第649話 三橋師範と唐津ダンジョン

 三橋師範たちは近くのホテルで一泊してから、翌日朝早くにダンジョンに入った。中級である唐津ダンジョンの一層は森だった。ここにはオークやゴブリン、アタックボアなどが居るらしい。


「一層はどうしますか?」

 タイチが三橋師範に尋ねた。

「衝撃扇を実戦で試してみたいから、歩いて行こう」

「分かりました」


 三橋師範が先頭に立って歩き始め、その後ろをタイチとシュンが歩く。タイチが三橋師範に声を掛けた。

「グリム先生は、衝撃扇をどこのダンジョンで手に入れたか、言っていましたか?」

「いや、言っていなかったぞ」


「グリム先生は、時々どこで手に入れたのか言わない魔導武器を、持って帰る事がありますよね?」

 三橋師範が振り返ってタイチとシュンの顔を見る。

「これは噂だが、世界にはランキングの高いA級冒険者しか入れないダンジョンがあるらしい。そこには『才能の実』や『限界突破の実』があると聞いた事がある」


「へえー、特別なダンジョンか。僕も早く入れるようになりたいな」

「それにはまずA級冒険者にならないとな」

「三橋師範は、A級を目指さないんですか?」


「儂の目標は、ナンクル流空手を極める事と、発展させる事だ」

「でも、邪神眷属のレッドオーガを倒せば、C級の昇級試験を受けられるようになると思いますよ」


 三橋師範はD級だが、実績としてはC級に匹敵するものがあり、大物を倒せば昇級試験を受けられるだろうと言われている。


「昇級試験が受けられるのなら、試してみるさ。その程度の興味しかないよ」

 冒険者のランクより、ナンクル流空手が重要という三橋師範の優先順位は変わらないようだ。


 その時、オークがわらわらと現れた。それぞれが棍棒を持っており、三橋師範たちを目にすると走り出す。


「十五匹ほどだな。一人五匹だぞ」

 三橋師範が言うと、タイチとシュンが同意の声を上げる。三橋師範はグリムから借りているマジックポーチⅠから、衝撃扇を取り出した。


 バタリオンの貸し出し品の中にはマジックポーチⅠもあり、三橋師範とシュンも使っている。


 オークが棍棒を振り被って三橋師範に向かって振り下ろす。三橋師範は踏み込んで、オークの手首を左手で掴んで捻ると、右手をオークの肘に当て一気にへし折りながら投げる。そして、倒れているオークの頭に畳んだ状態の衝撃扇を振り下ろす。


 オリハルコン製の衝撃扇は、かなり重いので振り下ろした衝撃は相当なものだ。メイス並みの威力を持つ一撃で、オークの頭蓋骨が陥没した。


 別のオークが二匹同時に襲い掛かってくる。三橋師範は衝撃扇をパッと開くと二匹のオーク目掛けて振る。すると、衝撃波が発生してオークたちを吹き飛ばした。


 三橋師範は追撃し、倒れている二匹のオークの首に足の爪先を蹴り入れた。三橋師範の履いている靴の爪先は蒼銀で覆われており、オーク程度なら必殺の武器となる。


 別のオークが襲い掛かってきた。三橋師範が衝撃扇を振って吹き飛ばす。地面を転がって慌てて起き上がるオーク。そこに駆け寄った三橋師範は、首に閉じた衝撃扇を叩き込んで頸骨けいこつを折った。


 棍棒を持って走り寄る最後のオークに、三重起動の『ブレード』を発動し、D粒子の刃を振り下ろす。その斬撃で真っ二つとなったオークが消える。


 三橋師範がタイチとシュンに目を向けると、二人もオークを殲滅させたところだった。

「オークじゃ物足りないんじゃないですか?」

 シュンが三橋師範に尋ねた。


 それを聞いた三橋師範が笑う。

「そうかもしれんが、慢心はいかんぞ」

「それは承知しています」

「それならいいが、先を急ぐ事にしよう」


「分かりました」

 タイチが返事をして、収納ペンダントから新型ホバービークルを取り出した。流線型の優雅なフォルムの両脇に一メートルほどの翼がある。全長が六メートルほどで六人乗りだ。


 タイチが操縦席に座ると、他の二人も乗った。乗り心地は問題ない。ホバービークルが動き出すと、翼の揚力が発生して高度が上がる。


「この新型ホバービークルというのは、どれくらいまでスピードが出るのだ?」

 三橋師範がタイチに尋ねた。

「設計した薬師寺やくしじ教授の話では、時速二百五十キロほどまで出るようです」


「意外だな。もっと速いと思っていた」

「このホバービークルは、戦闘には使いませんから、これくらいのスピードがちょうどいいんです」


「そう言えば、ホバーバイクも開発したと聞いたが?」

「ええ、実験機を作ったんです。グリム先生から借りて乗ってみましたが、面白かったです」


「ソロで活動している時は、ホバーバイクがいいな」

「グリム先生に頼めば、作ってくれると思いますよ。但し、特注になるので高いです」


 タイチとシュンは新型ホバービークルの作製を依頼して購入したが、億単位の代金を支払っている。どうして高額になるのかというと、部品のほとんどが特注品になるので仕方ないと聞いている。


 三橋師範たちはホバービークルで飛べるところは、ほとんど飛んで進んだ。先行している『蒼空の狙撃手』チームに追い付くためには、必要な事だった。


 十層の中ボス部屋で中ボスが復活しているのを発見した。『蒼空の狙撃手』チームが通り過ぎた後に、中ボスのアースドレイクが復活したらしい。


 中ボス部屋を覗き込んだシュンが声を上げる。

「アースドレイクか、初めて見た」

 ドラゴンの祖先だと言われているドレイク種だが、このアースドレイクはアースドラゴンの先祖になるのだろうかとシュンは考えた。


 三橋師範たちはためらわずに中ボス部屋に入る。ここで一泊する予定なので、倒す必要があったのだ。幸いにも半分以上をホバービークルで飛んで来たので、魔力は残っていた。


 アースドレイクは四足歩行の恐竜のような魔物で、トリケラトプスに似ている。そのアースドレイクが三橋師範たちに気付くと、腹に響くような叫びを発して三橋師範たちに向かって突撃を開始する。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る