何か事情があって秘密にしているのなら、調べるのはまずいかもしれないと思い保留としている。
俺たちはドーム内部を細かく調べたが、二十六層へ下りる階段はなかった。中ボス部屋には階段はないらしい。ここで探索は打ち切る事にして、転送ルームへ行って地上に戻った。
冒険者ギルドへ行き、近藤支部長に中ボスのアスタロトについて報告する。中ボス部屋の外に居る冒険者を中に引き込む事と魔法を無効にするやり方は報告しておかないと、次に復活した時、冒険者の命に関わると判断したのだ。
「かなり危険な中ボスだな。ドロップ品が豪華だったんじゃないか?」
俺は首を傾げた。
「そうでもないですよ。『限界突破の実』が二個だけでした」
それを聞いた支部長が苦笑いする。
「グリム君は特級ダンジョンや封鎖ダンジョンで、『限界突破の実』や『才能の実』を手に入れているから、珍しくもないだろうが、その二つは非常に貴重で高価なものなのだよ」
上級ダンジョンで『限界突破の実』を手に入れるというのは、珍しい事だと支部長が言う。
「ところで、以前に話した生活魔法を教える教師役だが、決まらないそうだ。もしかすると、エルモアに頼む事になるかもしれない」
三ヶ月という長い期間、教師役を務めるとなると承諾する人材は中々居ないだろう。
「それで生徒は集まったのですか?」
「ああ、警察官の中から、生活魔法の才能が『C』以上の者を選んで、選抜したようだ」
なるほど、冒険者でなく警察官を邪神眷属と戦えるように鍛えるのか。ここ数年以前は、生活魔法の才能があっても冒険者にはならずに警察官になる者も多かったので、その人材を活用しようという事だな。
「俺は生活魔法しか分からないですが、魔装魔法や攻撃魔法でも邪神眷属用の魔法は増えているんですか?」
支部長が頷いた。
「最近になって、邪神眷属用の魔法を増やしている」
魔装魔法の賢者エミリアンや攻撃魔法の賢者ステイシー、それに他の賢者も邪神眷属用魔法の研究を進めているようだ。このように世界が邪神眷属の対策を進めているのは、邪神眷属が宿無しとなり、ダンジョンの外に出てくるというケースが増えているからだ。
邪神は積極的に眷属を宿無しにしているという噂もあるほどだ。これはダンジョン外での被害が増えている事実により証明されそうだ。
「慈光寺理事は、君のエルモアを教師として迎える、という方針で話を進めている」
「そこまで話が進んでいるんですか?」
支部長が渋い顔になる。
「ただ
俺は首を傾げた。
「別に候補が居るなら、エルモアでなくともいいんじゃないですか?」
「ところが、その冒険者は邪神眷属と戦った経験がないらしい」
経験もないのに教えられるのかという疑問も湧くが、そんな事は多数ある。例えば会社経営をした事がない経営コンサルタントというのは普通に存在する。なので、邪神眷属と戦った経験がなくても邪神眷属用の生活魔法を教える事はできると思う。
冒険者ギルドの老害と言われている潮崎理事長が推しているという点は気になったが、他に候補者が居るのならエルモアを出す必要はないと思った。
支部長と少し雑談をしてから屋敷に戻った。
「お帰りなさい」
根津が食堂でテレビを見ており、その横ではモイラが本を読んでいる。モイラの傍には、彼女のシャドウパペットであるエイブとリュリュが居る。モイラはシャドウパペットに囲まれてリラックスしているようだ。
「先生、何か成果はありましたか?」
根津が質問した。
「ああ、悪魔のアスタロトを倒して、『限界突破の実』を手に入れたよ」
「へえー、誰に渡すんです?」
「今回は魔法レベルが『15』になった由香里とシュンに渡そうと思っている」
由香里もシュンも才能が『D+』だったので、『限界突破の実』を使うと『C+』になるはずだ。
「根津の修業はどうなんだ?」
「この前、やっと魔法レベルが『14』に上がったので、『ブーメランウィング』や『クラッシュボールⅡ』を習得しようと考えているところです」
「そうか、そろそろ上級ダンジョンを目指す時期だな。モイラは?」
「私の魔法レベルは『13』になりました」
二人とも着実に成長しているようだ。特にモイラは十三歳なのに、もうすぐC級を狙えるレベルだというのは凄い。
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