第518話 地元冒険者とフォートスパイダー
宿無しであるフォートスパイダーの討伐は、C級の地元冒険者が合同して行うようだ。
「お二人は、十五層のアースドラゴン狙っているのですよね?」
受付の女性がタイチとシュンに声を掛けた。
「そうだけど、二層のフォートスパイダーを倒さないと、先には進めないんじゃない?」
「そうなんです。少し待ってもらえませんか?」
タイチとシュンは頷いた。それで参加はしないが、見物に行く事にする。討伐が終わったら、そのまま三階へ進もうと思ったのである。
フォートスパイダーの討伐には、姫川という女性冒険者も参加するようだ。
「あれっ、二人も討伐に加わるの?」
姫川が尋ねた。タイチたちがギルド職員と話していたので勘違いしたらしい。
「見物するだけだよ。僕たちの獲物は、アースドラゴンだから」
「へえー、中ボスを狙うのなら、相当な実力者なのね。二人は魔装魔法使い、それとも攻撃魔法使いなの?」
それを聞いたタイチとシュンが顔を見合わせて苦笑いした。シュンが姫川に顔を向ける。
「僕らは生活魔法使いです」
「もしかして、グリム先生と関係があるの?」
「弟子です。先生が立ち上げたバタリオンのメンバーでもあります」
シュンは誇らしそうに胸を張った。
ここの近くにはバタリオンはないらしい。それもあってB級以上の冒険者が育たないのだと言われている。
討伐チームが打ち合わせ部屋へ行ったので、タイチとシュンは早月ダンジョンの最新地図などを手に入れてから、ホテルに戻る事にした。フォートスパイダー討伐チームの出発が、明日の九時だと聞いたので、早めに休もうと思ったのだ。
ゆっくり休んだ翌日、二人は朝早くから早月ダンジョンへ向かう。
「おはようございます」
ダンジョン前で最後の打ち合わせをしている冒険者たちに挨拶してから、ダンジョンハウスで着替えて、外に出る。ちょうど討伐チームがダンジョンに入るところだった。
タイチとシュンも続いて中に入り、一層の草原に足を踏み出す。この一層はオークとかアタックボア程度の弱い魔物しか居ないらしい。
タイチとシュンは先頭に立って遭遇する魔物を倒しながら進み始めた。討伐チームには、二層まで魔力を消耗しないように進ませるためである。
露払い的な役目を一層の階段のところまで続け、階段を下りて二層に到着する。
「うわっ、デカいな」「本当だ」
荒れ果てた荒野が広がる大地の先にフォートスパイダーの姿が見えたので、タイチとシュンが声を上げた。地元冒険者たちは顔を強張らせて見詰めている。
足を除いた胴体だけでも家ほどの大きさがある大蜘蛛だった。その外殻は呆れるほど頑丈で、攻撃魔法の『ソードフォース』も撥ね返すと言われている。
但し、クラッシュ系の生活魔法には弱いだろうと予想していた。動きが素早いという訳ではないので、『クラッシュボール』などが命中しやすいのだ。
クラッシュ系の生活魔法が開発されるまでは、C級冒険者でも返り討ちになるかもしれないほど強い魔物という評価だったが、クラッシュ系が習得できるようになると、生活魔法使いの間では動きが遅いフォートスパイダーの評価が下がったのだ。
「よし、行くぞ!」
討伐チームのリーダーに指名された大橋という攻撃魔法使いが、戦闘開始を宣言する。姫川を含めた六人の冒険者たちが、フォートスパイダーを目指して走り出した。
タイチとシュンもゆっくりと歩いて追い掛け始めた。フォートスパイダーに近付くと、戦いに巻き込まれないように距離を置きながら観戦する。
魔装魔法使い三人と攻撃魔法使い三人のチームなので、魔装魔法使いがフォートスパイダーの注意を引き、その隙に攻撃魔法使いがダメージを与えるという作戦らしい。
魔装魔法使いたちが身体能力を強化して、フォートスパイダーへ向かって行った。剣や槍で攻撃しているが、それほど威力のある魔導武器を持っている冒険者は居ないようだ。
攻撃のほとんどがフォートスパイダーの外殻に弾かれている。それでも大蜘蛛の注意を引くという役目は果たしていた。
その隙に攻撃魔法使いたちは、仕留めるための魔法を準備していた。姫川は魔装魔法使いに退避するように合図を送ってから『メガボム』を発動した。だが、直接命中せず近くの地面に着弾し大爆発を引き起こす。
衝撃波と爆風がフォートスパイダーをよろけさせたが、大したダメージは与えられなかった。もう一人の攻撃魔法使いは『デスショット』を発動し徹甲魔力弾をフォートスパイダーに叩き付け、硬い外殻に穴を開けた。
ただ巨体に比べると小さなダメージである。最後の攻撃魔法使いが『スーパーノヴァ』を発動し圧縮魔力砲弾をフォートスパイダーに叩き付けた。
爆発が起きて高熱の炎が、フォートスパイダーを包み込む。やったか、とタイチとシュンも思ったが、炎が消えると全身が焦げたフォートスパイダーが現れた。
「しぶとい魔物だな」
タイチが独り言のように言うと、シュンが頷く。
「グリム先生が、フォートスパイダーを倒した時は、どうやって倒したんだろう?」
シュンがタイチに尋ねた。
「先生は『ダイレクトボム』を使って倒したんだ。その様子を記録したものが、バタリオンの資料室にある。今度、資料室へ行った時に読んだ方がいい」
バタリオンのメンバーになると、他のメンバーが戦った記録を読む事ができる。それが非常に参考になるのだ。
フォートスパイダーが長い足を振り回して冒険者たちを攻撃している。魔装魔法使いたちが注意を引き付け、攻撃魔法使いが威力のある魔法で攻撃するという作戦を続けていたが、フォートスパイダーが攻撃魔法使いに気付いて走り出した。
それを見た攻撃魔法使いたちが後退する。逃げ遅れた攻撃魔法使いの一人が、大蜘蛛の攻撃を受けて跳ね飛ばされた。
「あっ、まずい」
タイチが思わず声を上げた。シュンがタイチに目を向ける。
「どうする? 手を貸す?」
「加勢しよう。命に関わりそうだ」
タイチとシュンが走り出した。
シュンが三連続で『クラッシュボール』を発動し、三発のD粒子振動ボールを放った。そのD粒子振動ボールがフォートスパイダーに命中して、貫通するほどの穴を開ける。あれほど頑丈だった大蜘蛛の外殻もクラッシュ系の魔法には弱いのが確かめられた。
シュンの攻撃でフォートスパイダーの足が止まる。そこにタイチが走り寄り、『クラッシュボールⅡ』を発動し高速振動ボールを放つ。
それに気付いたフォートスパイダーが逃げようとしたが、元々動きが遅い上に、シュンの攻撃でダメージを受けていたので、逃げられなかった。
高速振動ボールが、フォートスパイダーの胴体に命中し大穴を開け体液が流れ出す。
「チャンスだぞ。攻撃するんだ」
地元の冒険者たちに声を掛けた。その声で姫川たちが攻撃を再開しフォートスパイダーを仕留めた。
シュンがタイチに顔を向けるとニヤッと笑う。
「地元冒険者にトドメを譲るとは、意外と優しいんですね」
「獲物を横取りされたと思われるのが、嫌なだけさ」
タイチが照れたような顔をした。
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