第616話 二度目のフェイロン戦

 俺とフェイロンの二度目の戦いで、先手を取ったのはフェイロンだった。いきなり超音波を発生させたのだ。大口を開けた瞬間に逃げようとしたが、間に合わなかった。


 俺は両手以外をフライトリーフで覆っているが、口と鼻の部分だけ落ち葉が重なっているような構造になっている。呼吸ができるように隙間がいているのだ。


 そこから超音波が侵入し、脳を揺さぶった。一瞬クラッとしたが、すぐに超音波の範囲から出て正常に戻った。


「ふうっ、危なかった」

 本来ならフェイロンの強烈な超音波を浴びれば気を失うのだが、フライトリーフにより超音波の大部分が吸収されてしまったらしい。


 隙間から少しだけ入った超音波を浴びただけで気を失いそうになったのだから、直接フェイロンの超音波を浴びたら、勝負がついていただろう。


 俺が逃げてフェイロンが追い掛けるという状況になった。逃げながら『オートランチャー』を発動する。空中にグレネードガンが形成されると、そのグリップを握る。ちなみに、形成中から俺がグレネードガンのグリップを握るまでは、常に右手の傍にあるようにグレネードガンが空中移動している。


 俺は下を向いて飛んでいたのだが、一瞬だけ加速を止めた。その瞬間、身体を締め付けていたフライトリーフが締め付けるのをやめて身体が自由になる。


 身体を反転させて仰向あおむけになり、上半身だけ起こした状態になりグレネードガンでフェイロンを狙う。その巨大な頭を狙って引き金を引いた。


 グレネードガンの銃口から連続で聖光励起魔力弾が撃ち出され、フェイロンへ向かって飛ぶ。それに気付いて急旋回するフェイロン。


 俺はグレネードガンの向きを調節してフェイロンを捉えようとしたが、聖光励起魔力弾は外れた。『オートランチャー』の発動、俺が飛行姿勢を変えた事、これらで何か攻撃が来るとフェイロンは予想したのだろう。回避されたのは仕方ない。


 俺は離れていくフェイロンを見ながら、どうやって追い込むかを考えた。フェイロンは近付くと超音波を発するので、近付くのは危険だった。フェイロンは励起魔力を含めた魔力に敏感なようだ。なので、両手だけしか見えていないはずの俺に気付いたのである。


 俺はフェイロンを追って飛んだ。まだグレネードガンは持ったままである。フェイロンは時速三百キロほどで飛んでいるが、俺は最高時速九百キロで飛べる。すぐに追い付いた。


 フェイロンの真後ろを取った俺は、加速を止めて慣性で飛んでいる状態でフェイロンを狙ってグレネードガンの引き金を引く。


 連続で聖光励起魔力弾が撃ち出され、フェイロンの後を追い掛ける。フェイロンは旋回し、聖光励起魔力弾から逃れようとした。俺は右にグレネードガンの銃口を向けた。


 それは賭けだった。フェイロンが右に旋回すれば、聖光励起魔力弾が命中しただろう。だが、フェイロンは左に旋回した。そのせいで聖光励起魔力弾が的外れな方向に飛ぶ。


 グレネードガンが消えた。合計で五十発を撃ったようだ。思っていた以上に、空中戦は難しい。フェイロンが旋回して戻ってきた。また超音波を使うつもりなのだろう。


 俺は右旋回しながら逃げる。俺の後ろでフェイロンが超音波を放った。超音波はラッパ状に広がり、俺の左手を掠めた。頭に浴びた時とは違い、左手はビリッとしびれただけだった。


 俺とフェイロンは五分ほど空中戦を続けたが、勝負がつかない。俺はもう一度『オートランチャー』を発動し、グレネードガンを手に取った。


 スピードを活かしてフェイロンの背後を取る。そして、加速を止めてグレネードガンでフェイロンを狙い引き金を引いた。聖光励起魔力弾が撃ち出され、俺はグレネードガンの銃口を左に向けた。


 フェイロンはまた左に旋回する。これはフェイロンの癖らしい。聖光励起魔力弾が吸い込まれるようにフェイロンの背中に命中して爆発する。


 一気に五十発を撃って、そのうちの数発が命中したようだ。フェイロンが空中で苦しそうに藻掻き始めた。俺は『クラッシュサーベル』を発動し、自在振動サーベルを右手に持つと苦しんでいるフェイロン目掛けて全速で飛翔した。


 手に掛かる風圧が凄かったが、手袋と『ヘラクレスの指輪』によって筋力を上げる事で耐え、自在振動サーベルの刃でフェイロンの首を刎ねる。


 『クラッシュサーベル』を解除して地上へ下りた。影からエルモアと為五郎を出してドロップ品を探させる。


「はあっ、空中戦はキツイ」

『ドロップ品を見付けました』

 エルモアが白魔石<大>と剣を持って戻ってきた。

「剣か。特級ダンジョンのフェイロンを倒してドロップしたんだ。魔導武器なんだろうな」


 俺はマルチ鑑定ゴーグルを取り出して調べた。すると、『聖剣エクスカリバー』と表示された。

「うわっ、エクスカリバーだよ」

『ついに出ましたね』


 エクスカリバーはダンジョンごとに様々な機能が組み込まれると聞いている。確認すると、このエクスカリバーには、アメリカのA級魔装魔法使いであるジョンソンが持つジョワユーズと同じような次元断裂刃を形成する機能が付いているらしい。


 神話級の魔導武器のようだ。特級ダンジョンで大物を倒してドロップする魔導武器は、神話級が普通なのだろうか? もしかすると、神話級を超えるような魔導武器も出てくるかもしれない。


「神話級を超えるような魔導武器というのが、存在すると思うか?」

『そうですね。地神級や天神級という魔導武器が存在するという噂があるようです。これはダンジョンが創ったものではなく、ダンジョンの管理者が創ったと言われているものです』


 地神級や天神級は、正式に確認されたものはない。ただA級ランキング一位だったクライヴ・ヒュームが、神話級を超える魔導武器を持っていたという噂がある。


 カナダ出身のヒュームは、世界中のダンジョンで活動していたのだが、俺は会った事がない。世界のトップ冒険者だったので会ってみたかったのだが、会う機会が来る前に亡くなったらしい。


 そんな事を話していると為五郎が、斧を持って来た。その斧をマルチ鑑定ゴーグルで調べると『リサナウト』という巨人の贈り物という意味を持つ魔導武器の斧だと判明した。


 このリサナウトは誰が使っても巨人が使った場合と同じ威力を発揮するという機能を持っているようだ。しかも、投げると自動的に戻ってくるらしい。


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