第515話 守護鬼との戦い
この神域の守護者は『守護鬼』と呼ばれているようだ。守護鬼は体長三メートルほどでオーバーロードベアよりも小さいが、その体内に秘めているパワーは桁外れだと感じた。
エルモアがゲイボルグを守護鬼に向かって投擲する。それは三つに分身して、守護鬼の胸に命中しようとする。だが、守護鬼はゲイボルグの軌道を正確に見定め薙刀で防いだ。薙刀によって弾かれたゲイボルグは、エルモアの手の中に戻る。
「あの薙刀も普通の武器じゃなさそうだ」
そう呟くと俺も戦闘に参加する。為五郎が雷鎚『ミョルニル』に魔力を流し込み守護鬼に投げる。クルクルと回転するミョルニルは、五倍ほど巨大化して守護鬼の顔面に叩き込まれようとした。
それに向かって守護鬼が薙刀を振り下ろす。ミョルニルと薙刀がぶつかり、力比べとなった。守護鬼の顔面に飛翔しようとするミョルニルと薙刀がギシギシと音を上げてせめぎ合った後、ミョルニルが力負けして為五郎の手に戻って来る。
パワーでは勝てないと判断した俺は、『スカンダの指輪』に魔力を注ぎ込み素早さを八倍にまで上げた。周りの時間が次第に遅くなるのを感じて走り出す。
守護鬼の懐に飛び込んだ俺は、その分厚い胸に神剣グラムの切っ先を突き入れた。守護鬼がニッと笑ったように見えた次の瞬間、同じ速さで神剣グラムの切っ先を薙刀で受け流し、薙刀の石突きで俺の腹を突こうとする。
その攻撃を身体を捻ってギリギリで躱すと、『クラッシュソード』を発動し空間振動ブレードを守護鬼の胸に送り込む。守護鬼は後ろに跳んで躱した。その時、空間振動ブレードの切っ先が鬼の胸を掠める。
守護鬼の胸が四十センチほど斬り裂かれ、その青い血が宙を舞う。丸い玉となった血の塊が地面に落ちずに宙に留まっているように見える。
俺の時間感覚が高速化しているせいだと理解しているが、奇妙な感じだ。追撃で五重起動の『サンダーバードプッシュ』を発動し稲妻プレートを守護鬼に飛ばす。
その稲妻プレートを無視して、守護鬼が薙刀を俺に向けて振り抜いた。薙刀のリーチでは届かないと分かっているはず。薙刀の特殊機能を使ったのだと直感した俺は、必死に横に跳んだ。その瞬間、俺の横腹が切り裂かれ真っ赤な血が噴き出した。
俺の身体は地面を転がると同時に『スカンダの指輪』の効力が切れた。
守護鬼の顔面に放った稲妻プレートが命中し、その巨体を強烈な電気が流れる。その影響で守護鬼も高速戦闘モードから元に戻ったようだ。
俺と守護鬼が離れた瞬間、エルモアが七重起動の『コールドショット』を発動しD粒子冷却パイルを守護鬼に放った。絶妙なタイミングで放たれたD粒子冷却パイルは、守護鬼の胸に命中して終端がコスモスの花のように開き、その運動エネルギーを余すところなく叩き込む。
鬼の胸がボコッと陥没し口から青い血を吐き出す。そこに為五郎がミョルニルを投擲する。巨大化したミョルニルは、守護鬼の頭に命中し頭蓋骨を砕く。
それが致命傷となって守護鬼は息の根が止まった。
俺は『治療の指輪』を取り出して、怪我の近くに押し当て発動させた。激痛が薄れ流れ出ていた血が止まり、傷口が塞がり始める。
『グリム先生、大丈夫ですか?』
「あんまり大丈夫じゃない。衝撃吸収服のスイッチを入れていたのに、竜王鎧ごと斬られた」
『物理的力ではなく、魔法だったからでしょう』
魔法無効の布が収納アームレットの中に眠ったままになっているのを思い出した。何をエネルギー源として作動するのか分かれば良いんだが。
「少し休む。ドロップ品を集めてくれ」
『分かりました』
エルモアと為五郎が拾ってきたのは、白魔石<大>と薙刀、それに直径三センチほどのダイヤモンドのようなものだった。
マルチ鑑定ゴーグルを取り出し薙刀を調べた。『
「これはトドメを刺した為五郎が使うといい」
薙刀『岩融』を為五郎に渡す。為五郎が嬉しそうな顔をする。為五郎は予備の魔導武器を持っていなかったので、ちょうど良いと思ったのだ。
ダイヤモンドのような結晶を調べると、『神威石』と表示された。
「神威石だって……もしかして」
俺は神威月輪観の瞑想を行い、神威の力を引き出すと神威石に流し込んだ。すると、神威の力が神威石に蓄積される。
この神威石は神威の力を蓄積し必要な時に放出できる機能が有るようだ。先ほど思い出した魔法無効の布を取り出して、神威石から取り出した神威の力を魔法無効の布に流し込んだ。
すると、布から不思議な力が放出され周りの魔力が分解され、何か別の力となって消えた。魔法無効の布のエネルギー源は神威の力だったらしい。
『傷の具合はどうですか?』
装備を外して傷口を調べてみると、ほぼ傷口は塞がり動けるくらいには治っている。ただ動くと引きつるような軽い痛みが走る。
「完治はしていないが、動けそうだ」
もう一度装備を着けてから神域に足を踏み入れる。鳥居を潜り中に入ると、清々しい空気に変わったように感じた。
参道が神社のような建物に繋がっており、その神社へ行くと直径二メートルも有りそうな『ガラガラ』とか『ガラポン』とか呼ばれている回転抽選器があった。
「デカっ」
思わず声が出てしまった。これは雷神ダンジョンにある聖域の
エルモアが進み出てガラガラを回そうとしてみたが、ダメだった。たぶん人間に限定されているのだろう。俺が進み出て回すとガラガラと音がして、金色でテニスボールほどの玉が飛び出してきた。
「やったぜ、金だ!!」
『これが当たりなんですか?』
俺は頷いて玉を拾い上げた。すると、頭の中に情報が流れ込んできた。『神威の宝珠』は神威の力を手に入れる方法だったが、今回の情報は神威の力を利用するための情報だった。
その情報では、神威の力を『神威エナジー』と呼んでいた。その神威エナジーは次元を超越して作用する意思を持つパワーとされている。
その中で意思を持つというのは、神威エナジーに『人を癒やしたい』とか『魔物を滅ぼしたい』という思いを込めれば、その思いに沿った効果を発揮する事を意味しているらしい。
それをメティスに話すと、
『それでは試してみましょう。『癒やしたい』という思いを神威エナジーに込めて、傷口に流し込んではどうですか?』
頷いて試してみた。新しく得た知識に従って『癒やしたい』という思いを神威エナジーに込めて、傷口に流し込む。一瞬で引きつるような痛みがなくなった。
「完治した。神威エナジーはかなり使えるようだ」
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