第637話 穂高ダンジョンの封鎖解除

 俺とクリムゾンコングの目が合った。すると、巨大猿が上を向いて吠えた。その隙に連続で『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールをばら撒く。


 D粒子振動ボールに気付かない事を期待したが、クリムゾンコングは素早く横に跳ぶ。手と足を使い着地したクリムゾンコングは、地面から拾い上げた石を俺に向かって投げた。その動きは予想以上に素早い。


 巨大な猿には手頃な石だったが、実際はボーリングボールほどもあった。俺は五重起動の『プロテクシールド』を発動し、形成したD粒子堅牢シールドの後ろに隠れる。


 石はD粒子堅牢シールドに当たって跳ね返り地面に落ちた。驚いた事に戦棍を振り被ったクリムゾンコングが傍まで迫っている。『素早い』と思いながら『カタパルト』を発動し、身体を後方に投げ上げる。


 空振りしたクリムゾンコングに、エルモアがブリューナクを投げた。ブリューナクは稲妻に変化して巨大猿の胸に命中して火花を撒き散らすが、貫通する事なく跳ね返された。クリムゾンコングの真紅の毛も魔法の耐性が高かったらしい。


 俺は空中で『カタパルト』が解除されると、飛びながら七重起動の『コールドショット』を発動し、D粒子冷却パイルを放つ。真紅の毛に覆われた腹に向かって飛翔するD粒子冷却パイルを避けるために、クリムゾンコングが真上に跳躍。


 着地した俺は、『クラッシュボールⅡ』を発動し、高速振動ボールをクリムゾンコングに向かって放った。それに気付いた巨大猿は戦棍で叩き落とそうと振り下ろす。


 戦棍と高速振動ボールが衝突した瞬間、その周りに空間振動波が放出され戦棍の先端が呑み込まれて消える。


 クリムゾンコングが吠え、手に持っている戦棍の柄の部分を、俺に向かって投げた。それを見て『ティターンプッシュ』を発動し、ティターンプレートで迎撃。戦棍はティターンプレートに跳ね返されて、クリムゾンコングへ飛ぶ。


 クリムゾンコングは右手で戦棍を払い、俺に向かって跳躍した。俺は七重起動の『ハイブレード』を発動し、D粒子の長大な刃を振り下ろす。空中のクリムゾンコングはD粒子の刃を腕をクロスして受け止めた。


 だが、音速にまで加速したD粒子の刃は頑丈そうな腕に食い込み、その全身を地面に叩き付けた。エルモアが飛び込んで『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールを叩き付ける。空間振動波が放射され、クリムゾンコングの脇腹に穴が開く。


『クラッシュ系です』

 俺はメティスの助言に従い、『ニーズヘッグソード』を発動して拡張振動ブレードをクリムゾンコングの頭に叩き込んだ。


 その頭が真っ二つになり、クリムゾンコングの巨体が消える。

「ふうっ」

『大技を出す暇を、与えてくれませんでしたね』

「ああ、魔導装備で素早さを上げるほどじゃないが、大きな魔法を発動する時間を与えてくれないほど、素早かったな」


 俺は影からシャドウパペットたちを出し、ドロップ品を探させた。ハクロが白魔石<大>を持ってくる。褒めると嬉しそうにスキップでまた探しに行く。


 次にネレウスが探して来たのは、何かの金属で作られた大型の扇子せんすだった。

「扇子? また奇妙なものがドロップしたな」

『それは武器なのですか?』

「……扇子で戦うなんて、映画でしか見た事ないぞ」


 取り敢えず調べてみる事にした。マルチ鑑定ゴーグルを取り出し、扇子を鑑定する。すると、『衝撃扇』という名前が表示された。これは扇子を広げた状態で魔力を流し込みながら仰ぐと、鉄のように重くなった風が発生するというものらしい。武器としても使えるし、防具としても使えるものだという。


 ちなみに、これはオリハルコンを薄く伸ばした板を組み合わせて出来ているので、そのまま叩いても強力な武器になるという。


 その他に三本の上級治癒魔法薬を発見した。その後、才能の木を確認する。その木には、いくつかの実が付いていた。但し、色付いているのは一つだけ、生活魔法の実だった。


「生活魔法か。誰の才能を上げたらいいと思う?」

 俺がメティスに聞くと、アリサだと言う。

「どうしてだ?」

『アリサさんに、魔法レベルが『21』以上の魔法を習得してもらい、その魔法の魔法回路コアCを開発して欲しいのです』


「なるほど、護衛や戦闘用のシャドウパペットを強化したいと言うんだな」

『特級ダンジョンを探索するためには、必要になると思うのです』

 出雲ダンジョンでは、各層に主が居て厳しい戦いになっている。その主の魔物と戦うには、強化する必要があると考えたようだ。


 俺は納得した。これから巨獣と戦う事になったら、エルモアたちの強化も必要になるだろう。


 俺は地上に戻り、才能の実をアリサに渡した。アリサは生活魔法の才能を『B』から『A』に上げて、魔法レベルを上げる特訓を始める事にした。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 レベル上げをしている間に、六月が過ぎて七月となった。俺は魔法レベルが『28』になり、アリサは『20』になった。ちなみに、このレベル上げには千佳も参加して『19』になっている。


 魔法レベルが『20』という事は、『クローズシールド』『ニーズヘッグソード』『プロジェクションバレル』『ジェットフレア』『ハイパーバリア』などを習得できるようになったという事だ。


 冒険者ギルドから、穂高ダンジョンの封鎖が解除されるという知らせと招待状が届いた。招待状と言っても、穂高ダンジョンで探索しませんかというものだ。


 今回は穂高ダンジョンへの問い合わせが多く、五十人以上が参加すると聞いた。前回は二十人ほどだったので、倍以上という事になる。日本からは高瀬たかせ長瀬ながせも参加するそうだ。長瀬はようやく百位以内になれたらしい。


 封鎖解除の日、準備をして穂高ダンジョンへ向かう。ダンジョンハウスで高瀬を見付けた。

「高瀬さんも、神の秘宝を狙っているんですか?」

 一段と逞しくなった高瀬が頷いた。

「今回は、全員がそうじゃないか。特に外国から来た連中は、目の色が変わっているぞ」


「なぜでしょう。ダンジョン神が自ら創ったと言われる魔導武器は、いくつか発見されています。それらも秘宝じゃないんですか?」


「違う。神にとって、それは単なる武器であって秘宝じゃない。今回は神が秘宝だと認めているものが、手に入るかもしれないと言われているんだ」


 碑文に書かれていた文章から、神自身が秘宝だと認めていると読み取れるらしい。

「その秘宝は何層にあるかが、問題ですね」

「十二層にドラゴンが守っているところがあるんだが、そこじゃないかと噂になっている」


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