第520話 十五層のアースドラゴン

 朝起きて食事を済ませると、タイチたちは打ち合わせを始めた。

「姫川さんと立脇さんは、離れた場所で待機していてくれないか」

 タイチが頼むと二人が頷いた。

「分かりました。自信は有るんですか?」


 タイチとシュンは頷いた。

「僕たちにはクラッシュ系の魔法が有るからね。それに他にも強力な魔法がある」

「気を付けてください」


 姫川の言葉で送り出されたタイチとシュンは、草原の中央へ向かう。この十五層全体が中ボス部屋となっているらしい。


 アースドラゴンは草原の中央に居る。起伏の有る草原を中央に向かって進むと、アースドラゴンが見えてきた。全長九メートルで口からストーンブレスを吐く化け物である。


 シュンがアースドラゴンを見て首を振る。

「ドラゴンか、やっぱりデカいな」

「ビビっているんじゃないだろうな?」

「怖くないという冒険者が居たら、そいつは馬鹿か嘘吐きだよ」


 それを聞いてタイチが笑った。

「もしかすると、グリム先生なら、怖くないと言うかもしれないぞ」


 シュンが肩を竦めた。

「先生は例外さ。光剣クラウ・ソラスの一撃で、倒してしまうかもしれないんだから」

 二人は『センシングゾーン』と『オートシールド』を発動する。それからシュンだけ『ウィング』を発動しD粒子ウィングに鞍を装着して跨ると飛び上がった。


 二人は地上と空中から攻撃する作戦を立てたのである。アースドラゴンに近付いたタイチは、アスカロンを握り締めた。アースドラゴンが二人に気付いて咆哮を上げる。


 その咆哮は二人の身体がビリビリと震えるほど強烈だった。シュンが先手を取って、『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールをアースドラゴンの胸に向かって投げる。


 それに気付いたアースドラゴンは、咄嗟にストーンブレスで迎撃した。空中でD粒子振動ボールとストーンブレスが交差し、D粒子振動ボールが弾け飛んだ。


 ストーンブレスの向きが変わり、シュンのD粒子ウィングを追い掛け始める。シュンは旋回しながら増速し最高速度にまで上げて逃げる。シュンの背後でストーンブレスが大気を切り裂きながら通り過ぎる音を聞いた。


 逃げ切ったシュンは、自分だけの特技を持とうと思い空中戦の技術を磨いた成果が出た、と喜んだ。グリムに教わりながらアクロバット飛行もできるようになり、どんな姿勢からでも生活魔法を発動できるように鍛えたのだ。


 一方、タイチはシュンの方へ注意を向けているアースドラゴンへ気付かれないように近付く。そして、『クラッシュボールⅡ』を発動しようとした時、アースドラゴンが振り向き目と目が合った。


 ヤバイと思いながらも『クラッシュボールⅡ』を発動し高速振動ボールを撃ち出す。アースドラゴンが大口を開ける。


 タイチは『フラッシュムーブ』を発動し身体を斜め上の百メートル先に移動。その直後、高速振動ボールがストーンブレスで撃ち落とされた。


 シュンがアースドラゴンの背後に回り込んで、『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールを放った。そのD粒子振動ボールがアースドラゴンの巨大な背中に命中し風穴を開ける。


 激痛を感じて吠えるアースドラゴンは、長い尻尾を振り回し暴れる。それがD粒子ウィングの翼を掠めた。アースドラゴンが狙った訳ではなく偶然だったらしい。


 弾き飛ばされたD粒子ウィングがキリモミ状態となって落下を始め、シュンは『ウィング』の魔法を解除。キリモミ状態ではなくなったが、落下は止まらない。


 シュンは『エアバッグ』を使って着地した。アースドラゴンは痛みで暴れている。それをチャンスと見たタイチが、連続で『クラッシュボール』を発動し五発のD粒子振動ボールをアースドラゴンへ放つ。


 振り回している尻尾が二発のD粒子振動ボールを弾き飛ばしたが、残りの三発がアースドラゴンに命中して、空間振動波を放射した。胸を貫いた空間振動波が肺を貫通したらしく巨大な口から血が吐き出される。


 アースドラゴンが狂ったように暴れているのを見て、シュンは駆け寄り『クラッシュソード』を発動する。空間振動ブレードがアースドラゴンの右足を斬り裂き、その巨体が凄まじい音を響かせて地面に倒れた。


「タイチ、トドメだ!」

「おう!」

 タイチは七重起動の『ダイレクトボム』を発動しD粒子爆轟シェルを、アースドラゴンの頭に叩き付けた。凄まじい爆発が起こり、アースドラゴンの頭が消し飛ぶ。爆風でタイチとシュンも地面を転がったが、大したダメージは受けていない。


 それがトドメとなってアースドラゴンの巨体が消える。その様子を地面に横たわったまま二人は見ていた。

「仕留めたぞ!」

「やったー!」


 タイチとシュンは地面を転がりながら喜んだ。シュンが起き上がって自分の身体をチェックすると、あちこちから血が流れている。


 尻尾で撃墜された時に出来た傷かもしれない、とシュンが考えていると、傷が痛み始めた。

「初級治癒魔法薬だ。飲んどけよ」

 タイチから渡された初級治癒魔法薬を飲み干した。すると、出血が止まり傷が塞がる。


「ありがとう」

 シュンも治癒魔法薬は持っていたのだが、中級だったので使うかためらっていたのだ。


「それより、ドロップ品を探そう」

 タイチとシュンはドロップ品を探し始めた。最初に白魔石<中>が見付かり、次に巾着袋型バッグを発見した。


 タイチが鑑定モノクルを使って調べてみると、やはり巾着袋型マジックバッグで縦・横・高さのそれぞれが十二メートルの空間と同じ容量が有るらしい。


 次に発見したのは剣だった。それを鑑定してみると『シヴァ神の剣アパラージタ』と表示された。しかも、神話級の魔導武器らしい。ちなみに、アパラージタとは無敵という意味だという。


 シュンが『マジックストーン』を発動して確かめたが、ドロップ品は他にないようだ。

「それじゃあ、次は宝箱を探そう」


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