第517話 早月ダンジョン

 俺たちが地上に戻ったのは、夜の七時を過ぎていた。急いで冒険者ギルドへ行って、帰り支度をしていた支部長を呼び止めて報告した。


「なるほど、十八層に神域があり、それを守護鬼が守っていた。という事だな?」

「ええ、高速戦闘が上手い鬼でした」

「その鬼を、どうやって倒したか教えて欲しい」


「俺とエルモア、為五郎でチームを組んで戦ったんです。高速戦闘になり、俺は守護鬼の薙刀が持つ特殊機能を受けて負傷しました」


「グリム君が負傷したとは、かなり手強い相手だったのだな?」

「ええ、負傷した時に放った魔法が相手に命中したので、チャンスを作れたんです。そこにエルモアと為五郎が攻撃して倒す事ができました」


 俺は守護鬼の戦い方を中心に詳しく説明した。

「怪我は大丈夫なのかね?」

「大丈夫です。完治しています」

「それは良かった。それで神域には何が有ったのかね?」


 俺は神社と『ガラガラ』について詳しく話した。

「ほう、雷神ダンジョンの御神籤と同じだな。最初に『ガラガラ』を回したグリム君は、凄いものを手に入れたのでは?」


「ちょうど欲しかった情報を手に入れましたよ。何を手に入れたのかは秘密です」

 五年ルールでは、ドロップ品や宝箱で何を手に入れたかは、他の冒険者の活動に影響しない限り報告する義務はない。ただ宝箱があった場所や罠があった場所は報告しなければならない。


 但し、報告したらダメだという事ではないので、自慢したい冒険者はドロップ品や宝箱の中身まで報告する場合もあるようだ。


「十九層は階段の位置だけ発見して、最短距離で二十層へ下りたのか。もう少しゆっくりと探索すれば、宝箱が見付かったかもしれないぞ」


「宝箱より、先に二十層の転送ルームを確保したかったんです。転送ルームを見付ければ、いつでも探索に来れますから」


 その答えで支部長は納得したようだ。俺は中ボス部屋と転送ルームの位置を報告した。

「それで中ボスは、どんな魔物だった?」

「キングリザードマンです」

 それを聞いた支部長の顔色が変わった。キングリザードマンは、アメリカで宿無しとして出現した事が有るらしい。


 その時は二十人ほどの冒険者が犠牲になったようだ。それほどキングリザードマンは強いという事だ。またキングリザードマンが使う武器は、『ダーインスレイヴ』という魔剣らしい。


 その魔剣で傷を負った場合、魔法薬やアイテム、通常の治療では治せないと言われているようだ。神威エナジーを使った治療はどうだろう?


「キングリザードマンと戦ったのかね?」

「いえ、戦っていません」

「いい判断だ。完治したとは言え、大きな傷を負ったのだ。血も流れただろうから、体調は万全ではなかったはず。そういう時は、戦うべきではない」


 流れ出た血の量が回復するには、数日から十数日ほどが必要だろう。

 俺はキングリザードマンの資料をアメリカから取り寄せてくれるように、支部長に頼んだ。それから屋敷に戻り、シャワーだけ浴びて何も食べずに寝た。やはり相当疲れていたらしい。


 翌朝、起きると疲れが取れていた。

「ふあぁーうみゅ」

 あくびをして起き上がると着替えて顔を洗う。それから食堂へ行くと金剛寺とアリサが居た。


「おはよう。朝早くからどうしたんだ?」

 アリサが時計を指差したので、そちらに目を向けると時計の短針が十時を指している。肩を竦めて椅子に座る。

「メティスから、怪我をしたって聞いたので、心配で来たんです」


 メティスは俺が怪我するような事があったら、アリサに連絡するようにお願いされていたようだ。

「怪我したけど、もう完治しているから、心配なかったのに」

 アリサが俺の背後に立って、後ろからハグされた。俺が大丈夫な事を確かめたかったようだ。ちょっと幸せな気分。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 鳴神ダンジョンの攻略が二十層まで進んだ数日後、タイチとシュンは二人で遠征する事にした。二人は装甲車を手に入れたいと思っており、そのための資金稼ぎが必要なのだ。


 その遠征先は富山の早月ダンジョンである。この上級ダンジョンの十五層にある中ボス部屋に、中ボスが復活して探索活動に影響が出ているらしい。


 その中ボスというのが、五大ドラゴンの一種であるアースドラゴンだ。このアースドラゴンの居る中ボス部屋には宝箱があり、前回は大量の金貨が入っていたという。


 タイチたちは列車で大宮まで行って、乗り換えて富山へ向かう。

「グリム先生が、鳴神ダンジョンの二十層まで辿り着いた、と聞いたけど、何か知ってる?」

 シュンがタイチに尋ねた。


「十八層に神域というのがあって、守護鬼が守っているらしい」

「へえー、強いの?」

「グリム先生が怪我したほど、手強かったようだ。今の僕たちじゃ勝てないと思う」


 タイチはグリムから聞いた神社や『ガラガラ』、十九層の蟻地獄の話をした。

「凄いな。海外でも活躍しているのに、鳴神ダンジョンでもトップだよ」


 タイチたちは鳴神ダンジョンの十層まで攻略したが、十一層を突破できずにいた。その原因は十一層のナメクジ草原である。ランニングスラッグやアリゲーターフライがうようよ居る草原は、生活魔法だけでは突破できなかったのだ。


 グリムなら『ガイディドブリット』を駆使して強行突破も可能なのだが、タイチではまだ難しかった。


 それでどうやって突破するかを話し合い、装甲車を購入する事に決めたのである。この時、タイチの生活魔法の魔法レベルが『16』、シュンの魔法レベルが『11』だった。


 列車が富山に到着し、二人は駅に降りた。そこからバスで早月ダンジョンの近くにあるホテルまで行ってチェックインする。


 少し休んでから冒険者ギルドへ行った。小さな冒険者ギルドだったが、今日は人が多い。何かあったらしい。


 タイチたちは受付に行き、当分の間、早月ダンジョンで活動する事を報告する。対応してくれたのは、二十代前半の可愛い感じの女性だった。


「早月ダンジョンですか。それはちょっと問題ですね」

 シュンが首を傾げて確かめる。

「どういう事?」

「二層に宿無しが出たのです。目撃者はフォートスパイダーだと言っており、自分たちで倒そうという冒険者が集まっているのです」


「フォートスパイダーくらいで大げさじゃないか?」

 タイチがそう言うと、後ろから声を掛けられた。

「あなたたち、よそ者ね。早月ダンジョンで活動している冒険者の現状を知らないから、そう思うのよ」


 タイチたちが後ろを振り返ると、二十代の女性冒険者が立っていた。彼女は姫川ミナミという攻撃魔法使いだという。


「早月ダンジョンは、上級ダンジョンと言っても最小規模のダンジョンで、それほど手強い魔物が豊富だという訳ではないのよ」


 フォートスパイダーやアースドラゴンは久々の大きな獲物であり、冒険者たちは張り切っているらしい。

 それを聞いたタイチは、早月ダンジョンで活動している冒険者の中には、上昇志向の持ち主が少ないのかもしれないと思った。


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