第539話 マルヌダンジョンの二層
有料練習場へ行った。フランス語は喋れないので、メティスがエルモアの口を借りて通訳してくれた。一番大きな練習場を借りて中に入る。
『万納粒子に神威エナジーを蓄積した事で、全く別のものに変わったみたいですね』
「そうだな。呼び方も変えた方がいいのか?」
『神という意味の『デウス』と、物質という意味の『マテリアル』を合成して、『デウスアル』というのは、どうでしょう?』
「……却下。面倒だから『神威粒子』でいいよ。塊は『神威結晶』と呼ぼう」
名前を考えていたら、時間を浪費しそうなので適当に決めた。問題は名前ではなく、神威粒子で何ができるかである。
ちなみに、なぜ粒子という名称が付いているかというと、神威結晶は決まった形がないからだ。俺がボールのような形に、と考えれば球形になるのである。
俺は少し離れた場所から、球形にした神威粒子をコンクリートブロックに向けて投げた。コンクリートにコンと当たって地面に落ちる。
「まあ、球形になる事だけしか考えてなかったから、当然かな」
神威エナジーは次元を超えて作用する意思を持ったエネルギーである。その神威エナジーの意思は、あやふやなものなので、それを制御する所有者が強い意志を持って、神威エナジーのあやふやな『意思』を明確な『意志』に変えなければならない。
俺は神威粒子の塊を見詰めて、『戻れ』と命じた。その瞬間、落ちていた神威結晶が形を失い、砂粒のようになって飛翔し俺が差し出した手の中に戻り球形となる。
『なるほど、持ち主の意志により、自由自在に動くのですね?』
「そうだ。神威エナジーが万納粒子に蓄積された事で、扱いやすくなった気がする」
『では、飛翔速度も変えられるのですか?』
俺は球形のまま弓矢の矢の速度で飛翔するようにイメージして、神威結晶を投げた。今度はかなりのスピードで飛翔し、ガッと音を立ててコンクリートに命中して浅い傷を付ける。
スナップだけで投げたのだが、先ほどと比べると三倍ほどの速度で飛翔した。たぶん時速二百キロほどだっただろう。
『音速まで上げられますか?』
「やってみよう」
音速で飛翔するロケット弾をイメージして、神威結晶を投げた。音速を超えた証である衝撃波の轟音が響き渡り、ドゴッという音と同時にコンクリートにめり込んで表面にクモの巣状のヒビを走らせた。
『想像以上に強力ですね』
「……これは、高速戦闘時に使えるんじゃないだろうか?」
『どうしてです?』
「高速戦闘時に、生活魔法を使う場合、一番の問題はD粒子を素早く集める事なんだ。だけど、これはD粒子を集める必要がないから、より早く攻撃できる」
高速戦闘時に、より早くD粒子を集めるために魔力消費が多くなるのだが、神威結晶を使って攻撃すれば魔力消費も抑えられる。
どれくらいの速度まで出せるか試してみたが、『プロジェクションバレル』の魔法を使って、砲弾を音速の十倍で撃ち出すイメージで試し、音速の十倍まで出せる事は確認した。
但し、そこまで速度を上げると非常に命中率が悪くなる事が判明する。命中率などを考慮すると時速九百キロほどが最適なようだ。
まだまだ工夫の余地があるので、それを研究したら面白い使い方ができそうだ。
「取り敢えず、ここまでの情報を整理して、どう使えばいいか考えてみよう」
『そうですね。一度情報を整理した方がいいでしょう』
「さて、次は神威刀だ」
神威刀は神威エナジーを注ぎ込むと、エナジーブレードと呼んでいる神威エナジーで形成された刃が伸びる事が分かっている。
但し、戦闘中に神威月輪観の瞑想はできないので、実戦向きじゃない。以前、パルミロと戦った時にフォトンブレードに神威エナジーを注ぎ込んだ事があった。
あの時は、神威エナジーを注ぎ込みエメラルドグリーンに輝くフォトンブレードを形成した後は、神威エナジーを止めている。動きながら神威月輪観の瞑想を行った事はないのだ。
ところが、長時間に
俺はコンクリートブロックに近付き、神威刀を抜いた。そして、神威月輪観の瞑想を始める。身体の中に流れ込んでくる神威エナジーを神威刀へ注ぎ込む。神威刀の先端から神威エナジーが放出され、エナジーブレードが形成された。
エナジーブレードが三メートルほどに伸びた状態で、コンクリートブロックへ振り下ろす。縦・横・高さが一メートルのコンクリートブロックに切れ目が入り、両断された。
その直後、エナジーブレードが揺らいだ。瞑想が中断しそうになったのである。何とか堪えてエナジーブレードを維持する。
「できた」
『神威刀を使えるようになったのですね』
メティスも喜んでくれた。エナジーブレードは『クラッシュソード』に似ているが、連続して使えるので使い勝手が良い。複数の魔物と遭遇した時は、エナジーブレードを使う方が良いだろう。
そのためには神威月輪観の瞑想を修業して、いつでも瞑想を続けられるようにしよう。俺は神威粒子と神威刀の研究を続けながら、マルヌダンジョンの探索を行う事にした。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
その翌日、マルヌダンジョンに潜り二層の砂漠エリアへ行く。広大な砂漠が広がるエリアには、砂の巨人であるサンドギガースが棲み着いており、頻繁に遭遇するそうだ。
『二層の主は、コカトリスですか。石化の邪眼に注意が必要ですね』
「そうだけど、主が必ず居る訳じゃないらしい」
『別の冒険者が倒して、復活していない場合もあるというのは、分かっています』
マルヌダンジョンは、人気の特級ダンジョンである。日本の出雲ダンジョンのように、年間五人しか訪れないという事はなく、毎月一人以上が潜るので主が存在しない事も多いらしい。
サンドギガースと遭遇した。身長五メートルほどの砂の巨人が迫って来るのは迫力がある。但し、動きがそれほど素早くないので先手が取れる。
その時も胸に向かって『クラッシュボールⅡ』を発動し、弱点であるサンドハートを破壊して仕留めた。
魔石リアクターをドロップしなかったので、魔石だけ回収して進む。
「やっぱりホバービークルを使おう。この砂漠は広すぎる」
この広い砂漠に、宝箱が置かれているというので、宝箱を探しながら進んできたのだが、暑いし歩き難いのでホバービークルを使う事にした。
『スピードを出すと、宝箱を見落とす可能性も出てきます』
「それは諦めるよ」
『でしたら、D粒子センサーで探りながら進むというのは、どうでしょう?』
頷いてD粒子センサーを発動する。ホバービークルを出すと乗り込み、エルモアが操縦する。俺と為五郎は宝箱を探した。
驚いた事に、このエリアの宝箱には『限界突破の実』が入っているらしい。訪れる者が多いのも当然だ。但し、その宝箱の色が迷彩色になっているらしく、砂漠で見付けるのは大変なのだ。
D粒子センサーに反応があった。
「見付けた。宝箱だ」
エルモアに方向を教えて、ホバービークルの進路を変更させる。宝箱の姿を目にすると同時に、それを守るように立っているタイタンレッドスライムの姿も目に入る。砂漠にスライムというのは場違いな気がするのだが、ダンジョンの考える事は分からない。
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