第650話 三橋師範と励起魔力

 三橋師範は『カタパルト』を発動して身体を斜め上に放り投げた。空中で『クラッシュボール』を発動し、放ったD粒子振動ボールでアースドレイクの背中に穴を開けた。


 その直後にタイチが『サンダーソード』を発動し、D粒子サンダーソードを撃ち込んでアースドレイクを麻痺させる。


「僕に任せろ」

 シュンが叫んで七重起動の『ハイブレード』を発動し、長大なD粒子の刃をアースドレイクの首に振り下ろした。音速を超えたD粒子の刃は、アースドレイクの首を切断した上に地面に食い込み土砂を舞い上げた。


 中ボスは瞬殺された。本来なら上級ダンジョンで活動している冒険者が二人も居るのだ。当然の結果だろう。


「さて、ドロップ品を確かめるぞ」

 三橋師範の声でドロップ品を探し始める。魔石が発見され、次に指輪が見付かった。タイチはグリムから借りている鑑定モノクルを取り出し、指輪を調べる。


 すると、『収納リング』と表示された。これは縦・横・高さがそれぞれ五メートルの空間と同じ容量があるらしい。ただ時間遅延機能はなしである。


「収納リングなら、シュンが使うといい。上級ダンジョンで活動するのなら必要だろう」

「僕もそう思います」

 三橋師範の提案にタイチが賛成したので、シュンが嬉しそうな顔をする。

「ありがとうございます」


 他にドロップ品がないか探すと、中級治癒魔法薬が三本入った袋が見付かった。三橋師範たちは一本ずつ分配する。


 それから野営の用意をしてから、夕食として持って来た即席ラーメンとおにぎりを食べた。その日は早めに寝て、翌朝早くから二十層を目指す。


 十一層から十四層は、ホバービークルを飛ばして問題になる魔物が居なかったので、飛んで通過した。そして、十五層へ下りた三橋師範たちは、廃墟エリアを目にした。


「ここにはファントムやレイスが居ますから、ホバービークルで飛ぶのは危険ですね」

 グリムは<光盾>の特性を手に入れたが、その前に新型ホバービークルが完成したので、霊体型アンデッド対策が施されていないのだ。


 瓦礫が散乱する廃墟の町を奥へと進みだした三人は、スケルトンナイトと遭遇した。三橋師範が前に出て、普通にスタスタと近付いていく。次の瞬間、スケルトンナイトが剣を振り下ろした。


 タイチとシュンは、三橋師範が避けないので危ないと思い声を上げそうになった。三橋師範の身体がゆらりと揺れ、スケルトンナイトの剣が空振りする。その直後、三橋師範はスケルトンナイトの懐にスルリと入っていた。


 次の瞬間、スケルトンナイトの頭蓋骨に衝撃扇がめり込む。そして、膝から崩れるように倒れたスケルトンナイトが消える。


「タイチ、最近のグリムは、どのダンジョンで活動しているのだ?」

「『限界突破の実』を持って帰ったので、師範が言っていた特別なダンジョンだと思います」


「そうか、頑張っているのだな。頑張っていると言えば、二人の『干渉力鍛練法』はどこまで進んだ?」

 突然、三橋師範がタイチとシュンに尋ねた。

「『干渉力鍛練法』は、二段目の最終段階の近くまで達していると思います」

 タイチが答えると、シュンが悔しそうな顔をする。

「僕は二段目の中間かな。それがどうしたんです?」


「グリムによると、三段目の鍛錬が完了すると、励起魔力という魔力の一種を使えるようになるらしい」

「励起魔力? 聞いた事がありません」

「まだ研究中だと言っていたから、話していないのだろう」


 タイチがグールの集団を発見して、『ホーリーキャノン』の聖光グレネードで殲滅すると、三橋師範に顔を向ける。


「その励起魔力というのが、どうかしたんですか?」

「魔力を高密度にして、プラズマのようにエネルギーを高めたようなものなのだそうだが、巨獣ジズが使っているそうなのだ」


「へえー、そんな凄いものなんですか。でも、その励起魔力は何ができるんです?」

「その励起魔力を身体に満たすと、身体が頑丈になって魔力障壁のようなものが身体を覆うと言うのだ」

 タイチとシュンが目を輝かせた。

「それは凄いです」


「それだけじゃないぞ。それを魔法に応用すると、魔法の威力が上がるらしい」

 魔力の代わりに励起魔力を使うという事ではなく、魔力に少し励起魔力を混ぜる事で強化する方法だと三橋師範は教える。完全に励起魔力だけにすると専用の魔法が必要になるようだと説明する。


「グリム先生は、なぜ師範にだけ話したんでしょう?」

「儂の『干渉力鍛練法』が、二段目を終えて三段目に入ったからだ。グリムはいろいろやる事があるので、代わりに研究してくれないかと言っておったのだが、一人で研究するのも大変なのでタイチとシュンにも手伝ってもらいたい。どうだ?」


「それは手伝いますけど、僕たちはまだ二段目ですよ」

「特訓だな」

 三橋師範が嬉しそうに言う。それを聞いたタイチとシュンは、顔を引き攣らせた。三橋師範の特訓がキツイ事は有名だったからだ。


 三人は十五層を突破して、十六層から十九層をホバービークルで飛んだ。そして、二十層に下りると中ボス部屋へ向かう。


 中ボス部屋の前に来ると、『蒼空の狙撃手』チームが中ボス部屋に入る前に休憩していた。

「先を越されたか」

 タイチが残念そうに言う。


 『蒼空の狙撃手』の一人が立ち上がって声を上げる。

「あんたたちもレッドオーガを狙っているのか?」

 タイチが頷いた。

「そうなんですけど、先を越されたようですね」

「ああ、レッドオーガは我々が仕留める」


 三橋師範は『蒼空の狙撃手』のメンバーを観察して、攻撃魔法使い四人と魔装魔法使い一人だと分かった。身体つきや動きから判断し、本格的に格闘技を修業しているのは一人だけだったのだ。


「相手は邪神眷属のレッドオーガだと聞いているのだが、大丈夫なのかね?」

 三橋師範が確認すると、その攻撃魔法使いはニヤッと笑う。

「問題ない。我々は邪神眷属用攻撃魔法を習得している」


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