第659話 新しい巨獣用魔法

 『スキップショット』の仕組みは、亜空間フィールドという特殊な力場でスキップショット弾を包み込み、潜水艦が海に潜るように亜空間に潜るらしい。


 ちなみに、亜空間とはこの世界とは物理法則が異なる別世界という意味で、その詳細は分からない。ただ『スキップショット』が利用している亜空間は、通常空間と重なるように存在しているという。


 その亜空間は通常より時間の流れが速いらしく、亜空間に入ったスキップショット弾は瞬間移動したかのように遠方の通常空間に現れるそうだ。


 しかも魔物の存在を感知したスキップショット弾は、その五メートル手前で亜空間に入ってちょうど魔物の体が存在する位置の通常空間に現れる。つまり魔物の体内で爆発する凶悪な魔法だった。


『相手が邪神だった場合、<邪神の加護>のような力を発揮するかもしれません。それだと亜空間から通常空間に戻った瞬間、攻撃を拒絶されないでしょうか?』


「体内で発生したパワーなら、拒絶しないと思う。邪神眷属のドラゴンがブレスを吐こうとして、何らかのパワーが体内で発生した時に拒絶するなら、ブレスは不発となるはずだ」


『ですが、それは確実ではありません』

「そうだな。なら実際に魔法を創る時は、<聖光>の特性と組み合わせる事にする。だけど、今回創るのは、巨獣用の魔法だぞ」

『分かっていますが、万一の事を考えて対邪神も考慮すべきです』


 メティスはギャラルホルンがディオメルバに奪われるかもしれないと、心配しているようだ。

「邪神封印の鍵であるギャラルホルンを破壊したら、どうなるんだろう?」

『ギャラルホルンを見た時、神威エナジーを感じました。神威エナジーを使って邪神を封印しているのだと思います。それを破壊したら、封印が解除されるのではないでしょうか』


 メティスの推測を聞いて、やはりアメリカに預けたのは正解だったと思う。だけど、万一邪神が復活した時は、俺が最前線で戦う事になるだろう。


 『心眼』と『神威』の二つの躬業をもっており、邪神を倒せる可能性が最も高いのは、俺だろうと考えているからだ。


 とは言え、俺が生きている間に邪神が復活しないかもしれない。俺としては復活しない事に期待するしかない。なので、ディオメルバという馬鹿な連中が復活させようと動き出していると聞いて腹が立つ。


『何を考えておられるのですか?』

「何でもない。『スキップショット』の仕組みをもう少し研究しよう」


 俺は亜空間や空間構造について研究し、その知識を深めた。そして、その知識を利用して<跳空>という特性を創る事にした。投射物を亜空間フィールドで包み込み、亜空間に入る事を可能とする特性である。


 『痛覚低減の指輪』を指に嵌め、賢者システムを立ち上げる。そして、苦痛に耐えながら<跳空>という特性を完成させた。この<跳空>は魔力でも励起魔力でも作動するようにした。


「はあっ、今回も三十分ほどか」

『<跳空>の特性が、完成したのですか?』

「ああ、何とか完成した。次は<跳空>を使った魔法だ」


 俺は巨獣用に創った『クロスリッパー』を基に新しい魔法の開発を始めた。『クロスリッパー』はレーダーのような仕組みを使って敵をロックオンし、空間ごと魔物を切り裂く魔法である。


 その空間ごと魔物を切り裂くという点を、魔物の体内に飛び込んで内部から爆発するという風に変える事にした。


 『クロスリッパー』は<磁気制御><編空><励起魔力><手順制御><演算コア><ベクトル加速><電磁波感知>の七つの特性を使っている。この中で魔物の位置を把握し追尾するために<磁気制御><手順制御><演算コア><電磁波感知>の四つが必要になる。


『この段階で、D粒子二次変異の特性が三つです。付与できるのは四つまでですが、どうしますか?』


「『クロスリッパー』は発動に時間が掛る魔法だったから、今度は早撃ちができる魔法にしたいと考えているんだ」


『そうすると、<励起魔力>の特性は使わないという事ですか?』

「そうだ。そうすると、ある程度の射程を確保するために、<分散抑止>が必要だ」


 これでD粒子二次変異の特性が四つになり、これ以上は増やせない。そして、D粒子一次変異の特性として<爆轟>と<聖光>を追加し、聖光を伴う爆発でダメージを与える事にする。


『スピードは、どれほどになりますか?』

「<励起魔力>と<ベクトル加速>がないから、時速三百キロが精々だろう」

『目がいい魔物なら、迎撃できるでしょう』

「だから、<跳空>を使う」


『なるほど。どれくらい手前で亜空間に入るのですか?』

「三十メートルにする。だから、魔物との距離がそれ以上離れていないと使えない」


 巨獣用の魔法なので、三十メートルというと近距離になる。

『相手が巨獣だとすると、短いような気がします。もう少し長くできないのですか?』


 メティスは三十メートルに達するまでに迎撃されるのではないか、と心配している。

「だけど、亜空間に入っている間は、追尾機能が使えないからな」

 亜空間に入っている間に魔物が移動したら命中しないので、俺としては亜空間に入っている時間を短縮したかった。


『その心配は分かりますが、相手はベヒモスやレヴィアタンですから、それほど速く動けるとは思えません』


「だけど、巨体だからな。一歩で進む距離が違う」

 メティスと話し合った結果、三十メートルと百メートルを選択できるようにした。そうして完成した新しい魔法を『スキップキャノン』と名付ける。


 『スキップキャノン』に使われている特性は、<爆轟><聖光><磁気制御><跳空><手順制御><演算コア><分散抑止><電磁波感知>の八つで、現時点での限界となった。


 そのせいなのか、この魔法を習得できるのは魔法レベルが『28』となった。そして、D粒子の投射弾は『スキップ砲弾』と呼ぶ事にする。


 俺は鍛錬ダンジョンの二層へ行き、『スキップキャノン』の試し打ちをする事にした。


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