第528話 冒険者の実力?

 冒険者ギルドへの報告を終えた俺は、屋敷に戻った。

『キングリザードマンに勝てますか?』

 メティスの質問を聞いて、今日見た戦いを思い出す。


「スピードは想像通りだったけど、長瀬さんの攻撃を見切った早さを考えると、分析力と対応力が凄いようだ」


『そうですね。キングリザードマンを倒すには、切り札が必要だと思います』

「切り札? それは生活魔法という事?」

『新しく手に入れた<ステルス>の特性を使った魔法を創るべきです』

「なるほど、キングリザードマンは、『ガイディドブリット』のD粒子誘導弾に気付いて、切り捨てたからな。気付かれない生活魔法は、切り札になるかもしれない」


 但し、高速戦闘中に使う事を考えると、強力な魔法はダメだろう。使いやすく発動が早い魔法にしなければならない。


 そういう条件の生活魔法となると、集めるD粒子の量が少なく魔力消費も少ないというものになる。その条件に合致するのは『クラッシュボール』なのだが、D粒子振動ボールは飛翔速度が遅いので、高速戦闘中に使用しても避けられるだろう。


 D粒子振動ボールの速度は、時速百七十キロ、秒速だと四十七メートルほどなので高速戦闘中なら、当然避けられてしまう。


「<ステルス>の特性を付与するなら、気付かないんだから避けられない?」

『激しく動き回っているので、命中しないと思いますよ』

 高速戦闘中なのだから、ジッとしているはずがなかった。スピードが必要だという事か。そうなると<ベクトル加速>の特性が必要だ。


 必要な特性を揃えると、D粒子一次変異が<空間振動>の特性、D粒子二次変異が<ベクトル制御><分散抑止><ベクトル加速><ステルス>の四つの特性になる。


 発動しやすくするためにD粒子の量を少なくし、スピードの出る形状として銃弾型にしようと思う。飛翔時に回転させれば命中率も高くなるだろう。


 命中時に空間振動波をどういう風に放射するかを考えた。『クラッシュボール』のように真正面だけに細長く放射するのでは、相手に与えるダメージが小さくなる。


 そこで長さ五十センチ、終端が直径十センチの円状に放射されるように考えた。命中した箇所を頂点に円錐状に広がるので、ある程度のダメージを与える事ができるはずだ。ドラゴンのような巨大魔物を仕留めるには威力不足だが、キングリザードマンなら十分である。


 仕様が固まったので、賢者システムを立ち上げて新しい魔法を創り始めた。残りは飛翔速度だが、なるべく速くなるように構築する。


 スピードは時速九百キロになった。音速には届かないが、キングリザードマンでも避けられないだろう。射程は二百メートルとした。


『高速戦闘中でも使えるのですか?』

「D粒子の量を大幅に削った事で、発動は『クラッシュボール』並みになった。ただ魔力消費量は、『クラッシュボール』より増えた。どうやら特性の数が増えた事が影響しているらしい。特性を制御するのに魔力を使うからだろう」


 夜になってから地下練習場へ行って、コンクリートブロックを標的にして試してみた。新しい魔法を発動すると、ヒュンという音がして何かが発射されたのを感じた。


 ただ<ステルス>の特性のせいなのか、速すぎるからなのかD粒子の形成物が飛ぶ様子を感じ取れなかった。


 高速の飛翔体がコンクリートブロックに命中した瞬間、ガッという音がしてコンクリートブロックに穴が開いた。仕様通りの円錐状の穴である。


 何度か試してみて不具合を直すために調整する。完成した魔法は『クラッシュステルス』、D粒子の形成物は『ステルス振動弾』と名付けた。

 ちなみに、習得できる魔法レベルは『14』になる。


 新しい魔法を創っただけでは、高速戦闘で使えない。これから早撃ちの練習をして使い熟せるようにならなければ。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 俺が『クラッシュステルス』の早撃ちを練習している頃、冒険者ギルドで麒麟児の韮崎が長瀬の噂を話していた。


「長瀬さんはA級なのに、キングリザードマンに負けたそうじゃないか。A級と言っても大した事はなさそうだな」

「韮崎さんなら、キングリザードマンに勝てるんじゃないんですか?」

 麒麟児チームの中には、調子の良い事を言うメンバーが居るらしい。

「まあな。調子が良ければ勝てるかもしれない」


 それを近くで聞いていたタイチと千佳が、苦笑いする。

「何で、あんなに自信満々なのかな?」

「理由なんて、ないんじゃないの。あれは性格よ」


「B級の御船さんから、バシッと言ってやった方がいいんじゃないですか?」

「ああいう性格の人は、ちょっと言ったくらいじゃ変わらないんじゃない。支部長が説教したんでしょ」

「そうなんですが、本人は納得してなかったようです。韮崎は自信過剰なんですよ」


 千佳が顔をしかめた。タイチの声が大きかったからだ。案の定、それを聞いた韮崎が千佳たちの方へ来た。


「誰かと思ったら、グリム先生のお弟子さんじゃないか。おれが自信過剰だって?」

 韮崎がタイチを睨んだので、タイチが睨み返す。

「そうじゃないか。C級なのにA級の長瀬さんを馬鹿にするのは、自信過剰の証拠じゃないのか?」


「違うな。おれにはそれだけの実力が有るんだ?」

 それを聞いた千佳が目を丸くする。

「正気なの? 相手はA級百八位の冒険者なのよ」

「こいつと一緒に居るところを見ると、生活魔法使いなんだろうが、失礼だぞ」


 失礼なのは韮崎だと思う千佳だが、ちょっと対応に困った。その時、タイチが口を挟む。

「失礼なのはお前だ。こちらはB級の御船千佳さんだぞ」

 B級だと聞いて驚いた顔をする韮崎。


「ほう、あんたがB級の御船さんか。だが、この業界は実力がものを言う世界だ。ランクが上というだけじゃ、敬意を払わない事にしてるんだ」


 普通はランクが上だと実力も上なのだが、自分の目で確かめないと認めないらしい。偶にこういう冒険者が居るというのは知っていたが、実物に会って千佳はうんざりした。


「ランクに敬意を払わないのなら、C級のあなたにD級の冒険者が実力を見なきゃ敬意を払わないと言っても怒らないのね?」


「そんな奴には、実力を分からせてやる」

「まさか、喧嘩をするというの。冒険者同士が喧嘩するなんて、ギルドが禁止している」

「ふん、冒険者の実力は、倒した魔物で決まるもんだ。おれのチームはアイスドラゴンを倒している」

「僕とシュンは、アースドラゴンを倒している。同じ五大ドラゴンだから、互角だな」

 そう言ったタイチを韮崎が睨んだ。


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