第522話 雷神ドラゴン

「その宿無しが地上に現れたら、グリム先生がアメリカに呼ばれるという事は有るんですか?」

 タイチが尋ねた。

「まさか……アメリカには強い冒険者が、大勢居るんだ。俺の出る幕はないよ。ただ宿無しの正体が気になっているんだ」


「もしかして、その宿無しの討伐を見物に行くとか?」

「アメリカが許すとは思えない。ところで、ドロップ品の分配はどうするんだ?」


 タイチとシュンは話し合って、『シヴァ神の剣アパラージタ』と巾着袋型マジックバッグはシュンが使い、『メルクリウスの指輪』はタイチが使う事になったらしい。


「そこで、お願いなんですが、高速戦闘術を教えてください」

「三橋師範に『疾風の舞い』を習っただろ」

「あれは基礎です。やはり実戦は違うはずです。そうじゃないんですか?」

 それはそうだと頷いた。確かに実戦は違ったからだ。それに実戦では高速戦闘術を使いながら、生活魔法を使わなければならない。


 高速戦闘時に、生活魔法を使うにはかなりの訓練が必要なのだ。周りのD粒子を高速で集め、発動も高速で行う必要がある。それに相手の動きも高速なので、魔法を命中させるのも苦労する。


 そのせいで、俺でも高速戦闘時に使える魔法は限られている。その辺の技術は、三橋師範では教えられない。


 それから早月ダンジョンで知り合った姫川という女性が生活魔法を習いたいというので、バタリオンで面倒を見れないかという話になった。


「構わないけど、生活魔法の才能は?」

「才能は『D』だと言っていました」

 教えられる生活魔法は限られてしまうが、生活魔法の真髄とも言える多重起動については教えられるだろう。


「そう言えば、二十層まで到達したと聞きましたが、中ボスは倒さないんですか?」

 シュンが尋ねた。俺は苦笑いする。

「簡単に倒せるような魔物じゃないんだ。キングリザードマンは、シルバーオーガより素早いかもしれない」


 俺からキングリザードマンの情報を聞いたタイチが首を傾げる。

「素早さはシルバーオーガと同等じゃないんですか?」

「キングリザードマンは、身長が百八十センチほどで、元々が人間より素早い魔物らしい。それが『ヘルメススピード』で素早さが十倍になるんだ」


「そういう事か。倒すのは大変そうですね」

「ああ、まず素早さ十倍で戦えるように修業してから、一度戦ってみるつもりだ」

 たぶん、それでも勝てないだろう。エスケープボールで逃げる事になるだろうが、一度戦わないと正確な強さが測れない。それに一度戦えば、勝ち方が分かるかもしれない。


 タイチたちが帰ると、またアリサと話し始めた。

「キングリザードマンは、魔装魔法使いに任せた方がいいんじゃないかしら」

 アリサが俺の事を心配して言っているのは分かる。だが、逃げていたのでは成長しない。


「あの中ボスを倒せる魔装魔法使いというと、A級ランキングで二十位以内じゃないと、無理かもしれない」

「クラリスさんみたいな?」

「そうだな。クラリスさんなら勝てるだろう」


 クラリスが戦っている姿を見た事があるが、全ての魔物を一太刀で仕留めていた。まあ、相手がドラゴンクラスになると、戦い方も変わるのだろうが。


「クラリスさんは、A級七位でしょ。グリムは?」

「モイラの件もあって、二十九位だよ」

 賢者モイラの教育を引き受けた時、実績となるポイントで報酬をもらう事になっていたのだ。このまま頑張れば、二十位以内に入れるかもしれない。


 俺とアリサは、地上に現れるという三本角ドラゴンが気になったので、鳴神ダンジョンの十四層にある遺跡の壁画と文章を調べ始めた。


 壁画と文章は写真に残しているので、その写真をテーブルの上に広げる。数百枚も有る写真の中から、三本角ドラゴンの壁画が写っている写真と、それに関連するらしい文章の写真を探し出す。


「文章は神殿文字で書かれているみたいね」

「俺の出番だな」

 神殿文字を読み始めると、難しい顔になる。

「何が書かれているのです?」


「この三本角ドラゴンは『雷神ドラゴン』、と呼ばれる魔物らしい」

 しかも、かなり危険なブレスを使うドラゴンのようだ。

「どんなブレスなの?」

「どうやらプラズマみたいなものをブレスするらしい」


「危険そうなブレスね。アメリカの冒険者はどうするのかな?」

「さあ、分からない。それより気になるのは、このドラゴンが、驕り高ぶる者に罰を与える、と書かれている点なんだ」


 アリサが首を傾げた。

「アメリカが驕り高ぶっているという事?」

「何かしたんじゃないか、と疑っているんだけど」

「ダンジョンが怒るような事を、アメリカが行ったというの?」

「罰を与えるというのだから、そうだろう」


「この情報は、アメリカに送った方がいいと思う」

「そうだな。冒険者ギルド経由で送ろう」

 俺は近藤支部長に連絡して、遺跡に書かれていた情報をアメリカへ送ってもらった。


 次の日から高速戦闘術の修業を再開した。二日に一度くらいの割合でタイチも参加して、高速戦闘術を教える。やはり高速戦闘中に生活魔法を発動するのに苦労しているようだ。


「先生、あんな短時間でD粒子を集めるというのは、難易度が高すぎます」

「そのために『干渉力鍛練法』の鍛錬が有るんじゃないか。頑張っているのか?」

「げっ、そんな関連があったんですか。『干渉力鍛練法』も頑張ります」


 弟子の中で高速戦闘術に一番秀でているのは、千佳だろう。その次がタイチかアリサという事になるが、アリサの高速戦闘術は独特だった。


 アリサ自身が高速で動くというのはなくて、『超速視覚』を駆使して敵を捉え、その場で生活魔法を発動し敵を倒すというものなのだ。


 タイチも生活魔法を使えるようにしようとしているが、それは高速で動きながらなので、アリサのやり方より倍ほど難しい。


 そんな修業を続けている時、アメリカのカリフォルニア州にあるダンジョンから、雷神ドラゴンが現れてパニックになっている、というニュースが飛び込んできた。


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