第516話 砂漠の蟻地獄
俺たちは神社のような建物と、その周囲を調査した。場違いなガラガラは別にして、そこは本当に神社のようだった。
独特の反り返った屋根を持つ本殿の建物や参道、鳥居などは神社そのものであり、本殿の周りにある巨木の森は太古から存在するような錯覚を覚えさせる。
『十九層への階段はありませんね』
俺は溜息を漏らし、ガラガラへ目を向ける。あの中には数多くの白い玉が入っていそうだな。白玉は何を冒険者にもたらすのだろう?
『何を考えているのですか?』
「ガラガラが白玉だったら、何になったのかと考えていたんだ」
『白玉というと、ハズレですか。きっとタワシじゃないですか』
メティスの中で、ハズレ=タワシという図式が成立しているらしい。
鳥居から外に出て、周囲を探し回る。守護鬼と戦った場所の手前に、別の細い道があるのを発見した。神社まで通じていた道とは、五十メートルほど離れた場所にある道だ。
『これが階段へ通じる道かもしれません』
「とにかく確かめてみよう」
俺たちは発見した道を進み、二キロほど進んだ先にあった二本の巨木の間に、階段を見付けた。
「ふうっ、ようやく十九層へ行けそうだ」
階段を下りて十九層へ辿り着く。そこには砂漠が広がっており、遠くに三本の巨大な角のような岩が見える。
『あの三本岩のところに、何か有りそうです』
エルモアが砂漠の砂に足を踏み入れた時、砂の中から巨大な蟻地獄のような魔物が出てきて、巨大なハサミのような顎でエルモアを切断しようとした。
エルモアは『クラッシュソード』を発動し空間振動ブレードで、二メートルほど有りそうな魔物を真っ二つにする。
「大丈夫か?」
俺が声を掛けると、エルモアが頷いた。
『入り口近くに、あんな魔物が居るとは思わなかったので、驚きました』
「ふーん、メティスでも驚く事が有るんだ」
『人間の驚き方とは違うと思いますが、驚いて思考速度が加速しました』
魔導知能は驚くと思考速度が加速するのか、知らなかった。人間のようにドキドキする心臓もないから、驚き方は違うのだろう。
「こんなところに魔物が居るという点を考えると、今の蟻地獄のような魔物がうようよ居るんだろうか?」
『蟻地獄というのは、ウスバカゲロウの幼虫でしたね。あれは砂地にすり鉢状の罠を作って、落ちてきた蟻を捕まえるという虫だったはずです』
「形が似ていたんだよ。但し、本物の蟻地獄は一センチくらいの小さな虫だけど」
俺はD粒子センサーと魔力感知を使って、魔物の存在を探った。すると、そこら中に魔物が潜んでいるのを感じた。
俺はマルチ鑑定ゴーグルを取り出して装着し、砂漠に向かって『ジャベリン』を発動。地面にD粒子の槍が突き刺さり砂煙を上げる。
その瞬間、砂の中から先ほどと同じ魔物が飛び出してきた。その魔物をマルチ鑑定ゴーグルで調べると『デェザートヒットマン』と表示される。砂漠の殺し屋という意味らしい。
デェザートヒットマンというより、やっぱり蟻地獄だな。そいつは近くに獲物が居ないので、また砂の中に潜ってしまった。どうやら目が悪いらしい。
「振動や音で相手を認識するようだ」
『どうしますか?』
「数が多すぎるから、倒しながら進むのは面倒だし、ホバービークルで行こう」
俺はホバービークルを出し、乗り込んで出発した。下には無数とも思える蟻地獄が居るので、高度を四メートルに保って飛行する。
三本岩に到着した。そこは大きな岩の上に三本の角のような岩が聳え立っている構造になっている。
ホバービークルから降りて三本岩の中心へ行くと、あっさりと階段が見付かった。この十九層は蟻地獄を何とかすれば、簡単に攻略できるエリアらしい。
階段を下りて二十層へ到着し、見回すと目の前に山があった。空に魔物の姿がないので、上空から観察しようと思う。エルモアと為五郎を影に入れ、『ウィング』を発動する。
D粒子ウィングに乗って上空から山を観察。大きなすり鉢状のカルデラを持つ山で、たぶんカルデラの中に中ボス部屋と転送ルームがあるんじゃないかと予想する。
高さが三百メートルほどで木々に覆われた山であるが、所々に魔物の気配があり危険な山のようだ。その気配が時々消える。不思議に思って近付いてみると、その気配の主はダークリザードマンだった。
「影に潜ったんだな。だから、気配が消えるのか」
『ガイディドブリット』を使って攻撃すると、簡単に仕留められるのが分かった。三匹ほど狩って影魔石とシャドウクレイ十二キロを手に入れてから、カルデラの縁である外輪山を越えて内側に入り、二つのものを見付けた。
カルデラの内側斜面に転送ルームらしい入り口、そして、中央には巨大なドーム状の建物が見えた。そこに中ボスが居るのだろう。
ドーム状建物の近くに着地して、影からエルモアと為五郎を出し建物の入り口から中を覗く。中に居た中ボスは、三本角を持つリザードマンのような魔物であった。
マルチ鑑定ゴーグルを出して調べてみると、『キングリザードマン』と表示された。しかも、高速戦闘を得意とする魔物で、魔装魔法の『ヘルメススピード』が使えるらしい。
『ヘルメススピード』は素早さを十倍にする魔法である。俺の実力は八倍までしか安定して素早さを上げられないので、戦えば瞬殺される恐れもある。
『どうしますか?』
「一か
『それが良いと思います』
俺たちは転送ルームから、一層へ移動すると地上に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます