第615話 オートランチャー

 励魔球を組み込んだ『ハイパーバリア』『フライトスーツ』『クラッシュサーベル』は、励起魔力でコーティングしているので、励起魔力を放出できなくなるまで消える事はない。ただ励起魔力をコーティングしたせいで、<ステルス>を付与したフライトリーフ以外は、少し青みを帯びた色になっている。


 実際の空中戦を考えた場合、『クラッシュサーベル』を使うようなチャンスというのは、最後の方になると思う。最初の頃に使えば、ブレスなどで迎撃されるような気がする。但し、ワイバーンくらいだったら、最初から『クラッシュサーベル』で仕留められそうだ。


 ちなみに、『クラッシュサーベル』を習得できる魔法レベルは『22』になるようだ。メティスが気になった事を質問した。

『空中戦で戦う魔物が、邪神眷属だった場合は、どうするのですか?』


「そうだな。仕留められるとしたら『ホーリークレセントⅡ』だけど、それでダメなら光剣クラウ・ソラスのフォトンブレードで斬るしかないな」


『空中戦でも使える邪神眷属用の魔法も、用意しておく必要があると思います』

 メティスの意見を聞いてもっともだと思った。空中戦でも邪神眷属にも使える魔法を考える事にしよう。元々空中戦用の魔法としては、スピードがある航空機関砲のような魔法か、ミサイルのような追尾機能がある魔法が有効だろうと考えていた。


 ただD粒子の感知力を使った追尾機能は、近付かないとロックオンできない。なので、<磁気制御>と<電磁波感知>を使って、追尾機能を構築しなければならない。時間が掛かりそうだ。


 という事で、まず航空機関砲のようなものを考えてみた。その事をメティスに話す。

『航空機関砲というと、連続で発射が可能という事ですか?』

「そういう事だ」

『しかし、周囲にあるD粒子は有限です。連続発射できるほど集まるでしょうか?』


「それなら攻撃魔法のように、魔力、いや励起魔力を砲弾にして撃ち込むというのは、どうだろう?」

『なるほど、励起魔力の砲弾なら、D粒子を気にしなくても済みますね』

「問題は、どんな特性を付与するかだ。<励起魔力>と<聖光>は必須として、他には何が必要だろう?」


『<爆轟>と<貫穿>、<ベクトル加速>は、必要でしょう』

 それを聞いて、俺は納得した。


 賢者システムを使って新しい魔法の構築を始める。D粒子の形成物は励魔球を組み込んだピストル型のグレネードランチャーのような形に決定。撃ち出す砲弾は、直径五センチの聖光励起魔力弾だ。


 <聖光>と<爆轟>を組み込もうとした時、そのままではダメな事が分かった。D粒子一次変異の特性は、<空間振動>の時と同じように改造が必要らしい。俺は<聖光>と<爆轟>を改造した。D粒子だけでなく励起魔力も使えるようにしたのだ。


 それぞれの特性を新しい魔法に組み込み、魔法の構築が終わった。この魔法を習得するのに必要な魔法レベルは『24』になったようだ。


 俺はメティスに新しい魔法について説明した。

「引き金を引けば、聖光励起魔力弾が連続で発射されるようになっている」

『聖光励起魔力弾の速度は、どれほどになるのです?』

「賢者システムのシミュレーターを使って計算してみたんだけど、音速の三倍くらいになりそうだ」


 俺は鳴神ダンジョンで試す事にした。新しい魔法を試す時に、いつも利用している二層へ行く。二十メートルほどの高さがある岩山を標的と決めてから、新しい魔法を発動する。


 D粒子が集められ、一部が励魔球になった。それから残ったD粒子と励魔球でピストル型グレネードランチャーのような武器が形成される。励魔球はグレネードランチャーの後部に組み込まれる。


 この魔法は『オートランチャー』、形成されたものは『グレネードガン』と呼ぶ事にした。青く輝くグレネードガンの銃口を岩山に向けて引き金を引く。


 ドドドドッという感じで、グレネードガンから聖光励起魔力弾が連続で発射された。ほのかに青く輝く励起魔力のグレネード弾が、岩山に向かって高速で飛び命中する。


 岩山の表面に八十センチほどのクレーターが出来て、聖光励起魔力弾が岩山に深くめり込んだ状態で爆発した。連続した爆発音が響き渡り、岩山の上部が崩壊して高さが半分ほどになった。


「想像以上の威力だ」

『しかし、高い魔法耐性を持つ羽根で守られたジズには、効果が薄いかもしれません』

 聖光励起魔力弾を同じ箇所に撃ち込めば、羽根を除去して本体に撃ち込めるかもしれない。だが、相当な時間が掛かりそうだ。


 俺は聖光励起魔力弾が尽きるまで岩山を撃ち続けた。五十発ほどで弾切れとなってグレネードガンが消える。


 標的にした岩山は、粉々になって消えた。

『凄まじい威力です。フェイロンだけなら、『オートランチャー』で仕留められるのでは?』

「そうかもな。次は『クラッシュサーベル』を試してみよう」


 『クラッシュサーベル』を発動すると、青く輝く柄の部分が形成され励魔球から発生した励起魔力で空間振動波の刃が形成される。


 先ほどとは別の岩山に向かって空間振動波の刃を振り下ろす。岩山に幅五センチほどで長さ八メートルの傷が刻まれた。何の手応えもなく、あっさりと切り裂かれた岩山を見て頷く。


「威力は『ニーズヘッグソード』と変わらないように見える」

『ジズ用としては、『クラッシュサーベル』が有効かもしれません』

 空間振動波が巨獣に有効かどうかは、試してみないと分からない。だが、ジズは『ブラックホール』の攻撃を受けて少しだがダメージを受けていた。ジズなら空間振動波も効果があるのではないだろうか。


 二つの魔法を最終的に確認するために、もう一度出雲ダンジョンへ行く事にした。また『フライトスーツ』で出雲まで行く。ダンジョンに入って一層を奥へと進むと、三匹のレッサードラゴンと遭遇した。


「ちょうどいい。『クラッシュサーベル』を試す」

 俺は『クラッシュサーベル』を発動し、形成された自在振動サーベルの柄を手に取った。長大な刃を持つ武器は、少し扱いづらい。


 レッサードラゴンから十メートルの距離まで近付いた俺は、空間振動波の刃を上に向けて八相に構えると、それぞれのレッサードラゴンに向けて一撃ずつ振り下ろす。


 その一撃でレッサードラゴンは死に一個のマジックポーチⅠと魔石が残った。『クラッシュサーベル』の魔法を解除し、マジックポーチⅠと魔石を拾い上げて仕舞う。


 それから二層へ下りると、『フライトスーツ』を発動してフェイロンのところまで飛んだ。あの丸い形の岩山が目に入った時、空中でフェイロンと遭遇する。


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