第540話  <邪神の加護>のザラタン

『スライムというのは、水辺や草原、森に多い魔物だと思っていたのですが、砂漠にも居るのですね』

「スライムは見た目が水で出来ているような魔物だから、この砂漠だと干乾ひからびそうなのに、元気だな」


 ホバービークルから降りて、タイタンレッドスライムへ近付く。タイタンスライムは幅が十二メートルもある化け物スライムだったが、このタイタンレッドスライムは、幅が八メートルほどと少し小さい。但し、このスライムの体内にある酸は毒性が強く、少しでも吸い込むと人間は死ぬらしい。


 タイタンスライムは『コールドショット』で凍らせて仕留めたが、こいつも同じ手で仕留められるだろう。しかし、もう少し簡単に仕留められないものだろうか?


 小さなスライムなら『ジェットブリット』などを使って焼き払えば良いのだが、これほど大きなスライムを焼き払えば、スライムの体内にある毒性の強い酸が空気中に拡散してしまう恐れがある。


 俺は収納アームレットから、丸太を取り出して為五郎に渡す。この丸太は地下練習場に置かれている丸太の補充用丸太である。

「為五郎、俺が合図したら、その丸太をタイタンレッドスライムに向かって投げろ」

 二メートルほどある丸太を、為五郎が肩に担ぎ上げた。


「今だ!」

 為五郎が丸太を投げ、それがタイタンレッドスライムに命中した。スライムの本能なのか、丸太を体内に引きずり込み酸で溶かそうとする。


 その丸太に向かって五重起動の『コールドショット』を発動しD粒子冷却パイルを放った。D粒子冷却パイルは丸太に突き刺さり、追加効果を発揮して丸太ごと巨大スライムの身体を凍らせる。


 その攻撃では巨大スライムの核にダメージを与えられなかったようだ。だが、次々に『コールドショット』を発動して攻撃すると、ついに核に届きタイタンレッドスライムは死んだ。


「巨大スライム用の魔法を創ろうかな」

『他にも寒さに弱い魔物が居ますから、賛成です』

 ドロップ品を探すと、黒魔石<小>と指輪が見付かった。指輪を鑑定すると『視力回復の指輪』と表示される。この指輪は近視や乱視の眼を正常に戻す効果があるらしい。


 俺たちは宝箱に近付き罠がない事をチェックしてから蓋を開けた。中には『限界突破の実』が一つだけ入っていた。その実を拾い上げ、マジックポーチⅧの中に仕舞う。マジックポーチⅧの時間遅延機能は優秀なので、あまり有効期限を気にしなくても良いだろう。


 それからも宝箱を探しながら砂漠を進み、二個の宝箱を発見した。この砂漠で合計三個の『限界突破の実』を手に入れた事になる。


 そして、主の居る場所へ辿り着いたが、コカトリスは居なかった。まだ復活していないようだ。俺たちは階段を発見して三層へ下りた。三層は広大な草原が広がるエリアで、巨大な鹿の魔物が棲み着いている。


 主は三つの頭を持つ犬『ケルベロス』らしいが、残念ながら復活していなかった。

 三層で野営して一泊する。翌朝出発した俺は、四層の海をホバービークルで移動した。この海には凶悪な魔物が居るのだが、相手をする気はない。


 これから五層に下りて風神ドラゴンと戦うつもりだったからだ。問題は四層の主である。ここの主は『ザラタン』と呼ばれる巨大なカニだった。甲羅の幅が九メートルもある化け物のようなカニで、その甲羅には<邪神の加護>が付与されており、誰も倒す事ができなかったそうだ。


 なのに、なぜ五層へ下りられたかというと、ザラタンは素早い魔物ではないので、逃げ回りながら階段を探し、階段から五層へ下りられるという。主の居る場所は、中ボス部屋ではないので逃げる事も可能なのである。


 俺たちはザラタンの居る場所へ辿り着いた。近くで見るザラタンは圧倒的な存在感がある。但し、怖いとは思わない。その動きには素早さが足りなかったからだ。


 足が地面を踏みしめるたびに、ズシンという音が響き渡り地面に深い足跡が刻まれる。その様子は顔が強張るほどの迫力がある。


 エルモアと為五郎が武器を構え前に出る。俺は『クラッシュボールⅡ』を発動し高速振動ボールをザラタン目掛けて放った。その高速振動ボールがザラタンの腹部に命中し空間振動波を放射する。


 空間振動波がザラタンの甲羅に接触した瞬間、初めて拒絶された。空間振動波は何のダメージも与える事もできずに消える。それを見ていた俺はガクリと肩を落とす。


「そんな……空間振動波でもダメなのか」

『<邪神の加護>は、強力な結界のようなもののようですね。しかし、空間振動波まで通じないとは……』


 メティスは驚いているようだ。俺は驚きを通り越してショックだった。絶対的な攻撃手段であった空間振動波が効かない相手が現れたからだ。

 驚いている間にも、ザラタンが迫っている。俺はホバーキャノンを取り出し、『プロジェクションバレル』を発動すると、形成された磁力発生バレルを接続する。


 操縦をエルモアに任せ、砲手の席に座って磁力発生バレルの砲身をザラタンに向けた。狙いを定めて引き金を引く。給弾装置が砲弾を磁気発生バレルに押し込み、磁力発生バレルが発生させた強烈な磁気の束により砲弾を加速させ、極超音速で撃ち出した。


 砲弾がザラタンの胸に命中して、巨体を持ち上げひっくり返す。ザラタンは腹を見せて倒れた。だが、甲羅には傷一つ付いていない。


「ダメだ。ホバーキャノンも通用しない」

 ちょっと絶望的な気分になった。

『エナジーブレードは、どうでしょう?』

「よし、確かめてみる」

 俺はホバーキャノンから降りて神威刀を抜くとザラタンを睨む。そのザラタンは仰向けにひっくり返ったまま足をバタバタさせて起き上がろうとしている。


 俺は神威月輪観の瞑想を行い、神威刀からエナジーブレードを伸ばす。その状態でザラタンに近付き、バタバタしている足にエナジーブレードを振り下ろす。


 スパンと巨大な足が切断された。

「えっ、手応えがなかったぞ」

『この調子で、どんどん攻撃してください』

 俺は次々にザラタンの足を切断していった。ザラタンは焦ったようにバタバタする勢いを強めたが、そのパワーが空回りしているような感じだ。


 全ての足を切断した俺は、頭の方へ回り込んで頭にエナジーブレードを叩き込んだ。一撃では死ななかったので、何度も何度もエナジーブレードで斬り付ける。


 ザラタンが動かなくなり消えた。俺は深呼吸するように大きく息を吸い込んでから吐き出す。

『おめでとうございます。初討伐かもしれませんよ』

 エルモアと為五郎がドロップ品を探している間、俺は空間振動波について考えていた。他にも<邪神の加護>を付与された魔物が現れるかもしれないと思ったのだ。


 ザラタンのドロップ品は、黒魔石<大>と槍、それに宝石が入った袋だった。宝石は数億円の価値が有りそうだ。そして、槍を鑑定すると『ブリューナク』と表示された。


「パルミロが使っていた魔導武器と同じものだな」

 俺はブリューナクをエルモアに渡した。エルモアが試した方が、真価を発揮すると考えたのである。


『これからが本番ですよ。元気を出して行きましょう』

「分かっている。気分を切り替えて行こう」


 少し休憩してから、五層へ向かう。五層は山岳地帯で、その中央にはテーブルマウンテンがあった。正三角形の形で切り立った崖になっている山は、頂上がテーブル状の平地となっており、そこには雑草や樹木が茂っている。


 そこが中ボス部屋になっており、風神ドラゴンが居るらしい。


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