第605話 ガルグイユゾンビ

「厄介なアンデッドが居るんだろうな」

 俺が呟くと、ジョンソンが頷いた。あれっ、日本語で言ったのに。

「ジョンソンさんは、日本語が分かるんですか?」

「ああ、七年ほど前に、日本のダンジョンを探索した」


 その時に日本語を覚えたようだ。ジョンソンは五ヵ国語が話せるらしい。俺もフランス語かイタリア語を勉強しようかな。


 廃墟の町を奥へと進むと、壊れた家からスケルトンドッグの群れが現れた。スケルトンドッグは体長四メートルほどの犬型スケルトンである。その牙には毒があり、危険な魔物だ。


 群れなので全員で戦う事になった。その数は十六匹、一人四匹ずつ倒せば良いという計算だ。一匹のスケルトンドッグが飛び掛かってきた。俺は五重起動の『ホーリープッシュ』を発動し、聖光プレートを大きく口を開けた頭蓋骨に叩き付けた。


 聖光プレートに撥ね飛ばされた頭蓋骨は宙を舞い、その代わりに別のスケルトンドッグが襲い掛かってきた。俺は神剣グラムを抜いて頭をかち割る。


 次の瞬間、二匹のスケルトンドッグが同時に跳躍して向かってくる。俺は『ホーリーソード』を発動し、聖光ブレードを横薙ぎに振り抜く。一匹は頭が真っ二つになり、もう一匹は肩から胸を大きく切り裂く。


 最初に頭蓋骨だけ弾き飛ばしたスケルトンドッグの頭が、地面で胴体を呼んでいるようにカクカクと口を開け閉めしているのが目に入り、神剣グラムで刺し貫いてトドメを刺した。続いて肩から胸を切り裂いたスケルトンドッグにもトドメを刺す。


 周りを見ると、ほぼ終わっていた。オニールが最後の一匹に『ショットガン』を使い、ばら撒いた魔力弾でボロボロにして仕留めた。


「皆、怪我はないか?」

 ハインドマンが尋ねると、全員が怪我はないと返事する。

「このチームに、これくらいで怪我するような者は居ないよ」

 ジョンソンが笑いながら言う。


 魔石を回収してから先に進む。俺はハインドマンをチラッと見た。仏頂面で何を考えているか読み取れない男だが、全員に気を配っているらしい。


 ステイシーは調査チームのリーダーにハインドマンを指名した。経験とA級ランキングを考えれば、ハインドマンしか居ないので当然だろう。リーダーとしての自覚があるので、いろいろと気配りしているようだ。


 D粒子センサーが何か巨大なものが近付いてくるのを感知した。

「待ってくれ。何か大きなものが、向こうから近付いてくる」

 俺は右手の方を指さした。他の三人が右手の方へ目を向ける。


「何も感じ……待て、これは……」

 ハインドマンが魔力的な何かを感じて集中する。ジョンソンが顔を歪めて、自慢の剣であるジョワユーズを抜いた。


「クソッ、嫌な予感がしてきたぜ」

 ジョンソンの言葉を聞いたオニールは、魔導装備らしい指輪を取り出して指に嵌める。


「見えた」

 ジョンソンの声と同時に、巨大なドラゴンが姿を現した。俺は正体を確かめるためにマルチ鑑定ゴーグルを取り出して装着する。


 その状態で巨大ドラゴンを見ると、『ガルグイユゾンビ』と表示された。しかも、<邪神の加護>という表示も見える。


「さすが特級ダンジョン。いろいろと用意してくれたようだ」

 日本語が分かるジョンソンが俺へ視線を向ける。

「どういう意味だ?」

「あれはガルグイユゾンビ、しかも邪神眷属です」

 俺は英語で情報を伝えた。それを聞いたハインドマンが顔をしかめる。ジョンソンは唇を噛み締めてガルグイユゾンビを睨む。


 オニールの顔が強張っていた。たぶん邪神眷属と戦うのは初めてなのだろう。

「間違いないのか?」

「マルチ鑑定ゴーグルで確認した。間違いない」


 ガルグイユゾンビを観察すると、一定の範囲をうろうろしている。獲物を探しているというより、何かを守っているようだ。


「逃げるという手もあるが、どうする?」

 俺が提案すると、ハインドマンが苦虫を噛み潰したような顔になる。

「あいつは四層への階段近くに居座っているようだ。倒さなければ先に進めないのなら、全力で倒す」

 ハインドマンがきっぱりと言い切った。三人とも邪神眷属にダメージを与える手段を持っているのだろう。


 フランスで伝説となっている『ガルグイユ』という名前を持つドラゴンが、ゾンビ化した上に邪神眷属にもなっているのだ。倒すのが難しい化け物なのは間違いない。


「戦うのなら、援軍を出すか」

 ジョンソンが『何を言っているんだ?』という顔をする。

「援軍? 何の事だ?」

「シャドウパペットです」


 俺は影からエルモアと為五郎を出した。それぞれのコア装着ホールには『ホーリーキャノン』と『ホーリークレセント』の魔法を魔法回路コアCにしたものが、セットされているので邪神眷属とも戦える。


「噂で聞いた事がある。戦闘用シャドウパペットというものだな?」

 ハインドマンがエルモアたちを見ながら言った。

「そうです。たぶんA級冒険者に匹敵する実力があります」


「そいつは頼もしい。だが、相手は邪神眷属だぞ」

「問題ありません。攻撃手段を持たせています」


 ハインドマンは納得して頷き、戦う準備をするように指示する。準備を終えた俺たちは、ガルグイユゾンビに向かって進んだ。俺の指もそうだが、攻撃魔法使いの二人の指には数多くの指輪がきらめいている。


 攻撃魔法使いの優秀さは、指に嵌めている指輪の質で判断できると言われているほどだ。特級ダンジョンに入れるほどの攻撃魔法使いなので、凄い効果がある指輪なのだろう。


 ちなみに、俺は『効率倍増の指輪』『治療の指輪』『状態異常耐性の指輪』『ヘラクレスの指輪』『痛覚低減の指輪』『解毒の指輪』『アキレウスの指輪』を嵌めている。


 但し、これらは大物と戦う場合用なので、普段の指輪の数は少ない。そんな事を考えながら進んでいると、ガルグイユゾンビの気配が変わった。俺たちを敵だと認識して戦意が上がり、全身から殺気を放ち始めたのである。


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