第646話 ディロルとの戦い

 ジョンソンは、ディロルから溢れ出る紫の魔力から受けるプレッシャーで後退した。それを見たディロルがニヤッと笑う。その笑いに気付いたジョンソンが、ウォーミングアップの要領で体内の魔力圧力を高めてプレッシャーに抵抗する。


 魔装魔法を使ったらしいジョンソンが、力強い動きを始めた。筋力を強化したのだろう。ディロルが収納リングから魔導武器らしい戦棍を取り出して構えた。


 ジョンソンは高速で踏み込み、ジョワユーズの次元断裂刃でディロルを攻撃。その攻撃を紫の魔力でコーティングした戦棍で受け止める。


「馬鹿な、次元断裂刃だぞ」

 ディロルがジョンソンの頭に向かって戦棍を振り下ろす。その攻撃をジョワユーズで受け流したジョンソンは、高速ステップで右に回り込んで、ディロルの脇腹にジョワユーズの斬撃を叩き込んだ。


 それを戦棍で受け止めたディロルは、ジョワユーズを怪力で払い除けようとする。ジョンソンはその力を柔らかく逃し、ディロルがバランスを崩した瞬間にマジックポーチから取り出したナイフに魔法を掛けるとディロルの脇腹に突き刺した。


 その瞬間、ディロルが苦痛の声を上げる。普通のナイフでは今のディロルを刺す事はできないので、刺したナイフか直前に掛けた魔法が特別だったのだろう。


 ディロルは脇腹に刺さったナイフを一気に引き抜いた。すると、また急速に傷が塞がり始める。半神化したディロルは、一気に息の根を止めるほどのダメージを与えなければ倒せないようだ。


 俺はディロルを生かして捕らえ、仲間の情報を聞き出そうと考えていたが、諦めて仕留める事にした。最初の攻撃で『ハイブレード』を選ばずに『ニーズヘッグソード』にしていたら、こんな手間も要らなかったのに、と後悔する。


 ちなみに、ディロルの身体が白い魔法の膜で覆われていたので『ホワイトアーマー』を使っている事は、あらかじめ分かっていた。なので、ダメージを与えるが死なない程度の威力がある七重起動の『ハイブレード』を選んだのだ。


 ジョンソンとディロルは激しい戦いを繰り広げている。援護しようと思ったが、素早く動きながら戦っているので魔法を使えない。


 ディロルは攻撃魔法使いだが、魔装魔法の使い手でもあったようだ。接近戦の戦い方が様になっている。


 しばらくすると戦いの形勢がディロルに傾き始めた。ディロルの身体に満ちる魔力が強まったように感じられ始め、ジョンソンの顔が苦しそうに歪んでいる。


 ディロルから感じられるプレッシャーが強くなっているのだ。ジョンソンがプレッシャーに耐えられなくなったという感じで後ろに跳び下がる。


 離れた場所に居る俺でもプレッシャーで苦しかったくらいだから、接近戦をしていたジョンソンはもっと苦しかったはずだ。


 ジョンソンとディロルが離れた瞬間、俺は『ニーズヘッグソード』を発動し、空間振動波の刃である拡張振動ブレードをディロルに叩き込んだ。


 ディロルは両腕を交差して拡張振動ブレードを受け止める。驚いた事に紫の魔力によって空間振動波が打ち消された。紫の魔力は<邪神の加護>と同じような効果があるらしい。


 俺は収納アームレットからオムニスブレードを取り出した。オムニスブレードのスイッチを入れると、五メートルのエナジーブレードが形成された。


 それを見たディロルが顔を引きらせて逃げ腰になる。エナジーブレードの元になっている神威エナジーは、神格を持つ者が身に付ける神属性の力と言われている。本来は神が持つ力なのだ。


 それを敏感に感じ取ったディロルは、危険だと感じたのである。ジョンソンも顔が強張っていたので、エナジーブレードに何かを感じているようだ。


 ディロルが『フライ』を使って飛び上がり、上空から大技の攻撃魔法で俺を攻撃しようとする。

「ジョンソン!」

 警告の声を発してから、エルモアとネレウスを俺の影に入れる。そして、『マナバリア』を発動してD粒子マナコアを腰に巻いた俺は、魔力バリアを展開する。もちろん、多機能防護服のスイッチも入れている。


 ジョンソンはディロルから距離を取ろうと走り出した。次の瞬間、ディロルが『メガボム』を発動し放つ。それが俺の近くに着弾して大爆発を引き起こした。


 俺の周りは魔力バリアが爆風や衝撃波を防いでくれたが、走っていたジョンソンは爆風で吹き飛ばされた。舞い上がったジョンソンは、地面に叩き付けられる瞬間に完璧な受け身を取る。


 地面を転がって起き上がったジョンソンは、爆発の中心部近くに居た俺が無事なのでホッとした顔をする。


 俺は『フラッシュムーブ』でディロルの近くまで移動すると、エナジーブレードを横薙ぎに振り抜いた。エナジーブレードが紫の魔力と接触。一瞬だけ抵抗を受けたエナジーブレードだったが、紫の魔力も切り裂いてディロルの肉体に食い込む。


 その一撃でディロルの胴体が切断され、血を噴き出しながら地面に落下。俺は『エアバッグ』を使って着地すると、ディロルが死んでいる事を確認した。


 ジョンソンが近付いてきた。

「死んだようだな」

「ええ、こいつは何者だったんでしょう?」

「邪神の信者だろうけど、目的は神の秘宝だろう」


「グリム先生は命の恩人だ。ありがとう」

 ジョンソンが感謝した。それからエルモアとネレウスを影から出してディロルたちの遺体を回収させた。


 ジョンソンが詳しい経緯を知りたがったので、十層の中ボス部屋での禁忌の件やフライベルクの遺体を発見した時の様子を話した。


「すると、私は最悪のタイミングで、グリム先生に声を掛けたのか?」

「そうですよ。あれは最悪でした」

 その言葉を聞いたジョンソンが苦笑いする。


「実際はそうなんだろうが、あの時の私には、オルトスドラゴンを倒して神の秘宝を取り出そうとしている三人と、岩陰からこっそり覗き見しているグリム先生、という具合にしか見えなかったんだ」


 フライベルクの遺体を見ていないジョンソンには、俺が怪しい行動をしているようにしか見えなかったらしい。客観的に考えるとそう見えたのかもしれないが、ちょっと心外しんがいだ。


「ディロルたちが、オルトスドラゴンを倒したんでしょうか?」

 俺が質問した。

「外の戦いの跡を見ると、『メテオシャワー』を使った形跡があった。フライベルクの得意技だから、四人で協力してオルトスドラゴンを倒したのだろう」


「その後、ディロルたちが裏切って、フライベルクさんを殺したという事か」

「酷い話だ。それより神の秘宝を見に行こう」


 俺たちは水晶の柱のところへ行った。柱の中に宝箱が見える。その近くの石碑に神殿文字で『神の力を満たした手で取り出せ』というような意味の文章が刻まれていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る