第545話 四国のミノタウロスジェネラル

 高瀬からミノタウロスジェネラルと戦った様子を聞いた。高瀬の武器は『倶利伽羅剣くりからけん』と呼ばれる不動明王の剣で『降魔の利剣』とも呼ばれている。


 まず倶利伽羅剣でミノタウロスジェネラルに斬撃を繰り出したそうだが、全く通じなかったようだ。次に倶利伽羅剣の特殊効果である炎の竜で攻撃したが火傷すら負わせる事ができなかったという。


 その他にも地元の攻撃魔法使いが『スーパーノヴァ』や『ドラゴンキラー』で攻撃したらしい。だが、それらの魔法も通用しなかった。


 高瀬の話を聞いていて気付いたのだが、以前にミノタウロスジェネラルと戦った時、斬撃や魔法の軌道を変える事ができる鎧を装備していた。なのに、今回のミノタウロスジェネラルはそんな鎧は装備していないようだ。


 俺はすぐにミノタウロスジェネラルを追う事にする。冒険者ギルドの職員が、ミノタウロスジェネラルの居る山の近くまで車で送ってくれた。


 ちなみに、ダンジョンの外に出てきた魔物を討伐する場合、建物や人に被害があっても不問となる。魔物を倒せずに暴れた場合の被害と比較して、冒険者の攻撃による被害が出ても早期に倒した方が良いと考えて作られた国際法があるのだ。


 俺は『ブーメランウィング』を発動し戦闘ウィングに乗り込むと、ミノタウロスジェネラルが居るという方向に飛んだ。五分ほど飛ぶと谷間を進んでいる身長四メートルの魔物の姿を見付ける。


 上空からミノタウロスジェネラルを目掛けて、D粒子振動ボールを投げつけた。不意打ちになったらしく、無防備な状態でD粒子振動ボールが命中し空間振動波が放射された。


 だが、特級ダンジョンのザラタンと同じで、空間振動波が拒絶された。

「やっぱり空間振動波は通用しないか」

『『ジェットフレア』はどうでしょう』

 メティスの提案に従う事にした。戦闘ウィングで近付くと、『ジェットフレア』を発動し真上からD粒子ジェットシェルを放つ。


 圧縮空気を溜め込んだD粒子ジェットシェルは、ミノタウロスジェネラルに命中すると磁気で包み込みプラズマで炎熱地獄を作り出す。


「これは期待できるんじゃないか?」

『どうでしょう』

 プラズマの炎が消えた時、無傷のミノタウロスジェネラルが現れた。

「チッ、ザラタンと同じか。そうなると地上戦に切り替えるしかないな」


 俺は着陸して、戦闘ウィングから降りた。エルモアと為五郎は使わない事にした。有効な攻撃手段を持っていなかったからだ。


『エナジーブレードで倒すのですか?』

「それが確実だろう」

『その前に、フォトンブレードを試してみませんか』


 フォトンブレードは聖光で構成されている光の刃である。敵が<邪神の加護>を持つ魔物なら、フォトンブレードが効くのではないかと考えたようだ。


 俺は光剣クラウ・ソラスを取り出した。ミノタウロスジェネラルは五十メートルほど離れたところから、こちらに近付いてくる。その手には大剣が握られていた。


 『アブソーブシールド』を発動し九枚のD粒子赤色シールドを身体の周りに浮かび上がらせる。それから光剣クラウ・ソラスへ魔力を注ぎ込み始めた。二つ平行に並んだ剣身の間に光が生まれ、それが大きな光の剣となって五メートルにまで伸びる。


 戦う準備が出来た時には、ミノタウロスジェネラルが十メートルほどのところまで迫っていた。そこから二度跳躍したミノタウロスジェネラルが、大剣の間合いに入った。


 大剣が俺の頭を目掛けて振り下ろされた。俺は横に跳んで避け、フォトンブレードをミノタウロスジェネラルの腹に叩き付ける。


 ミノタウロスジェネラルは避けようともしなかった。フォトンブレードは魔物の腹に当たり大きな火傷を負わせた。但し、フォトンブレードの威力を考えれば、ミノタウロスジェネラルが真っ二つになってもおかしくないはずだ。


『聖光の力も、<邪神の加護>により減衰しているようです』

 メティスの分析を聞いて溜息が出そうになる。ミノタウロスジェネラルが咆哮し、大剣を横薙ぎに振る。その大剣がD粒子赤色シールドに受け止められた。


 俺はフォトンブレードを下段から擦り上げてミノタウロスジェネラルの腕を切った。フォトンブレードは太い腕の半ばまでを切ったが、そこで止まる。


 エナジーブレードは簡単にザラタンの足を切り刻んだので、フォトンブレードでもと思ったが、ダメなようだ。ミノタウロスジェネラルの手から大剣が地面に落ちた。


 フォトンブレードに神威エナジーを流し込もうかとも思ったが、そのまま何度も斬り付けてミノタウロスジェネラルにダメージを与えていく。


 ダメージが蓄積したミノタウロスジェネラルは、ガクリと片膝を突いた。それをチャンスと判断した俺は、その太い首にフォトンブレードを叩き込む。切り落とす事はできなかったが、それがトドメとなった。ミノタウロスジェネラルの巨体が地面に倒れて動かなくなる。


 ミノタウロスジェネラルの死骸は、研究用として政府に売る事になるだろう。その死骸と大剣を収納アームレットから取り出したブルーシートに包んで、収納アームレットに仕舞う。


『あの大剣は、使えそうですか?』

「人間には大きすぎる」

 それにマルチ鑑定ゴーグルで調べてみたら、『魔剣:ティルフィング』と表示されたのを見た。呪われた魔剣だ。使わない方が良いだろう。


 冒険者ギルドにミノタウロスジェネラルを倒した事を報告すると、冒険者ギルドはもちろん、地元の人々も大喜びした。


 冒険者ギルドがホテルの部屋を取ってくれて、そこで休む事になった。ホテルに行く前に、ミノタウロスジェネラルの死骸と大剣を冒険者ギルドへ渡す。死骸もそうだが、呪われた魔剣を持っていたくなかったのだ。


 腹が減ったので、名物料理だと聞いた鯛めしを食べてから、ホテルへ行って一泊してから、渋紙市へ戻る。


 俺にとっては、それほど大した相手ではなかった。そう言うと増長しているのではないかと言われそうだが、切札の神威エナジーを使わずに倒せたのだ。結果として、体力的にも精神的にも余裕を残して倒せたと感じたのである。


 それから数日後に、東京の冒険者ギルド本部から呼び出しがあった。冒険者ギルド本部へ行くと、慈光寺理事が待っていた。


「四国での活躍を聞いたよ。冒険者ギルドを代表して感謝する。ありがとう」

「日本の冒険者として、当然の事をしただけです。それより、わざわざ本部に呼んだのはなぜです?」


「その事なんだが、君に会いたいという人が来ているのだ」

 理事が会議室に案内してくれた。そこで待っていたのは、アメリカの冒険者育成庁長官であるステイシーだった。


 挨拶をして椅子に座ると、ステイシーがミノタウロスジェネラルとの戦いについて質問した。

「ミノタウロスジェネラルは、生活魔法で倒したのですか?」

「いえ、光剣クラウ・ソラスを使いました」


 それを聞いたステイシーがギラリと目を光らせる。

「その魔導武器を見せてもらえませんか」

「いいですよ」

 俺は光剣クラウ・ソラスを取り出して見せた。それを見たステイシーが驚いたような顔をする。


「昔、光剣クラウを見た事があります。全く違うものなんですね」

「これは光剣クラウとソラスを合体させたものです。光剣ソラスは中々手に入らないと聞いていますから、幸運でした」


「なるほど、この二本の刃がミノタウロスジェネラルを斬り裂いたという事ですね?」

「あっ、違います。誤解されているようですが、これは光剣クラウ・ソラスの本当の姿ではありません。……説明が難しいので、お見せしましょう」


 俺は魔力を注ぎ込み、フォトンブレードを形成した。それを見たステイシーが納得するように頷いた。

「このフォトンブレードでミノタウロスジェネラルを倒したのですが、中々仕留められずに苦労しました」


 俺は戦いの様子を話した。それを聞いたステイシーは、俺が光剣クラウ・ソラスを手に入れた経緯を尋ねた。俺がためらっていると、世界各地のダンジョンで<邪神の加護>を持つ魔物が発生している事を教えてくれた。


「それらの魔物を倒す方法を我々は探しているのです」

 何か不吉な事が起きるのではないか、そう心配しているとステイシーは言う。仕方ないので入手した方法を教えた。ステイシーは礼を言うと速攻で帰って行った。


 神威については全く知らないようだったが、大丈夫なんだろうか? でも、神威を手に入れるにはニーズヘッグを倒さなければならないが、そのニーズヘッグは復活していない。


 神威を手に入れる方法はないのだ。いや、俺が知らないだけで他にも有るかもしれない。それに『神威の宝珠』を使った時、躬業についての知識も手に入れていた。それによると『神威』だけでなく、躬業にはいくつもの種類が有るようだ。その躬業を調べるのも解決策の一つかもしれないと思った。


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今回の投稿で、『第12章 特級ダンジョン編』は終了となります。

次章は『邪神の胎動編』になります。

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