第648話 唐津ダンジョンの中ボス

 俺とジョンソンは十層の中ボス部屋に戻って一泊してから地上に戻った。それから冒険者ギルドへ行くと支部長に報告する。


「フライベルク氏が、その三人に殺されたと言うのかね?」

「ええ、俺たちも殺されそうになりました」

 支部長はジョンソンに目を向ける。

「間違いないのですか?」


 ジョンソンは頷き、俺の話が本当だと保証してくれた。

「しかも、その三人が邪神ハスターを信仰する教徒だったとは……私の手に余ります。理事に相談する事にします」


 結局、話が慈光寺理事とステイシーのところへ行き、邪神教徒の遺体は日本が調査し、『ギャラルホルン』はアメリカが管理する事になった。『ギャラルホルン』は個人で管理できるものではないと両政府は考えたのだ。


 ステイシーは軍に管理を任せる事にした。新しい部署であるダンジョン対策本部では管理できないとステイシーが判断したのだ。『ギャラルホルン』は軍用機でアメリカに運ばれた。


 神の秘宝はアメリカが手に入れたと冒険者ギルドが発表した。そうでないと、邪神の信仰者が穂高ダンジョンに潜った冒険者一人一人を拉致して情報を聞き出そうとするかもしれないからだ。


 敵は進化薬という危険な薬を持っている。A級でも危険だと判断したのである。ちなみに、進化薬は適合する者としない者が居るのではないかという話だ。


 適合する者は問題なく一時的に半神になるかもしれないそうだ。そういう者は組織の幹部になっているだろう。


 俺は穂高ダンジョンの探索を続け、いくつかの成果を上げた。だが、特筆するものはなく、穂高ダンジョンがまた封鎖された。


 俺は渋紙市に戻り、『限界突破の実』を生活魔法の魔法レベルが『10』になった姫川に渡した。才能が『D+』になった姫川は大喜びである。ちなみに『限界突破の実』の有効期限は短いが、マジックポーチⅧに入れて保管していたので問題なかった。


 封鎖ダンジョンというイベントが終わって時間が出来た俺は、これまで溜まっていた魔導武器などを、バタリオンのメンバーに配布した。


 その中で珍しく三橋師範が興味を示したものがあった。『衝撃扇』に三橋師範が興味を示したので貸し出す事にした。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 同じ頃、邪神ハスターを唯一の神だとして信仰する者たちの組織であるディオメルバは、その活動拠点をリビアに移していた。ヨーロッパ各国の警察から追われた結果である。


 指導者であるピゴロッティは、部下から報告を聞いていた。

「『ギャラルホルン』は、アメリカ軍が管理しているのだな?」

「そうでございます。日本の冒険者ギルドから、アメリカ軍に渡されたようでございます」


 ピゴロッティは渋い顔になる。ディオメルバには凄腕の冒険者が何人か居るが、軍が相手だと『ギャラルホルン』を手に入れる事は難しい。


「『ギャラルホルン』を手に入れるには、選ばれし者、すなわち神の力を使える者が必要だったはず。誰が手に入れたのだ?」


「冒険者ギルドは、名前を発表していません」

「小賢しい真似を……時間が掛かってもいいから調べよ。但し、その者には手を出すな。神の力を持っているとすれば、そなたたちでは勝てないだろう」


「殺すのなら、方法があります」

「失敗した時のリスクが大きい。それよりアメリカ軍から、『ギャラルホルン』を奪うには大きな力が必要だ」


 部下のチェルヴォが顔をピゴロッティに向ける。

「大きな力とは?」

「躬業だ。アメリカが所有する躬業の宝珠を、奪うのだ」

「しかし、一度失敗しております」

「あれは保管している場所を間違ったからだ。今度は正確な場所が分かっている」


「ですが、躬業の宝珠もアメリカ軍が管理しているのではありませんか?」

「いいや、魔法庁が管理している。アメリカは躬業の重要性を理解しておらんようだ」


 それを聞いたチェルヴォは、深く頭を下げた。

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 三橋師範とタイチ、シュンは、九州に遠征に来ていた。目的は唐津ダンジョンの二十層で復活した中ボスを倒す事だ。この中ボスはレッドオーガなのだが、困った事に邪神眷属となっている。


「師範、なぜレッドオーガを狙っているんです?」

 シュンが三橋師範に尋ねた。

「中ボスのレッドオーガがドロップする、と言われている『衝撃ガントレット』が欲しいのだ」


 『衝撃ガントレット』は、パンチ力を何倍にも増幅して衝撃波として放出する魔導武器らしい。三橋師範としてはどうしても欲しい魔導武器だと言う。


「衝撃波なら、バタリオンで借りた衝撃扇があるじゃないですか」

「確かに衝撃扇はいい武器なのだが、魔物を相手に空手の修業をするためには、『衝撃ガントレット』が必要なのだ」


 それを聞いたタイチが笑う。

「空手の練習相手にされた魔物が、逃げ出すんじゃないですか?」

「ふん、逃がすようなドジではないぞ」

 何だか魔物が可哀想に思えるタイチだった。


「レッドオーガは強敵だけど、なぜ地元の冒険者が倒さないんだろう?」

 シュンが疑問を口にした。

「素早い邪神眷属というのは、倒し難いからだろう。高速戦闘中に魔法を使うというのは、難しいからな」


 タイチたちも高速戦闘中だと限られた魔法しか使えなかった。邪神眷属に対して有効な魔法となると『ホーリーソード』と『ホーリーキャノン』くらいになる。


 列車で唐津まで来た三人は、ダンジョンに入る前に冒険者ギルドへ行って唐津ダンジョンを調べた。資料室で手分けして調べていると、ここの支部長である黄蓮こうれんという四十代の男性が近付いた。


「あなたたちが、レッドオーガを倒しに来たという生活魔法使いの方たちですか?」

 三橋師範が居るので、黄蓮支部長の言葉遣いも丁寧なものになっていた。

「ええ、我々はA級冒険者グリムの弟子です」


 三橋が弟子なのに、グリムと呼び捨てにしたのを支部長は変に感じたようだ。それに気付いたタイチが笑う。


「三橋師範は、グリム先生の空手の師匠でもあるんです」

 それを聞いた支部長が納得したように頷く。それから本題を切り出した。実はレッドオーガを狙っているチームがもう一つあるらしい。『蒼空の狙撃手』というチームが、先ほどダンジョンに入ったので、三橋師範たちは無駄骨になるかもしれないという。


「その時は仕方ないです。諦めて帰るしかありませんな」

 タイチが支部長に視線を向けた。

「そのチームは、攻撃魔法使いのチームなんですか?」

「ええ、そうです。邪神眷属用の魔法も習得しているようです」


 大丈夫なのだろうかと他人のチームながら心配になるタイチたちだった。邪神眷属というだけでも手強いのに、それに加えて素早いレッドオーガが相手だからだ。


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