第612話 出雲ダンジョンの二層

 ざっと目に入っただけで、七匹のブルードラゴンフライが飛んでいる。俺は一番近い巨大トンボに向けて飛ぶと、『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールを放った。


 すると、ブルードラゴンフライがD粒子振動ボールに気付いてスーッと避けた。

「トンボのくせにD粒子に気付くのか。仕方ない」

 俺は『ガイディドブリット』を発動し、ブルードラゴンフライの頭にロックオンしてD粒子誘導弾を飛ばす。ブルードラゴンフライは前回と同じように避けたが、それを追い掛けるようにD粒子誘導弾が軌道を変える。


 巨大トンボは逃げられず、D粒子誘導弾がその頭に命中した。

『追尾機能は便利ですが、弱点がありますからね』

「分かっている」

 追尾機能を使う場合、標的をロックオンする必要がある。それもD粒子の分布で標的を識別する仕掛けなので、D粒子の分布パターンが確認できる距離まで近付かなければならない。


 遠距離からロックオンできれば、もっと便利になるだろう。但し、そのためにはD粒子ではなく別の何かで識別する必要がある。


 俺は飛んでブルードラゴンフライに近付き、『ガイディドブリット』で倒すという事を繰り返した。最後の二匹となった時、巨大トンボが口から炎を吐き出した。


 火炎放射器から噴き出した炎のようだ。俺は反射的にって炎を避けると同時に、後方へ飛ぶように飛行制御する。その瞬間、海老反えびぞりした状態の身体をフライトリーフが固定化し、その状態のまま後方へ飛んだ。


「これはちょっとカッコ悪い」

 まだまだ空中戦に慣れていないという事だろう。残り二匹を始末してから、俺は着地して『フライトスーツ』を解除した。


『空中戦だと、魔石を見失う事が多いですね』

「そうだけど、こればかりは仕方ない」

 『マジックストーン』で捜しても見付からない場合は、諦めるしかなかった。


「次はワイバーン狩りだな」

『ワイバーンにも『ガイディドブリット』を使うのですか?』

「威力を気にしているのか?」

『『ガイディドブリット』だと、ぎりぎりワイバーンを倒せるかどうかです』


 今まで空中戦用の魔法は『サンダーソード』くらいしか創らなかったので、必要かもしれない。少なくとも巨獣ジズと空中戦をするなら必要だろう。


「メティスは、空中戦用の魔法を創るべきだと思うか?」

『そうですね。ワイバーンは今までの生活魔法で仕留められますが、飛竜のフェイロンは飛翔速度が速いので難しいかもしれません』


 但し、フェイロンが真正面から向かってくるような魔物だったら、簡単に仕留められるだろう。だが、逃げ回りながら反撃するような魔物なら、仕留めるのは難しい。


 生活魔法の射程は三百メートル以下というものが多い。秒速八十~百メートルで飛翔する魔物が逃げれば、三、四秒ほどで射程外になってしまう。


 俺は影からエルモアと為五郎を出して二層の奥へと進む。二十分ほど歩いたところで、ワイバーンの巣がある岩山を発見した。


『岩山に宝箱があります』

 メティスの言葉で岩山に注意を向けると、中腹に箱のようなものを見付ける。

「面倒な場所に……」

 その岩山には六匹のワイバーンが巣を作っていたのだ。


 一匹のワイバーンが巣を飛び立ち、俺たちへ向かってきた。俺は『バーストショットガン』を発動し、三十本の小型爆轟パイルを撃ち放つ。


 小型爆轟パイルに気付いたワイバーンが、回避しようと旋回を始めた。だが、タイミングが遅く二本の小型爆轟パイルがワイバーンに命中する。


 爆発が起こり、ワイバーンが吹き飛び地面に落下した。それを見ていたワイバーンたちが一斉に飛び立つ。俺は素早く『ホーリークレセント』を発動し、聖光分解エッジで地面に落ちたワイバーンの首を刎ねる。


 四匹のワイバーンが一斉に襲って来る動きを見せたので、俺は『フライトスーツ』を発動し、真上に飛び上がった。三十メートルほど上空で停止すると、ワイバーンの動きを観察する。


 ワイバーンは俺を見失ったようだ。<ステルス>の効果が発揮されているのだろう。俺は神剣グラムを取り出した。エルモアたちから見れば、神剣グラムだけが空中に浮いているように見えるはずだ。


 俺はワイバーンたちに向かって飛んだ。その中の一匹とすれ違いざまに神剣グラムで首を切り裂いた。時速三百キロほどのスピードでワイバーンの首に当たった神剣グラムの刃が首を切断した。その巨体が消え、魔石が地面へ落下する。下ではエルモアたちが魔石を回収しているようだ。


 俺はワイバーンたちを追い掛け、次々にその首を刎ねた。そして、最後に残った一匹に向かって『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールを放つ。


 D粒子振動ボールは気付かれて簡単に避けられた。スピードが遅すぎるのだ。今度は近付いて『ガイディドブリット』を発動し、ワイバーンの頭にロックオンしてD粒子誘導弾を飛ばした。


 それに気付いたワイバーンが逃げる。『ガイディドブリット』の射程である三百メートルを、ワイバーンが逃げ切った。飛翔している途中でD粒子誘導弾が消えるのを見た俺は溜息を吐く。


「射程とスピード、それに追尾機能が必要だな」

 俺からの攻撃が途絶えたので、ワイバーンがUターンして戻ってきた。俺に反撃しようと考えているのだろう。


『このワイバーンは、鶏ほどの脳しか持っていないようですね』

 メティスが辛辣しんらつな事を言うのを聞きながら、俺は『サンダーソード』を発動し、D粒子サンダーソードを飛ばした。D粒子サンダーソードは稲妻へと変化してワイバーンに突き刺さり、その全身を駆け抜ける。


 地面へ落下したワイバーンは、為五郎にトドメを刺された。俺は岩山の中腹に着地すると、宝箱をマルチ鑑定ゴーグルで調べる。


 罠があるという表示はなかったが、特級ダンジョンの宝箱なので慎重に開ける。罠はなく中には一冊の書籍が入っていた。もしかして、魔導書かと思って手に取ったが、違ったようだ。


 魔法文字で書かれたタイトルを読むと、『神務記』と読み取れた。岩山を下りてエルモアたちと合流する。


『宝箱には何が入っていたのです?』

「本だ。『神務記』というタイトルだった」

 メティスが『神務記』を読みたがったので渡す。


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