第13章 邪神の胎動編

第546話 <邪神の加護>対策

 四国でミノタウロスジェネラルを倒して半月ほど経過した頃。

 年一回の大切な探索である封鎖ダンジョンに行った。だが、そこでの競争に負けて、『才能の実』は手に入れられなかった。


 前回攻撃魔法使いのマフダルが落とした転送ゲートキーを魔装魔法使いのベネットが手に入れ、その転送ゲートキーを使って五層のツリードラゴンのところへ一番乗りしたのだ。


 仕方なく転送ゲートで十層へ行くと、転送ルームを出て隣の山にある中ボス部屋の入り口までD粒子ウィングで飛んだ。中ボス部屋まで行って、中を覗くとアメイモンでもオリエンスでもない悪魔が立っていた。


 マルチ鑑定ゴーグルで調べると『アリトン』と表示される。どうやら水に関係する悪魔らしい。身長二メートルほどで長い耳を持つ悪魔である。


 俺はエルモアと為五郎を影から出すと一緒に中ボス部屋に入った。俺たちに気付いたアリトンが、猫のような眼でギロリと睨む。次の瞬間、アリトンの姿が消えた。目では追えなかったが、D粒子センサーが上に跳躍したアリトンの存在を教えてくれる。


 俺は『アキレウスの指輪』に魔力を注ぎ込み、素早さを八倍まで上げてアリトンを見る。その手には長い鞭があり、それを俺に向かって振り下ろす姿が目に入った。


 七重起動の『サンダーバードプッシュ』を発動し、稲妻プレートをアリトンへ放つ。途中で鞭と交差して大電流が鞭に流れ込んだ。


 その電流はアリトンの手に流れたはずだが、平気な顔をしている。そこに為五郎が雷鎚『ミョルニル』を投擲した。クルクルと回転しながら巨大化したミョルニルが、ぶつかる寸前に鞭が盾になって防いだ。


 鞭だと思っていたのは、アリトンが自由自在に操れる水だったようだ。エルモアがゲイボルグをアリトンに向かって投げた。五つに分身したゲイボルグがアリトンの水の盾に防がれて戻って来る。


 アリトンが操る水は、大量の魔力が注ぎ込まれた魔力水らしい。それはアリトンの意志で、鋼鉄のように硬くもなれば、ゴムのように弾力があるものにもなる。その魔力水が剣の形になって、俺に向かって振り下ろされた。


 素早さを八倍にまで上げた俺と同等の動きをしている事から考えて、アリトンは高速戦闘もできるらしい。俺は後ろに跳び退いて斬撃を躱した。水の剣が地面を叩いた次の瞬間、槍の形になって俺を追撃する。


 七重起動の『プロテクシールド』を発動し、D粒子堅牢シールドで水の槍を防ぐ。俺は神威結晶を取り出して、アリトンに向かって投げた。速度は音速の五倍である。


 神威結晶は銃弾の形に変形し、回転しながら飛翔しアリトンの額に吸い込まれるように命中した。アリトンは魔力水を使って防ぐほどの素早さを発揮できなかったようだ。神威結晶の銃弾はアリトンの頭を貫通し、その息の根を止めた。


 神威結晶が手に戻ってきた時、アリトンが消えてドロップ品が残った。俺たちは魔石と短杖を見付け、その短杖をマルチ鑑定ゴーグルで調べてみると『水の短杖』と表示される。風の魔導武器が続いたので、今度は水の魔導武器らしい。これでも伝説級のものである。


『次は宝箱を確認しましょう』

 エルモアが宝箱をチェックし蓋を開けた。中には『限界突破の実』が入っていると思っていたが、入っていたのは石だった。


「まさか、これは……」

 その石には思い当たる事があったので、急いでマルチ鑑定ゴーグルで調べる。すると、それが『賢者の石』だと分かった。賢者の石、万能薬エリクサーの材料となるものだ。その他にも様々な魔導装備を作る時の材料になる。


「アリトンの時は、『限界突破の実』じゃないのか」

 意外だったが、その代わりに『賢者の石』なのだから文句はない。


 その日は地上に戻り、身体を休めてから、翌々日にもう一度樹海ダンジョンに潜った。五層のミカン山でミカン狩りをしてから、三層でシャドウオーガ狩りをする。十二匹のシャドウオーガを倒して十二個の影魔石と二百四十キロのシャドウクレイを手に入れた。


『十五層へ行って、ジャバウォックが復活していないか、確かめないのですか?』

「確かめるつもりだ。だけど、ジャバウォックのような大物は中々復活しないからな」

 取り敢えず、復活したかどうかを確かめる事にした。転送ルームから十五層へ移動して、中ボス部屋へ行きジャバウォックが復活したか確かめる。


 復活していなかった。

「やっぱり復活していないのか。まあ、仕方ないな。今回は十五層を中心に探索してみよう」

 十五層は濃霧により真っ白となっている世界である。探索が難しい場所だが、それだけに何か面白いものが隠されているという可能性もある。


 D粒子センサーと魔力感知力を駆使して探索する事になったが、苦労した割には宝箱を一つ発見しただけで終わった。ただ発見した宝箱には、不変ボトルが入っていたので成果には満足する。


『ここでも不変ボトルが手に入るのですね』

「ここは狙い目かもしれないな」

 上級ダンジョンを探索する冒険者にとって、不変ボトルはかなり重要なアイテムだった。バタリオンでも所有数を増やしたいと思っていたので、俺としては嬉しかった。


 樹海ダンジョンの探索期間が終わり、渋紙市に戻った俺は<邪神の加護>を持つ魔物を倒す方法を考え始めた。そういう魔物が増えたという情報を知ったので、不安になっていたのである。


「<邪神の加護>を持つ魔物は、神威エナジーか聖光の力でしか倒せないのよね?」

 考える相手をしてくれるアリサが質問した。

「俺が知る限りでは、そうだ」

「そうすると、神威エナジーか聖光で攻撃するような魔法は創れないの?」


「神威エナジーは無理だな。D粒子を神威エナジーに変異させるような特性を創れそうにない」

 D粒子と神威エナジーを比較すると、神威エナジーの方が高次元のエネルギーなのだ。低次元のエネルギーを大量に集めても、高次元のエネルギーに変換する事は難しいらしい。


「そうなら、神威月輪観の瞑想を他の人に教える事は可能?」

「それも難しいな。神威を理解していない状態で瞑想しても、それは『月輪観の瞑想』を行うだけで、『神威月輪観の瞑想』にはならない」


 俺が神威について説明するというのはできない。神威には日本語に含まれていない概念が入っているので、説明に必要な言葉がないのだ。メティスに神威の概念を読み取ってもらい、メティス経由で伝えるという方法も考えたが、メティスも神威については読めなかった。


 神威の情報は魂に刻まれたものなので、それは思考を読み取る能力があるメティスでも読めなかったのだ。


 アリサが難しい顔になって頷いた。

「そうなると、聖光ですね。D粒子を聖光に変異させる特性を創るのは、可能なんですか?」

「やってみないと分からない。但し、そのためには『知識の巻物』を使って、聖光についての情報を手に入れる必要があるだろう」


「メティス、『知識の巻物』を手に入れるには、どうしたらいいと思う?」

 アリサがメティスに質問した。

『『知識の巻物』をドロップする、バジリスクやタイタンスライムは復活していませんから、フィリピンのバギオダンジョンに巣食っているコカトリスを狙うというのは、どうでしょう?』


 バギオダンジョンと聞いて、俺とアリサは顔をしかめた。そのダンジョンのコカトリスは集団で居るからである。


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