第606話 ガルグイユゾンビとの戦い

 全員でガルグイユゾンビを囲むように散開した。俺は味方を攻撃しないような角度を考慮しながら、ガルグイユゾンビの側面に回り込んだ。


 近くで見るガルグイユゾンビは、首の長いトカゲのような姿をしていた。背中には大きな翼がある。そこがアイスドラゴンとは違った。


 但し、翼のあちこちに破れた箇所があり、飛べるような状態ではない。観察している間にも、ガルグイユゾンビとの間合いが縮まり、巨大で闇のように黒い目で俺たちを睨み、唸り声を上げる。それは人間に根源的な恐怖をいだかせるような声だ。


 最初にジョンソンが仕掛けた。魔装魔法で強化した筋力を使ってガルグイユゾンビの足元に飛び込むと、魔力を一気にジョワユーズに注ぎ込み次元断裂刃を形成。次の瞬間、次元断裂刃でガルグイユゾンビの足を薙ぎ払う。


 ガルグイユゾンビの足に接触した次元断裂刃が、<邪神の加護>の効果で霧散して消える。

「次元断裂刃でもダメか」

 ジョンソンは飛び退いて、ガルグイユゾンビから距離を取る。ジョワユーズの機能である次元断裂刃を試したかったようだ。


「余裕があるな」

 俺は呟いてエルモアと為五郎に合図した。エルモアと為五郎は『ホーリークレセント』を同時に発動し、聖光分解エッジをガルグイユゾンビの胸に撃ち込んだ。


 二つの聖光分解エッジはガルグイユゾンビの胸を貫通して背中から飛び出した。ゾンビでないガルグイユなら、致命傷になってもおかしくない傷だが、ガルグイユゾンビは何も感じていないように足を進める。


 ガルグイユゾンビを倒すには、首を切断するか頭を破壊するしかないようだ。オニールが得意としている『ブラックホール』を発動し、疑似ブラックホールをガルグイユゾンビの頭目掛けて放つ。


 疑似ブラックホールは<邪神の加護>の効果でダメージを与える事なく消えた。それを見たオニールが何かスラングでののしった。


 それを見たハインドマンがオニールを睨んだ。自分の得意魔法を試したいという気持ちは分かるが、ジズの調査のために魔力を温存するという事を忘れたからである。


 ジョンソンが次元断裂刃を使った時には睨まなかったのに、オニールへは厳しいなと感じた。後で知ったが、『ブラックホール』の魔力消費は俺が考えていたより多いらしい。


 ハインドマンはガルグイユゾンビから離れろと合図してから、邪神眷属用魔法である『ブレーキングイービル』を発動した。破邪撃滅弾が飛翔しガルグイユゾンビの頭に命中するか、と思った時に巨大な翼で頭を守った。


 翼に命中した破邪撃滅弾はエックス線と破邪光を発し、翼をボロボロにした。巨大な翼がボロ布のようになって地面に落下する。ガルグイユゾンビがハインドマンに向けて咆哮した。


 その凄まじい咆哮で、ハインドマンの身体が意志とは関係なく震えだす。麻痺の効果を持つ咆哮だったようだ。俺は『状態異常耐性の指輪』があるので何ともなかったが、オニールも麻痺して身体が動かないようだ。ただジョンソンは大丈夫なようで、動かなくなったハインドマンを抱え上げて逃げ出した。


 ガルグイユゾンビはオニールに視線を向ける。為五郎が走ってきてオニールを肩に担いで逃げ出す。為五郎、良い仕事をするじゃないか、と思うと同時に、俺は『ホーリークレセント』を発動し、聖光分解エッジをガルグイユゾンビの頭に向けて放つ。


 それに気付いたガルグイユゾンビが身体を捻って躱そうとした。狙った頭は外したが、聖光分解エッジは巨大な右前足を切り飛ばす。ガルグイユゾンビはバランスを崩して頭から地面に倒れて転がった。


 そこに破邪の剣であるクルージーンを振り上げたエルモアが駆け寄り、魔力を注ぎ込んだクルージーンをガルグイユゾンビの頭に振り下ろす。


 太陽のように光り輝いたクルージーンの刃が巨大な頭を切り裂く。クルージーンが破邪の剣だというのは本当だったようだ。ガルグイユゾンビは苦しげな声を上げたが、死ななかった。


 俺は『ホーリークレセント』の聖光分解エッジを頭に撃ち込んでトドメを刺した。巨大なゾンビが消えたのを確認してから、俺はハインドマンたちのところへ戻る。


「大丈夫ですか?」

 ハインドマンが頷いた。

「それにしても、ガルグイユが麻痺の咆哮を放つなんて、聞いた事がないぞ」

「ゾンビになった時に、新しく身に着けた能力じゃないですか」


「ジョンソンと君は、なぜ大丈夫だったんだ?」

「俺には『状態異常耐性の指輪』がありましたから」

「私も同じだ」

 ジョンソンも『状態異常耐性の指輪』を持っていたらしい。ハインドマンから話を聞くと、麻痺は身体が動かないだけで魔法は使えたようだ。『フライ』を使えば自分で逃げられたという。


 俺がソロで戦い『状態異常耐性の指輪』を持っていなかったら、殺されていたかもしれない。こういう時は、チームで戦う利点を感じてしまう。まあ、俺の場合はエルモアたちが居るので、ソロではないと言われてしまいそうだ。


 オニールが礼を言った。為五郎に助けられた事を感謝しているのだ。その後、ドロップ品を探し始める。紫色の魔石が見付かり、次に俺が槍を発見した。


 その槍をマルチ鑑定ゴーグルで調べると、『ヴェル』というインド神話に出て来るスカンダ神の投槍だと分かった。これも神話級である。神話級がぽんぽん出てくる特級ダンジョンは凄いと思った。但し、格は低いようだ。神槍ヴェルの格はシングルAだという。


 為五郎が剣、ジョンソンが巻物を発見した。剣を調べてみると、『フロッティ』だと分かった。ガルグイユを倒して有名になったモンタネールが所有している剣と同じものだ。これは斬ったものを冷凍する機能を持っている。


 そして、巻物は生活魔法のD粒子二次変異の巻物で、<重力遮断>という特性らしい。俺はガルグイユゾンビを仕留めた者の特権として巻物を手に入れた。


「何だか嬉しそうだな?」

 ジョンソンが俺に向かって尋ねた。

「ええ、あの巻物に描かれているのは、貴重な魔法だったんです」

「へえー、どんな魔法なんだ?」

「そうですね。飛行系の魔法です」


「飛行系の魔法なら、『ウィング』とかあるじゃないか?」

「『ウィング』は、速度や航続距離に不満があったんですよ」

「なるほど。速くて航続距離の長い魔法という事だな」


 ジョンソンは若干羨ましそうだった。俺たちは途中で遭遇したティターングールを倒しながら奥へと進んだ。そして、階段を発見して四層へ下りる。


 四層は海だった。ここの海には巨大なカジキのような魔物が高速で泳ぎ回っているという。そのランスフィッシュと呼ばれる魔物は、船で航行していると体当りしてくるので、装甲船が必要らしい。


 ここでホバービークルを使うのは危険だった。最高でも五メートルくらいの高度でしか飛べないホバービークルだと、海からジャンプしたランスフィッシュに攻撃されてしまうのだ。


 ハインドマンが所有する装甲船で海を渡り、島で階段を見付けて五層へ下りた。俺たちは特級ダンジョンの奥へと進んで、八層に辿り着く。八層は疎らにしか木が生えていない乾燥地帯だった。サボテンや低木だけしか植物はないようだ。


「ここにジズが居るという事だ。慎重に進もう」

 ハインドマンが注意すると、先頭に立って歩き出す。それから一時間ほど歩いたところで、俺たちはジズと遭遇した。


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