第544話 フランスのお土産

 フランスの特級ダンジョンであるマルヌダンジョンでは、大きな収穫を得た。それらを土産に帰国して、渋紙市に戻り近藤支部長に挨拶する。その時、支部長から留守中に大きな出来事は起きなかったと知らされた。


「渋紙市の冒険者ギルドから、特級ダンジョンへ潜るような冒険者が出るとは、本当に名誉な事だ。これからは、私も『グリム先生』と呼ぶ事にしよう」


「やめてください。今まで通りでお願いします」

 支部長が頷いた。

「そう言うのなら今まで通りにするが、日本の冒険者の頂点に立っているのだという自覚はあった方がいい。ところで、フランスで風神ドラゴンを仕留めたそうじゃないか。向こうの冒険者ギルドでは、かなり高く評価していたよ」


 これでA級ランキングが上がるかもしれない。と言っても、これ以上順位を上げても特典はないので、順位に拘る事はやめよう。


「マルヌダンジョンはどうだった?」

「手強い魔物が多かったですね。ただドロップ品が豪華になっていました」

「大きな収穫があったようだね」

 支部長にマルヌダンジョンの様子を話す。但し、神威エナジーについては一言も漏らさなかった。


 その翌日、俺は三橋師範と鉄心、それにカリナを呼んだ。グリーン館に来た鉄心が『外は暑い』と言いながら、買ってきたビールを飲み始める。


 それを見たカリナが呆れたような顔をした。

「昼間からビールなの」

「ビールなんて、水と一緒だよ。それに一本だけだ」

 グリーン館に来る途中、喉が渇いて思わずビールを買ったのだという。


「おっ、旨そうなものを飲んどるな」

 カリナたちが居る食堂に入ってきた三橋師範が、鉄心が飲んでいるビールを見て声を上げた。

「師範も飲むなら、冷蔵庫に入っていますよ」

「さすがに、昼間からはやめておこう」


 鉄心がカリナに顔を向ける。

「グリム先生が、おれたちを集めたのは、何のためだと思う?」

「フランスから帰ったばかりだと、聞きましたよ。お土産を配るためじゃないですか」

「土産を配るためだけに、俺たちを集めたとは、思えんのだけどな」


「いえ、お土産を配るためですよ」

 俺とアリサが食堂に入り、挨拶した。

「そのお土産というのは、何なのだ?」

 三橋師範が椅子に座って質問する。その両隣にカリナと鉄心が座った。俺とアリサも椅子に座って話し始めた。


「フランスのダンジョンで、『限界突破の実』を三個入手した」

「もしかして、それを私たちに?」

 カリナがびっくりしたという顔で確認する。

「そうなんです」


 三橋師範が冷静な顔で俺に目を向けた。

「引退寸前の私ではなく、若い者にチャンスをあげた方がいいんじゃないか?」

「いや、師範はまだ若いですよ。六十まで現役でいられそうじゃないですか。それに若い連中を指導して行くためには、それなりの実力が必要です」


 三橋師範には生活魔法と武術を組み合わせた戦い方を研究してもらうつもりだった。そのためには、もっと生活魔法の腕を磨いて欲しい。


 カリナと鉄心も若い生活魔法使いたちを育てる協力者だった。三人はバタリオンの核となって、生活魔法の発展のためにまだまだ力を貸して欲しいと思っていた。その事を三人に話すと、協力すると言ってくれた。


 俺は三人に『限界突破の実』を渡し食べてもらった。これで三人とも生活魔法の才能が『D+』になった事になる。


「それから、これはアリサへのお土産だよ」

 俺はアリサに『視力回復の指輪』を渡した。

「『才能の実』をもらったばかりなのに、いいの?」

「もちろんさ、この『視力回復の指輪』を一ヶ月ほど嵌めていると、近視や乱視が治るそうだよ」


 夜遅くまで勉強しているアリサは、近視が酷くなったと嘆いていたので、最初に試してもらう事にしたのだ。


 鉄心がジト目で俺とアリサを見る。

「いちゃいちゃするなら、俺の目が届かないところでしてくれ」

 アリサが頬を赤く染めた。こういう初々しいところが、アリサの魅力だ。

「からかわないでくださいよ。鉄心さんには、奥さんと子供が居るでしょ」


「そうだけど、最近リサが冷たいんだよ」

 鉄心の奥さんは、『リサ』という名前らしい。

「稼いだ金で、プレゼントでもすればいいでしょ」

「おっ、いいアイデアだ」


 そんな話をしていると、近藤支部長から電話が掛かってきた。用件は四国の宇和島ダンジョンから、宿無しのミノタウロスジェネラルが、地上に現れたというものだった。


 電話を終えて戻って来ると、アリサが不安そうな顔をしている。近藤支部長からの急用は物騒な話が多いからだろう。


「どうかしたんですか?」

「宇和島ダンジョンから、ミノタウロスジェネラルが地上に現れたそうなんだ」

 アリサが首を傾げた。

「今度は、勇者の予言はないのね。でも、ミノタウロスジェネラルなら、B級冒険者でも倒せるんじゃない?」


「それが、A級の高瀬さんが討伐に向かって、失敗したらしい」

 それを聞いた鉄心が立ち上がった。

「そんな馬鹿な。高瀬さんが、ミノタウロスジェネラルの討伐に失敗するはずがねえ」


 グリムも同意したい気分だが、高瀬がミノタウロスジェネラル討伐に失敗したのは事実らしい。現場へ行って確認しないとダメだろう。


「四国へ行くのか?」

 三橋師範が尋ねた。

「ええ、どういう状況なのか、確認してきます」

 俺はすぐに空港へ行って、四国へ飛んだ。松山空港へ到着すると、冒険者ギルドの職員が出迎えてくれた。職員の案内でまず病院へ向かう。高瀬が治療を受けている病院である。左足を骨折して担ぎ込まれたようだ。


 ベッドに横になっている高瀬が、俺の顔を見て弱々しく笑う。

「グリム先生が呼ばれたのか」

「そうです。そのミノタウロスジェネラルは、そんなに手強かったのですか?」


 高瀬が溜息を漏らす。

「攻撃が通用しなかったのだ。魔導武器による斬撃も、攻撃魔法も通じなかった。分析魔法使いに調べてもらったら、<邪神の加護>というものを持っているそうだ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る