第603話 巨獣ジズ調査チーム

 アリサが妙義ダンジョンで会った石見咲希という少女をバタリオンに入れたいと言うので、一度会ってから決める事にした。アリサは分析魔法使いの弟子として育てたいらしい。


 その翌々日、俺はアメリカへ出発した。フロリダのオカラ国際空港に到着すると、魔法庁の役人が待っていた。車で魔法庁の支部へ行くと、ステイシー長官と他の冒険者たちが待っていた。


 今回の作戦に参加するのは、魔装魔法使いのダリル・ジョンソン、攻撃魔法使いのカーティス・ハインドマン、そして、もう一人は攻撃魔法使いであるマルコム・オニールだ。


 ジョンソンとハインドマンは雷神ドラゴンの討伐で活躍した冒険者なので、俺も知っている。だが、オニールの名前は聞いた事がなかった。


 ステイシーの紹介では、アメリカで期待されている若手の攻撃魔法使いらしい。最近、A級二十位以内に入ったばかりだが、『ブラックホール』の使い手として知られているそうだ。


 ちなみに、俺はA級十八位になった。俺の代わりに二十位になったのが、オニールらしい。背が高くイケメンであるオニールは、A級のトップになるだろうとまで評価されている。


「長官、三人だけなんですか?」

「今回はジズの実力を試すだけです。倒すのは準備が出来てからになるでしょう」


 俺は一つ気になっていた点があったので、確かめる事にした。

「ところで、このタイミングでジズを倒そうと考えたのは、なぜです?」

 ステイシーが笑った。

「あなたと同じです。我々は邪神を倒す方法を探しているのです」


 アメリカも邪神と三大巨獣の関係を探り当てたようだ。アメリカの組織力なら、簡単な事だったのかもしれない。そう言えば、ジズの羽根、レヴィアタンの鱗、ベヒモスの牙を調合すると神薬ネクタンシアが作れるという情報もある。


「君は光剣クラウ・ソラスの持ち主だそうだね?」

 ジョンソンが俺に声を掛けてきた。

「ええ、ジョンソンさんの事も聞いていますよ。光剣クラウ・クラウの作り手だそうですね」


 それを聞いたジョンソンが顔をしかめる。

「好きで光剣クラウばかりを、手に入れた訳じゃないぞ」

「そうでしょうね」

 話してみると、ジョンソンという冒険者は面白い男だと感じた。少し鉄心と似ているような気がする。


「一つ質問してもいいですか?」

「何だ?」

「魔装魔法にジズを攻撃する手段があるんですか?」

「痛いところを突いてくるじゃないか。正直、飛んでいるジズを攻撃する方法は、魔導武器に頼るしかない」


 ジョンソンは飛んでいるジズを攻撃できる魔導武器を持っているらしい。その武器を見せてもらえるか尋ねると、見せてくれた。


 その魔導武器は『フェイルノート』と呼ばれている弓だった。その弓から放たれた矢は、普通の矢の四倍ほどの速度で飛翔し、追尾機能が付いているかのように必ず命中するらしい。ジョンソンは先端に爆薬を仕込んだ矢を飛ばしてジズを攻撃するそうだ。


 但し、ジズに命中しても軽いダメージを与えるくらいしかできない。攻撃の主力は攻撃魔法使いの二人になるだろう。


 その日、最後の打ち合わせが行われた。俺はオブザーバーとして参加して話を聞く。ジョンソンたちの目的はジズを見付け出し、衝撃波やブレスなどのジズの攻撃能力を調査するというものらしい。


 ジズの攻撃能力を調べるという事は、ジズの攻撃を受けるという事だ。俺は疑問に思った点を問う。

「ステイシー長官、ジズの攻撃をどうやって防ぐのです?」

「三人には、ジズの攻撃を避ける訓練をしてもらいました」


 魔装魔法使いのジョンソンは素早さを上げて避け、攻撃魔法使いの二人は『フライ』を使って飛んで避けるらしい。


 そのために訓練したというのだから、回避能力を相当向上させたのだろう。とは言え、本当に大丈夫なんだろうか? という疑問が湧いてくる。


 ジズの飛翔速度さえ正確に分かっていないのだから、当然の疑問だろう。ステイシーが俺に視線を向ける。

「生活魔法には、防御用の魔法がいくつかあるようですが、ジズの攻撃を受け止められるほど強力なものが、あるのですか?」


「そうですね。『マナバリア』なら普通の物理的攻撃や火炎、雷撃などを防げると思います」

 生活魔法の中で最も防御力が高い魔法は『クローズシールド』であるが、この魔法は魔法庁に登録していないので、『マナバリア』の名前を挙げた。


「なるほど、今回の調査で危機に陥ったら、グリム先生のところに避難するというのも、ありだな」

 ジョンソンが俺に視線を向けながら言った。ステイシーも俺に目を向ける。

「お願いできますか?」


 俺は頷いた。実際に目の前で死にそうな者が助けを求めてきたら、無視する事はできないだろう。

「いいでしょう。但し、初めから『マナバリア』を当てにした作戦は困ります」


 ステイシーが溜息を漏らす。

「こんな事なら、フランスのように生活魔法を奨励するんだったわ」

 その言葉を聞いてモイラの事を思い出した。

「そう言えば、モイラは元気にしてますか?」


 ステイシーの目が鋭くなる。

「ええ、元気にしてますよ。また日本で生活魔法の勉強をしたいと言っていました」

 ジョンソンが首を傾げた。

「モイラって、誰だ。女性らしいけど、美人なのか?」


「将来は美人になるかもしれませんけど、まだ子供です」

「そりゃあ、残念だ」

 それから話題がジズに戻った。それによると、巨獣は究極の宿無しだという。普通の宿無しはダンジョン内の階層を移動するだけだが、巨獣は別のダンジョンに転移するらしい。但し、地上に現れる事は滅多にないので、放置される事が多いようだ。


 最後の打ち合わせが終わり、近くのホテルで休んだ。


 翌朝、オカラダンジョンの前に着替えて集合したチームと合流し、ダンジョンに入った。

「この一層には、アイスドラゴンが居るんでしたね?」

 俺の質問にジョンソンが頷いた。

「魔力を温存したいから、アイスドラゴンとは遭いたくないんだが」


 その会話が言霊となって、アイスドラゴンを惹き寄せてしまったようだ。遠くにアイスドラゴンの姿を見たオニールが、俺とジョンソンを睨んだ。


 ジョンソンが俺に顔を向ける。

「偶然だよな?」

「もちろん、偶然です。ただ三人が魔力を温存したいというなら、俺が倒しましょうか?」


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