第536話 フランスの特級ダンジョン
俺はメティスを経由してエミリアンの状況を聞いた。
「警察が裏切ったというのが、気になるな」
『パルミロの時もそうでしたが、精神攻撃ができる者が居るようですね』
「そんな能力を、どうやって手に入れたんだろう?」
『ダンジョン産の何かではないでしょうか』
「もしかすると、
『精神攻撃は、『神威』や『天翼』とはちょっと違うような気がします。魔法ではないでしょうか』
「生命魔法か?」
『そうです。巻物で習得したのかもしれません』
「そんな魔法があったか?」
『少なくとも魔法庁には、登録されていませんね』
パルミロやディアスポラの組織が秘匿している魔法という事になる。パルミロとディアスポラは関係があったのだろうか?
裏の世界で繋がりがあったという事はあり得る。
『護衛シャドウパペットは、どうしますか?』
「そうだった。仕様を決めないと」
『高層ビルの最上階で狙われるとして、警戒するべき攻撃は、どういうものが考えられるでしょう?』
「火事は怖いな。それと爆弾かな」
『なぜ、その二つなのです?』
「高層ビルの内部だと、そういう攻撃が有効だろうと思ったんだ」
警察が裏切ったのなら、どこで面談するのか、敵も知っている事になる。そういう状況なら爆弾も仕掛けられるだろう。
『爆弾による攻撃を防ぐというのは、難しいですね』
「そうだよな。衝撃吸収服くらいしか、対策を思いつかない」
爆発が発生した瞬間に、爆発に背を向けてフードを被れば大怪我をしないで済むだろう。
但し、エミリアンが会うのはアメリカの要人だという話なので、警護の者が爆弾などはチェックすると思う。
『銃を持った集団に襲われた場合なら、どうしますか?』
魔法を使って防御力を上げた魔装魔法使いがトラックに撥ねられた時、怪我をしなかったという話を聞いた事がある。
どんな魔装魔法を使ったのかは知らないが、拳銃とか機関銃の弾丸に魔装魔法は耐えられるのだろうか? それをメティスに尋ねた。
『ある程度なら耐えられるでしょう。但し、強力なライフルとかだと、無事ではいられないと思います。そういう場合は、素早さを上げて敵を殲滅した方がいいでしょう』
これも衝撃吸収服を提供した方が良さそうな気がしてきた。後考えられるのは、数人の凄腕冒険者が襲ってきた場合だろうか。そういう場合なら護衛シャドウパペットが役立ちそうだ。
その場合をメティスに話すと、
『そういう場合だと、近距離戦闘になるでしょうから、襲って来るのは魔装魔法使いになると思います』
そう予想した。俺も同じ意見である。攻撃魔法使いは遠距離攻撃が得意なので、除外していいと思う。ただ魔装魔法使い以外だと生活魔法使いという場合もある。
考えたくもないが、生活魔法を悪用する連中が居ないとは限らない。但し、最近になって広まり始めた生活魔法を使う襲撃者というのは確率的に低いと思われる。
クラリスからの話では、面談はエミリアンと要人の二人だけという事なので、クラリスは同席できないらしい。なので、護衛シャドウパペットを用意しようと考えたという。
魔装魔法使いが相手だとすると、高速戦闘の能力は必須だろう。武器はクラリスが用意すると言っていた。そして、高速戦闘の訓練もクラリスがするそうだ。
要人を守る必要が有るかもしれないので、盾を持たせる事にした。特性付きの白輝鋼製タワーシールドである。大きくないと要人まで守れないだろうという事で、タワーシールドにする。
その盾に<衝撃吸収><耐熱><耐雷>という特性を付けようと思う。同じ賢者であるエミリアンとは、良い関係を築きたいのだ。
この盾と護衛シャドウパペットの組み合わせは、攻撃魔法使いに最適なのだが、魔装魔法使いとも良い連携が取れるだろう。
『護衛シャドウパペットの仕様は、あまり変えなくてもいいようですね』
「敵の攻撃方法を絞れないと、対策が難しい。それに人間が相手だと過剰な攻撃力は必要ないからな」
但し、使うシャドウクレイの量は百二十キロにした。クラリスが護衛シャドウパペットに重い武器も用意するつもりだと言っていたからだ。
クラリスは数多く魔導武器を溜め込んでいるらしい。俺のようにバタリオンのメンバーに武器を貸し出している訳ではないので、二度と手に入りそうにない魔導武器は溜め込んでいるようだ。
まずタワーシールドを作製しようと思い、工場に盾の型を注文した。その型が届くとそれを持って地下練習場へ行く。
『メタルニード』で白輝鋼をどろどろに溶かしD粒子を注入する。満遍なくD粒子が行き渡ったら、盾の型に白輝鋼を注ぎ込んだ。型の中で白輝鋼が固まる前に、賢者システムを立ち上げて三つの特性を付与した。但し、取っ手を取り付ける部分だけは特性を付与しない。
その後、冷えるのを待って盾の型を壊して白輝鋼の盾を取り出す。姿を現したタワーシールドは白く輝いていた。
『成功したようですね』
「ああ、後は取っ手の部分を取り付ければ完成だ」
タワーシールドを完成させた後、護衛シャドウパペットを作製する。
完成したシャドウパペットは、ベートーベンのような顔を持つ人型尻尾有りのシャドウパペットになった。色は髪と眉毛が茶色で、それ以外は桜色にした。
「何でベートーベン?」
『最近会った人物の中で、ベートーベンを連想するような人物が居たのではないですか?』
ベートーベン? 癖毛……違うな。割れた顎……ああ、加納支部長だ。出雲ダンジョンへ行った時に会った加納支部長に似ているんだ。
メティスに手伝ってもらいながら、完成したシャドウパペットの訓練を行った。それからフランス語と英語を教え込む。
日本語も教えようかと思ったが、フランスだとあまり使わないだろうと思いやめた。普通に動けるようになったので、俺はフランスに届けに行く事にした。
クラリスと連絡を取り、フランスの特級ダンジョンであるマルヌダンジョンで会う事にする。冒険者ギルドの職員に案内されて、マルヌダンジョンへ向かう。
マルヌダンジョンは出雲ダンジョンとは違い、常駐の職員が管理していた。ダンジョンに入ると、入り口の近くでクラリスの姿が目に入る。相変わらずの美人だ。
「尾行されなかった?」
クラリスの質問に首を振る。
「ええ、尾行はなかったようです」
「私は、尾行を
不機嫌そうな顔でクラリスが言う。クラリスが面倒な連中と言ったのは、警察の事らしい。
「早速だけど、シャドウパペットを見せてくれる」
「ええ」
俺は影から、新しいシャドウパペットとエルモアを出した。クラリスは護衛シャドウパペットを細かくチェックする。
「どうして、この顔なの?」
クラリスが尋ねた。
「不思議ですね」
俺の言った言葉に、クラリスが呆れた。
「もしかして、偶然この顔になったの?」
「ええ、偶然の産物です。気に入りませんか?」
クラリスが苦笑いする。
「そうじゃないけど、ベートーベンよりモーリス・ラヴェルが良かったと思っただけよ」
ラヴェルは有名な『ボレロ』を作曲したフランスの偉大な音楽家である。
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