第579話 オーガ戦隊
オークゾンビを倒した由香里たちは、一層の奥へと進んだ。
「ねえ、由香里。どうして病院に勤める事に決めたの?」
天音が質問した。
「あたしは医療魔法士よ。病院に勤めるのは当然でしょ」
「でも、冒険者になるという道も有った」
「ダンジョンでの活動をやめるつもりはないけど、それだけじゃ満足できないの。何か人の役に立つ仕事をしたいと思ったのよ。天音だって、工房を立ち上げるんじゃない」
「まあね。千佳はどうするの?」
「私は御船流剣術を発展させて、それを日本中に広めるつもりよ」
それを聞いて天音が頷いた。
「ある意味、グリム先生に似ているかな」
「お客さんよ」
千佳が魔物が近付くのに気付いて声を上げる。その魔物というのは、猪系魔物がスケルトンになったアンデッドでボアスケルトンと呼ばれている。全長が三メートルほどあり、凶悪な牙で由香里たちを狙って走り出した。
天音が『ティターンプッシュ』を発動する。ボアスケルトンの突進を止めたいだけなので、多重起動はなしだ。ティターンプレートが飛翔し、ボアスケルトンと衝突。ボアスケルトンの突進エネルギーを吸収し叩き返すと、ボアスケルトンの巨体が宙を舞う。
地面に叩き付けられたボアスケルトンに由香里が駆け寄り、『シャインブロー』を発動し銀色の光でボアスケルトンを仕留めた。由香里たちは、同じようにして六匹のアンデッドを仕留めて二層へ下りる。
二層は荒野だった。岩と土だけの場所に巨大蛇のゾンビやスケルトンがうろついていた。それを見た天音が顔色を変える。
「ここは『ウィング』で飛んで、通過しましょう」
他の二人も賛成した。冒険者ギルドで地図を買ったので、階段の場所は分かっている。由香里たちはD粒子ウィングで階段まで行って三層へ下りた。
三層は村程度の規模の廃墟だった。そこで遭遇したアンデッドは、多数のスケルトンソルジャーである。バトルアックスを持った骸骨を一体ずつ倒すのは面倒そうだ。
「ねえ、生命魔法には範囲攻撃の魔法とかないの?」
千佳が尋ねた。
「有るけど、範囲が直径二十メートルくらいしかないから、一体ずつ倒すしかないでしょ」
ここのスケルトンソルジャーは、一体ずつふらふらと歩いているので集団で仕留めるというのは難しかった。
「それじゃあ、私と天音でスケルトンソルジャーを引っ張ってくるから、ここで待っていて」
千佳は天音に合図すると、賢者モイラが創った『ウィングボード』を発動し、D粒子で形成された空飛ぶスケートボードに乗って飛び始めた。
「それいいね」
天音も真似て空飛ぶスケートボードで移動を開始する。由香里は友人二人が村の中心部へ向かうのを見守った。それから十五分ほどした頃、二つの集団が由香里のところへ向かって来た。
それらの集団の先頭には、空飛ぶスケートボードに乗った千佳と天音が居る。そして、後ろに続いているのはスケルトンソルジャーの集団だ。
「うわっ、本当に引っ張ってきた」
由香里は慌てて生命魔法の準備をする。準備と言っても不変ボトルを出して、万能回復薬で魔力を回復しただけである。
二つのスケルトンソルジャーの集団が合流した瞬間、由香里が『エリアターンアンデッド』を発動する。合流したスケルトンソルジャーの集団が居る場所に、黄色い光の粒が霧のように湧き出してアンデッドたちを包み込んだ。
スケルトンソルジャーたちは、ガチャガチャと震えだし骨だけの手からバトルアックスが零れ落ちて地面に転がった。『エリアターンアンデッド』の範囲に居たスケルトンソルジャーは、一体が倒れて地面に横たわると、次々に倒れて消える。
ただ効果の範囲外に居た数体のスケルトンソルジャーが、三人に襲い掛かった。これは仕方ないので、『シャインブロー』や武器を使って戦い始める。
千佳に襲い掛かったスケルトンソルジャーは、雷切丸の一撃で頭蓋骨を真っ二つに切り裂かれ倒れる。一方、天音に襲い掛かったスケルトンソルジャーは、金剛棒で頭蓋骨を粉砕され倒れた。
スケルトンソルジャーが全滅すると、千佳が『マジックストーン』を使って魔石を集める。
「二人とも、ありがとう。魔法レベルが上がって『14』になった」
その報告に千佳と天音は喜んだ。
三層を攻略し四層に下りた三人は、小さな丘と草原が広がる景色を目にして喜んだ。三層までは陰気な景色ばかりだったので、気分が滅入っていたのだ。
「ここにオーガスケルトンが居るんでしょ?」
由香里が確認する。天音が頷いて草原を見回す。オーガスケルトンの姿は見えない。
「そのはずだけど、見えないね」
「ところで、オーガスケルトンは、ブラックオーガがスケルトンになったの?」
「ほとんどはそうだけど、偶にイエローオーガやブルーオーガ、それにレッドオーガのスケルトンも居るらしいのよ」
草原を進み始めると、遠くに四つの点が現れて段々と近付いてくる。
「気を付けて、オーガスケルトンよ」
千佳が注意の声を上げる。
「由香里、『エリアターンアンデッド』で倒せそう?」
「オーガスケルトンだと、倒せないかも」
『エリアターンアンデッド』は範囲攻撃なので、魔物一体に対する威力は『シャインブロー』より弱い。
その時、四体のオーガスケルトンが同時に走り出す。その四体だが、角の色が違っていた。左からブラック・イエロー・ブルー・レッドのオーガスケルトンだったのだ。
「何だ、こいつらは?」
千佳が首を傾げる。天音がジッと四体のオーガスケルトンを見て、ポツリと言う。
「ねえ、千佳。こういう場合は、レッドオーガスケルトンがリーダーなの?」
「そうね。やっぱりレッドがリーダー……ん? 天音、あれは戦隊じゃないと思うぞ」
馬鹿な事を言っている間に、オーガスケルトンたちが千佳たちに近付く。
千佳がレッドオーガスケルトンの前に飛び出して、七重起動の『ハイブレード』を発動し形成されたD粒子の刃を横に薙ぎ払う。その巨大な刃がレッドオーガスケルトンの首を刎ね飛ばし、頭蓋骨が残り三体の頭上を飛び越えて地面に落ちた。
ブラックオーガスケルトンが駆け寄って地面に落ちた頭蓋骨を拾い上げ、イエローオーガスケルトンにパスする。そいつはブルーオーガスケルトンにパス。最後に頭蓋骨がないレッドオーガスケルトンへ頭蓋骨のパスが飛んだ。
頭がないオーガスケルトンは、頭蓋骨をキャッチしようとして失敗する。それだけでなく地面に落ちた頭蓋骨を蹴ってしまった。頭蓋骨は由香里の居る方角に飛んで、由香里がキャッチする。
由香里の両手の間にある頭蓋骨が、カチャカチャと音を鳴らして口を開閉する。たぶん『返せ』とか『戻せ』と言っているのだろう。
驚いた由香里が手を放すと、頭蓋骨が地面に落ちた。地面に落ちてもカクカクしている頭蓋骨に『シャインブロー』を発動して仕留める。
「びっくりした」
その様子を見ていた天音が笑い出す。
「天音、笑い事じゃないんだからね」
「ごめん、でも、由香里のびっくりした顔が、おかしくて」
その後は問題なくオーガスケルトン三体を倒した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます