第636話 出雲ダンジョン四層

 近藤支部長からの電話で、穂高ダンジョンの件を知った。詳しい事を聞きたいと思った俺は、冒険者ギルドへ行く。支部長室を訪れた俺を見て、支部長が溜息を吐く。


「警備員を置けと言ったのに、と言われそうだな」

「そんな事は言いませんよ。それより詳しい状況を教えてください」

「いいだろう」


 穂高ダンジョンは、朝と夕方に異常がないか職員が見回っているらしい。その日の朝に定例の見回りに行った時、穂高ダンジョンの入り口がある山のふもとに、見知らぬ車が停まっていた。不審に思った職員は、山道を登って入り口まで行ったそうだ。


 すると、ダンジョンの扉が爆破されたかのように破壊されていたという。

「たぶん攻撃魔法で、扉を破壊したのではないかと思う」

 侵入者の一人は、攻撃魔法使いという事だな。


「その後、職員たちが入り口を見張っていたが、誰も戻って来なかったそうだ」

 車が残っているので、侵入者はダンジョンから戻っていないと冒険者ギルドは判断した。その後、職員は交代で三日間待っていたのだが、侵入者は戻って来なかったという。


「神の秘宝について、支部長は何か聞いていますか?」

「元々穂高ダンジョンには、神が使っていた神鏡があるという噂があった」

「神の鏡ですか? どんなものなんでしょう?」

「全宇宙を見渡すために使用する鏡だと言われている」


 全宇宙を見渡す? そんな事ができるのだろうか? ダンジョン神にとって、全宇宙とは何を意味するのか分からない。全ての銀河を含めた全宇宙なら、桁違いに凄い能力を持つ宝具という事になる。


「天文学者なら、命を賭けても手に入れたいものでしょうが……」

 冒険者が全宇宙を見渡す神鏡を命を賭けても欲しいと思うだろうか? その疑問を支部長に尋ねる。

「いや、天文学者でなくとも、神の秘宝は手に入れたいと思うだろう」


 支部長はオークションに出せば、一生豪遊できる金が手に入ると言う。ただ邪神とは全然関係のない秘宝なので、邪神碑文に刻まれていた神の秘宝とは違うような気がする。


 残された車を調べても、侵入者の手掛かりは得られなかったらしい。俺は七月になったら、穂高ダンジョンを探索する事にした。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 穂高ダンジョンの件は気になったが、封鎖中ではどうしようもないので『アクアスーツ』を完成させ、出雲ダンジョンの海を探索する事にした。


 狙いは海に隠されている宝箱である。ついでに海中での戦闘に慣れようと考えていた。相手がシャークタートルとライフルフィッシュになるので、それほど苦戦する事はないだろう。


 『アクアスーツ』を発動した俺は、三層の海に飛び込んだ。ダンジョンの海は、それほど深くないものがほとんどである。この海も例外ではなく、深い場所でも三十メートルくらいしかないようだ。


 ネレウスと一緒に海中を探索した俺は、一つ目の宝箱を発見した。但し、その周りにはシャークタートルが三匹ほど泳いでいる。俺はネレウスに手で合図して戦闘を開始した。


 ネレウスはエクスカリバーを手に持ち戦い始め、俺はオムニスブレードを使う。オムニスブレードは四つのスイッチが付いており、それを操作する事でちょうど良い長さのエナジーブレードを作り出す仕組みになっていた。


 俺は二つ目のスイッチを押した。すると、長さ五メートルほどの緑色に輝く刃が神威エナジーにより形成された。その神威エナジーは、オムニスブレードの本体にあらかじめ溜め込んだものを使用している。満タンにしておくと三十分ほど戦えるようだ。


 シャークタートルが突進してきた。それを横に躱しながら、エナジーブレードで背中を斬り付ける。すると、簡単にシャークタートルが真っ二つとなって消えた。魔石が沈み始めたので急いで回収。次の敵を探したが、残りはネレウスが倒していた。


 俺は宝箱に近付いた。そして、罠がないか調べてから慎重に蓋を開ける。罠はなかったようだ。中に入っていたのは、ショートソードだった。


 俺は海面に浮上し、装甲ボートを出した。この装甲ボートは海の上で何か作業をする時に使おうと思って購入したものだ。最高速度は時速四十キロほどしか出ないが、とにかく頑丈というボートだ。


 装甲ボートに乗った俺は、マルチ鑑定ゴーグルを取り出してショートソードを鑑定した。すると『モラルタ』と表示された。ケルト神話に出てくる剣で『大きな怒り』を意味しているという。


 伝説級の魔導武器で、魔力を流し込みながら振ると五メートルほどの魔力刃を発生させるというショートソードだ。これはモイラに使わせると良いかもしれない。


 その後、探索を続けて二つの宝箱を発見した。それぞれに入っていたのは、不変ボトルと『呂布の指輪』だった。『呂布の指輪』は筋力を八倍まで強化する魔導装備である。


 それから四層への階段があるという海の中の窪地へ向かう。その窪地に潜ると海底トンネルがあり、その中を奥へと進んだ。ネレウスも同行しており、先頭を進んでいる。


 海底トンネルが上に向き始め、そこを進むと海面に出た。そこから先は海水がないようなので、『アクアスーツ』を解除して、ネレウスは影に戻してエルモアを出す。


『あの海には、まだ宝箱があると思いますが、良いのですか?』

「水中戦の訓練をしながら探す事にするよ。それより四層を確かめよう」

 トンネルの先に階段があり、そこを下りると目の前に森が広がった。何だか暑い、気温が高いようだ。


『森というより、ジャングルですね』

「そうだな。ここは猿系の魔物が多いらしい」

 出雲ダンジョンは八層まで攻略されており、冒険者ギルドに八層までの資料がある。


 ここで最初に遭遇したのは、金毛コングと呼ばれている大猿の魔物だった。体長が四メートルほどで、金色の毛に覆われている。この金色の毛が曲者で、魔法を防ぐ高い防御力を持っているらしい。


 但し、神剣グラムや光剣クラウ・ソラスなどで攻撃すると、切り裂かれて死ぬ。俺は神剣グラムを取り出して構え、金毛コングと戦い始めた。


 金毛コングは金属製の棍棒で襲ってきた。その攻撃を避けて神剣グラムを横薙ぎに振り抜く。金毛コングの毛が切れて周りに飛び散ってキラキラと輝く。同時に金毛コングの胴から血が噴き出した。


 金毛コングが地面に倒れ、そのまま消える。次に遭遇した金毛コングに五重起動の『ブレード』を発動して斬り付けた。D粒子で形成された刃が金毛に弾かれた。


『あの金毛は、魔力を弾くようです』

 メティスが分析して報告する。空間振動波はどうだろうと思い、『クラッシュソード』の空間振動ブレードで攻撃すると、空間振動波の刃が金毛コングを真っ二つにした。空間振動波は普通に効果があるようだ。


 その後、ソルジャーコングやレッドコングとも遭遇して戦ったが、手子摺てこずる事もなく倒した。そして、四層の奥まで到達した時、地面が揺れる振動を感じた。


『何でしょう?』

「確かめに行こう」

 俺とエルモアは、なるべく気配を消して奥に向かった。そこで遭遇したのは、体長七メートルもありそうな巨大な猿型魔物だった。真紅の毛で全身が覆われ、手には大きな戦棍を持っている。


『クリムゾンコングですね。……あいつの後ろにあるのは?』

 たぶん四層の主であるクリムゾンコングの背後に、一本の木があった。それに見覚えがある。

「まさか才能の木か?」

『そうらしいです。実が生っていますよ』

 冒険者ギルドの資料には、四層に才能の木があるという記録はなかった。新情報なのだろう。


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