第580話 冥土ダンジョン 2回目

 由香里たちは四層でオーガスケルトン狩りを続け、九体のオーガスケルトンを倒してから、今日の狩りを終了する事にした。地上に戻り冒険者ギルドに寄ってからホテルに向かう。


「どれくらいで魔法レベルが『15』になりそう?」

 千佳が質問した。

「そうね。今日のような狩りを数回続けたら、上がるかも」

 今日はスケルトンソルジャーの集団を範囲魔法で仕留められたので、効率的な狩りができた。同じような方法で狩りを続ける事も可能だろう。


「次は五層に居るボーンドラゴンを狩ろうか?」

 千佳が提案した。冒険者ギルドで五層の中ボスが復活したという情報を仕入れたのだ。その中ボスというのが、ボーンドラゴンである。


「でも、ボーンドラゴンだと、『シャインブロー』では倒せないかも」

「もう少し強力な対アンデッド用魔法はないの?」

「残念だけどないのよ。生命魔法の賢者は、昔から魔物狩りに興味がない人が多かったみたい」


「仕方ないか。ボーンドラゴンは諦めましょう」

 千佳がそう言うと、天音が反対した。

「諦める必要なんてないでしょ。ボーンドラゴンは倒そうよ。生活魔法の魔法レベルが上がるかもしれない」


「そうか、それもそうね」

 三人はボーンドラゴンを倒す事にした。


 翌日も冥土ダンジョンへ向かった。ダンジョン探索を行った翌日は休むものなのだが、魔力と体力は万能回復薬で回復したので問題はなかった。


 冥土ダンジョンへ入り、三層でスケルトンソルジャーの集団を『エリアターンアンデッド』で倒した後、由香里たちは五層へ向かう。


 五層は死の森だった。木々が枯れて冬の落葉樹の森のようだ。しかし、冬の落葉樹の森なら木の内部に生命を感じられただろうが、この死の森は全てが死んでいた。


「中ボス部屋が見えた」

 五層の中ボス部屋は、森の中央にある小山に入り口がある。そこから入って地下通路を奥へと進むと、中ボス部屋の前まで辿り着く。


 三人はためらわずに中ボス部屋に入った。その中央に立っているボーンドラゴンの姿が三人の目に映る。千佳は雷切丸を構え、天音は金剛棒を構える。


 由香里は土星の輪のような形をした魔導武器『スダルシャナ』を取り出して、ボーンドラゴンへ投げた。伝説級の魔導武器であるスダルシャナは、音速を超えて飛翔しボーンドラゴンの首の骨を切り裂いて、由香里の手に戻った。


 その一撃だけでボーンドラゴンの首を切り離す事はできなかった。それどころか、怒ったボーンドラゴンが大口を開けて火炎ブレスを吐き出そうとする。


 そこに千佳が飛び込んで、ボーンドラゴンの首に向かって雷切丸を振る。雷切丸の切っ先から稲妻の刃が伸びて骨だけの首を直撃した。これは【雷斬】という技である。


 火炎ブレスを吐き出そうとしたボーンドラゴンの動きが止まる。そこに天音が『ホーリークレセント』を発動し聖光分解エッジを飛ばす。聖光分解エッジはあっさりとボーンドラゴンの首を刎ね飛ばした。


 ボーンドラゴンの頭と胴体は切り離されたが、倒した訳ではない。千佳と天音は『クラッシュボールⅡ』を発動し、高速振動ボールをボーンドラゴンの胴体に叩き込む。


 その間に、由香里が『シャインブロー』でボーンドラゴンの頭を攻撃する。だが、『シャインブロー』では仕留める事はできなかった。由香里は『魔法強化の指輪』を嵌めているので、普通の『シャインブロー』よりは強力なはずなのだが、それでも弱らせる事しかできなかった。


 ボーンドラゴンの胴体は高速振動ボールで背骨を粉砕したので、動かなくなっていた。天音が『祝福の木槌』を取りだすと、その巨大な頭蓋骨に叩き込んだ。光が溢れ頭蓋骨を包み込む。


「トドメを刺して」

 千佳が由香里に声を掛ける。由香里は連続で『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールの空間振動波で串刺しにした。


 ボーンドラゴンが消え、ドロップ品が残る。

「お見事」

「やったね、由香里」

 千佳と天音が声を掛けた。由香里たちはドロップ品の回収を始め、まず魔石を回収する。次に天音が指輪を見付けて拾い上げた。


「この指輪って、アリサが持っている収納リングと同じものじゃない」

 天音の言葉に、千佳と由香里が頷いた。早速調べようという事になって、天音が最近になって手に入れた鑑定モノクルを出して、指輪を調べると収納リングだと分かった。


 その収納リングは、アリサのものと全く同じだった。縦・横・高さがそれぞれ五メートルで、レベルの低い時間遅延機能が付いているらしい。


「それは由香里が使えばいい。今はアリサが使っていたマジックバッグだけしか持っていないんでしょ」


 千佳は収納リングを由香里が使うように勧めた。千佳は収納ペンダント、天音は収納ブレスレットを持っていたからだ。


「グリム先生にもらったマジックポーチもあるけど」

「あのマジックポーチは、普段使うのには十分だけど、ダンジョン探索で使うには容量が足りないでしょ。マジックバッグは戦う時に邪魔になるじゃない」


 その収納リングは由香里が使う事になった。他にドロップ品がないか探すと、少し離れた場所に剣が落ちており、天音が拾い上げる。種類としては、日本刀になるだろう。刀身は九十センチほどで金色に輝く刃を確認した。


「これはオリハルコン製の刀だよね」

 天音が問うと、千佳が頷く。これも鑑定モノクルで調べたが、魔導武器で『天照てんしょう刀』または『神刀:アマテラス』と呼ばれるとしか分からなかった。天音は天照刀を千佳に渡す。

「私が使っていいの?」

「日本刀だからね。いいでしょ?」

 天音は由香里に確認した。由香里は日本刀が欲しいと思わなかったので頷いた。


 地上に戻った由香里たちは、冒険者ギルドで報告してから天照刀をもっと詳細に鑑定してもらう。天照刀は邪悪なものを切り裂く光の剣だという。神話級の魔導武器で、格はトリプルAだそうだ。


「これって、『祝福の木槌』の効果かな?」

 由香里が天音に尋ねた。中ボスのボーンドラゴンにしては、ドロップ品が希少なものだったのは事実である。


「そうかもしれない。でも、ドロップ品を残す魔物に打ち込まないと効果がないんじゃ、使い所が難しいかな」


 宝箱を叩くには、短い柄の『祝福の木槌』が使いやすいのだが、ドロップ品を落とす手強い魔物を叩くのには不向きだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る