第604話 一層のドラゴン

 全員が一層の草原をこちらに向かって近付いてくるアイスドラゴンを見た。ハインドマンが笑いを浮かべて頷く。


「ここは、彼の厚意に甘えようじゃないか。我々はここで、お手並みを拝見しよう」

 俺の実力を見たいという事だろう。ハインドマンは見学に反対だったのかもしれない。


「ハインドマンさんが、そう言うのなら任せます」

 オニールも俺の実力を見たいようだ。そうなると、エルモアや為五郎を出して手伝わせるのはダメかな。たぶん俺の実力を見て、サポートが必要かどうかを見極めたいのかもしれない。


「二人が賛成するなら私も反対しないが、気を付けてくれ」

 心配してくれたのはジョンソンだけだった。顔はマフィアのボスのようだが、優しさを持つ男のようだ。


 俺は『ウィングボード』を発動し、D粒子ボードに乗ってアイスドラゴンへ向かった。全長十一メートルほどのドラゴンは、巨大なトカゲという感じのドラゴンで翼はなかった。その代わりに背中には大きな背びれがあり、霜が降りたように全身が白い。


 ちなみに、このアイスドラゴンは宿無しではない。この一層に定住しており、倒すとこの一層にリポップする。


 俺を睨んだアイスドラゴンが走り寄ってくる。連続で『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールをアイスドラゴンに向かってばら撒く。


 D粒子振動ボールに気付いたアイスドラゴンは、大口を開けてコールドブレスを吐き出した。霧のような白いものが勢いよく吐き出され、D粒子振動ボールが凍り付き消える。


 俺はアイスドラゴンに近付いた時、凍えるような寒さを感じた。接近戦は無理だと判断した俺は、『フラッシュムーブ』を使って三十メートルほど上空に移動。自由落下の状態で『ジェットフレア』を発動し、D粒子ジェットシェルを飛ばす。


 D粒子ジェットシェルは、途中の空気を吸い込んで圧縮空気を溜め込みながら飛翔する。一直線にアイスドラゴンへ向かって飛び、その背中に命中した。


 その瞬間、磁気が発生しアイスドラゴンを包み込む。その磁気の内側にプラズマ化した空気が流れ込んで、アイスドラゴンを超高熱で焼き焦がす。


 アイスドラゴンは藻掻き苦しんで暴れたが、高熱のプラズマはすぐには消えなかった。俺は『エアバッグ』を使って着地すると、トドメを刺す魔法を用意する。


 アイスドラゴンの真横に移動した俺は『ホーリークレセント』を発動し、聖光分解エッジを巨大で長い首目掛けて放った。二メートルほどある聖光分解エッジは、焼けただれた首を両断する。その時、体内でドクンという音がして魔法レベルが『25』に上がった。


 アイスドラゴンが消えると、白魔石<中>とイヤリング、それに真っ白な鞘に入った剣がドロップしたので回収する。イヤリングをマルチ鑑定ゴーグルで調べると、『聞き耳イヤリング』と表示された。機能は五キロ以内なら、指定した位置の音を拾って聞く事ができるらしい。


 これはどんな場合に使うものなんだ? 冒険者というより、スパイが欲しがりそうなアイテムだな。


 イヤリングを仕舞うと、マルチ鑑定ゴーグルで剣を調べる。すると、『フリーズソード』と表示された。これはアイスドラゴンの力を封じ込めた剣らしい。神話とは関係ない魔導武器だが、神話級の魔導武器だそうだ。


「お見事。さすがA級十八位だ」

 ジョンソンたちが近付いてきて声を上げた。A級なら倒せて当然の相手なので、自慢にはならないと考えながらドロップ品を仕舞う。


「さあ、行こう」

 ハインドマンが言って奥へ進み始める。このチームの中でハインドマンだけが、オカラダンジョンを探索した経験があるそうだ。


 一層にはアイスドラゴンの他にハンターサウルスやラフタートルも居たが、俺とジョンソンで倒して進んだ。階段まで辿り着くと、俺たちは二層へ下りた。


 二層は砂漠が広がるエリアだった。棲み着いている魔物は、体長五メートルのサンドスパイダーやデザートアリゲーターだそうだ。


 ハインドマンが収納リングから大型装甲車を出した。大型と言っても冒険者が使う装甲車なので、六人乗りの五トンほどのものだ。


「ちょっと待ってください。装甲車じゃない乗り物があるんですが、そっちで移動しませんか?」

 俺が待ったを掛けると、ハインドマンが首を傾げる。

「装甲車じゃないと、こういう砂漠は危ないというのは常識だ」


 言っている事は理解できるのだが、この手の装甲車で移動すると鞭打ちになりそうなほど揺れる。それが嫌だったのだ。俺はホバービークルを出して見せた。


「これは地上スレスレを飛んで移動するものです」

 俺はホバービークルに乗って、機体を浮かせた。

「本当に浮いている。面白い、乗ってみようぜ」

 ジョンソンが乗り込んできた。それを見たハインドマンも装甲車を仕舞って乗り込む。


「サンドスパイダーが飛び掛かってくる事もあるぞ。その時はどうする?」

 オニールが質問した。

「そういう時の対策もあります」

 それを聞いたオニールは渋々という感じで乗り込んだ。まだ不安らしい。


 ホバービークルが動き出すと、ジョンソンがホバービークルの操縦に興味を示した。俺は操縦の方法をジョンソンに教えながら、砂漠の奥へと飛ばす。


「おっ、サンドスパイダー。どうするんだ?」

 ジョンソンが尋ねた。その視線の先には、黒っぽい色の大蜘蛛が居る。

「大丈夫です。ホバービークルは小回りが利くんです」

 天音が開発した『フォーストブレーキ』の魔法を応用したブレーキを作動させて減速すると、右に旋回してサンドスパイダーを回避する。


「確かに小回りは利くようだが、待ち伏せされた場合はどうする?」

 オニールが確認する。少しでも不安な要素は取り除かなければ満足できないタイプらしい。きっと凄い練習量を熟し、一つ一つの攻撃魔法に習熟するのだろう。


「ホバービークルには、『ぶちかましボタン』というのが組み込まれている。そのボタンを押すと、機体の側面に触れたものを撥ね飛ばす仕組みになっているんだ」


「いいねえ。撥ね飛ばしてみようぜ」

 ジョンソンから要望があったので、次に発見したサンドスパイダーに向かって突っ込み、当たる直前に『ぶちかましボタン』を押して体当りした。


 サンドスパイダーが宙に舞い、砂漠に落下して転がる。ジョンソンは気に入ったようだ。操縦がしたいと言うので、試しに操縦させてみる。さすがA級の魔装魔法使いだ。すぐに操縦のコツを会得した。


 そして、サンドスパイダーを探して突っ込むと撥ね飛ばす。三回ほどサンドスパイダーを撥ね飛ばした時、ハインドマンがキツイ目でジョンソンを睨む。


「遊びじゃないんだぞ」

 注意されたジョンソンは、肩を竦めてサンドスパイダーを無視して先に進んだ。それから一時間ほどで三層への階段を見付け、俺たちは下りた。


 その三層は巨大な廃墟の町だった。巨人が建設した町が廃墟となったようだ。


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