第541話 風神ドラゴン

 エルモアと為五郎を影に入れ、『ウィング』を発動する。俺はD粒子ウィングでテーブルマウンテンの頂上へ飛んだ。上空から見えるテーブルマウンテンの頂上には、中央に湖、その周りに森と草原があった。そして、端の方に神殿らしい建物を発見する。


 風神ドラゴンの姿は、湖の畔にあった。体長が十五メートルほどで、スマートな身体に巨大な翼を持つドラゴンだ。


 テーブルマウンテンの端にある神殿近くに着陸する。影からエルモアと為五郎を出した俺は、神殿へ向かう。古びた門から中に入ると、礼拝室のような部屋があった。

『この神殿に神の武器を供えるのですか?』

「そうらしい。あそこに祭壇がある」

 俺たちは祭壇へ近付き、武器を供える台が置かれているのに気付いた。


『どの武器を供えるのです?』

「一番の威力を持つ光剣クラウ・ソラスは除外するとして、神剣グラムか神威刀になる。ただザラタンのような魔物とまた遭遇する事を考えると、神剣グラムだな」

 俺は神剣グラムを取り出して、祭壇の近くにある台に置いた。


 神剣グラムを供えた俺は、神殿を出て風神ドラゴンが居る方角に向かった。

『トルネードブレスは、『マナバリア』で防げると思いますか?』

「ドーム状にして、上から被せるようにして守れば、大丈夫だと思う。それより、ブリューナクを試してみてくれ」


『分かりました』

 俺たちは湖の方角へ進んだ。森を抜けると風神ドラゴンが見え、俺は『マナバリア』を発動し形成されたD粒子マナコアを腰に巻いた。


 同時に風神ドラゴンも俺たちに気付いて、巨大な翼を羽ばたいて飛び上がる。

「風神ドラゴンは、空中戦が得意なのか」

『そのようです。急降下を始めましたよ』

 俺は急いで魔力バリアを俺たちの上に展開した。


 急降下した風神ドラゴンは、口からトルネードブレスを吐き出した。凄まじい勢いで渦を巻く竜巻が、地面に突き刺さり周囲の樹木や草などを巻き込んで、ミキサーのように粉々に砕きながら俺たちに近付いて来る。


 その光景は俺の心臓を鷲掴みにして、恐怖を掻き立てる。その恐怖に耐えながら、展開した魔力バリアの存在を信じる。次の瞬間、竜巻が展開した魔力バリアに衝突。だが、魔力バリアに付与された<衝撃吸収>の特性によりエネルギーが吸収され、竜巻が小さくなって消える。


 魔力バリアを解除した瞬間、エルモアが飛び出してブリューナクを風神ドラゴンに向かって投げた。槍が稲妻に変化して飛翔し、風神ドラゴンを追い掛ける。その稲妻が風神ドラゴンの背中に命中し火花を飛ばす。


 稲妻は雷撃となってドラゴンの肉体を貫通すると、槍に変化しエルモアの手に戻って来た。ダメージを受けた風神ドラゴンは、空中で咆哮すると旋回して急降下する。狙いは俺たちだ。


 俺は風神ドラゴンに向かって、神威結晶を投擲した。形状は弾丸にして、飛翔速度は音速の五倍とイメージする。


 命中するかどうかは賭けだったが、俺は当たりくじを引き当てた。神威結晶が風神ドラゴンの胸を捉えて、ゴルフボール大の貫通痕を作り出した。


 ある程度のダメージを負わせたが、それは致命傷には程遠いものだ。風神ドラゴンがもう一度トルネードブレスを吐き出す。俺ももう一度魔力バリアを展開し、トルネードブレスの攻撃を防いだ。


 風神ドラゴンが俺たちの真上を通り過ぎた瞬間、魔力バリアを解除する。その直後、為五郎が雷鎚『ミョルニル』を投げた。クルクルと回転しながら大きくなったミョルニルが、風神ドラゴンに追い付いて翼を叩いた。


 大電流が翼に流れ込み、翼を動かしている筋肉にダメージを与えた。そのせいで失速し螺旋を描いて墜落した。だが、それくらいで死ぬようならドラゴンとは呼べない。


 怒りの咆哮を発しながら起き上がった風神ドラゴンは、翼を折りたたんで俺たちに向かって走り寄る。それを迎え撃つ俺たちは、準備が整っていた。


 俺は『ジェットフレア』を発動しD粒子ジェットシェルを放った。D粒子ジェットシェルは途中の空気を吸い込んで圧縮空気を溜め込みながら、風神ドラゴンへ飛ぶ。風神ドラゴンは気付いて避けようとしたが、間に合わなかった。


 D粒子ジェットシェルが風神ドラゴンに命中し、発生した磁気が風神ドラゴンを包み込む。その直後、眩しく輝くプラズマが風神ドラゴンを包み込んで炎熱地獄を作り出す。


 炎熱地獄の炎と光が消えた時、焼け爛れて半死半生になっている風神ドラゴンの姿があった。エルモアがブリューナクを投擲。稲妻となったブリューナクは、ドラゴンの心臓を貫いて焼き焦がす。


 その一撃がトドメとなって風神ドラゴンが倒れた。その巨体が光の粒となって消える。その時、背後の神殿から鐘の音が聞こえてきた。神剣グラムに新しい機能が追加されたのだろうか?


 エルモアと為五郎がゆっくりと歩み寄る。

「よくやった」

 俺はエルモアと為五郎を褒めた。

『ザラタンのように、<邪神の加護>を持っていなくて幸いでした。万一持っていたら、風神ドラゴンと空中戦をする事になったかもしれません』


 神威エナジーしか通用しないとなると、風神ドラゴンを墜落させる事ができなかったかもしれない。神威結晶は遠距離攻撃にも使えるが、命中率が低いという問題があった。


 この命中率の問題は、解決が難しそうだ。神威結晶は思考に反応するので、途中で軌道を変えられる。但し、音速の何倍もの速度だと人間の思考が追い付かず、軌道修正する時間がないだろう。


「まあいい。実際は倒したんだ。ドロップ品を探そう」

 俺たちは琥珀こはく色の魔石を発見した。初めて見る魔石だ。

「琥珀魔石なんて初めてだな」

 マルチ鑑定ゴーグルで調べてみたが、琥珀魔石の使い方は分からなかった。


「もしかして、『知識の巻物』を使わないとダメなパターンか?」

『そうかもしれません。ですが、琥珀魔石の優先順位は低いです』

 知りたい事は他にも有るので、一個しかない琥珀魔石の使い方など後回しという事だ。


 為五郎が青い珊瑚で作ったような杖を持って来た。調べてみると『風神杖』と表示される。風を操る杖らしい。


 『マジックストーン』を発動すると、イヤリングが見付かった。これも調べてみると『風壁イヤリング』と表示される。防御用の魔導装備らしい。


 それだけではなく、エルモアが宝箱を発見した。中身を確かめるとイリジウムのインゴットだった。イリジウムは金より高価な金属で、この量だと十億円を超えるのは確実だ。


 俺たちは神殿に向かった。礼拝室に入ると祭壇近くの台に神剣グラムが残されている。ただ変化している部分がある。柄の部分に大きな青い宝石が嵌め込まれていたのである。俺は神剣グラムを持ち上げた。その瞬間、頭の中に情報が流れ込んできた。


 神剣グラムの新しい機能についての情報である。それによると『グラビティストーム』というもので、多数の敵に対して攻撃できる攻撃手段のようだ。


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