第514話 神域の守護者

 モイラが居る間は水月ダンジョンへ行っていたので、久しぶりに鳴神ダンジョンへ潜った。一層の転送ルームから十五層へ移動し、十六層の氷迷路は冒険者ギルドで地図を公開していたので、最短距離を進む。


「寒いな」

 俺が白い氷で囲まれた迷路で愚痴を零すと、メティスが、

『新しい防寒着を買えば良かったのです。金は有るのですから、使わなければ意味がありません』


「そうだけど、古い防寒着があったから、これで大丈夫かな、と思ったんだ」

 変なところでケチってしまった。

『この際、保温マントを使ったらどうですか?』

「でも、戦闘になったら、傷を付けるかもしれない」


『寒くて動けなくなるよりは、マシです』

 俺は肩を竦め、忠告通り保温マントを羽織った。寒さが完全に遮られ、ホッとする暖かさになる。


 先頭を行くエルモアが、魔物を発見して合図した。

『アイスワームです』

 アイスワームは体長八メートルの巨大ミミズである。この魔物の特徴は、外殻に大量の白輝鋼を含んでいるという点だ。


 こいつのような魔物が、中級ダンジョンに現れたら倒すのに苦労する冒険者が大勢いるだろう。だが、上級ダンジョンの十六層だと、雑魚扱いである。


 エルモアが、絶海槍で頭を突き刺し一撃で仕留めた。赤魔石<小>を拾い上げ、何事もなかったかのように前進を再開する。


 十六層は何も見付けられないで通過した。他の冒険者たちが、ほとんどを発見した後なのだろう。十七層に下りると、大きな湖が広がる光景が目に飛び込んできた。


 鳴神ダンジョンの先頭集団は、十八層に到達したそうだ。十七層から十八層への階段は湖の中にあるらしい。水面より少し下に入り口があり、湖に飛び込んで入り口から入らねばならないという。


「潜水艦みたいなものを作ろうかな」

『この湖に潜るのも数回だと思いますよ』

「それは分からない。十九層や二十層への階段が見付からなくて、何回も湖に潜る事になるかもしれない」


『それより魔法を創っては、どうでしょう』

「水に潜る魔法か。それでもいいな」

 とは言え、潜水艦も水に潜る魔法もないので、ホバービークルで入り口まで飛んで行き、目印である岩の上に降りてから、ホバービークルを仕舞って服を脱いで下着姿になってから湖に飛び込む。周りには魔物は居ないようなので、入り口から入って通路の先を目指して泳ぐ。


 すると、通路の水が減り始め普通に歩けるようになる。俺はエルモアと為五郎を影から出した。

「周りの見張りを頼む」

『分かりました』「ガウッ」

 その言葉を聞いて着替え始めた。濡れた下着は脱いでタオルで身体を拭いてから、新しい下着に着替え、ちゃんと装備を付ける。


 着替えた俺は通路を進み階段を下りて十八層に到着した。十八層は山岳エリアであり、五つの山が連なる地形をしているようだ。


 ここのエリアはまだ調査が進んでいない。後藤のチームが一つ目の山を調査して、オーバーロードベアと遭遇している。


 オーバーロードベアは体長五メートルで鋼のような剛毛を持ち、手には凶悪な長い爪を備えた手強い相手である。


 そして、一番厄介なのが群れを形成するという習性だ。野生の熊は、群れで狩りをする事はないのだが、このダンジョンの熊は集団で襲って来る。


「体長五メートルの魔物が、集団で襲って来るなんて……考えるだけでも嫌だが、それを突破して進まないと十九層への階段は見付けられないという事か」


 ここの連山には細い道があり、その道を進まないと十八層は攻略できないようだ。

『飛んで進むという事はできないのですか?』

「山は背の高い樹木に覆われているからな。上空からだと階段を探すのは難しいと思う」


『しかし、その細い道が階段に繋がっているとは、限らないはずです』

「そうだけど、何らかの理由が有って、道が存在すると他の冒険者たちは考えているようだ」


 とにかく進む事にした。ここにはオーバーロードベアの他に巨大蟻も棲み着いており、それと頻繁に遭遇する。体長一メートルほどの蟻で、正式名称は違うが日本人は『ジャイアント』と呼んでいる。


 こいつに噛まれると大怪我をする事になるので、近付く前に仕留めるというのが基本である。幅一メートルほどの細い山道を進んでいると、木々の間から出てきたジャイアントを発見した。


 そのジャイアントが凶悪そうな顎を動かしながら近付いてくる。俺は『クラッシュソード』を発動し、狙いすました空間振動ブレードの一撃で真っ二つにした。


「一撃で仕留められるジャイアントでも、頻繁に遭遇すると魔力の消費が心配になるな」

 一般的な冒険者を基準に考えた場合である。俺は不変ボトルに万能回復薬が入っているので、あまり魔力消費については考慮しなくても良い。


 ただシャドウパペットたちは魔力バッテリーなので、なるべく魔導武器やメタルクロウで仕留めているようだ。


 そんな時、オーバーロードベアの群れと遭遇した。六匹の群れである。俺たちを発見したオーバーロードベアは凄い勢いで迫ってきた。


 俺は七重起動の『コールドショット』を連続で発動しD粒子冷却パイルを六匹のオーバーロードベアに向けて放つ。三発のD粒子冷却パイルがオーバーロードベアの肉体に命中し終端のストッパーが開き、その運動エネルギーを叩き付け頭蓋骨や肋骨を折って陥没させた。


 その後の追加効果である冷却もあり、三匹のオーバーロードベアは死んだ。残りの三匹は仲間の死を無視して襲ってきた。俺とエルモア、為五郎で一匹ずつ戦う事にする。


 そのオーバーロードベアが凶悪な爪を振り下ろしてきたので、俺は神剣グラムを振り上げて、剛毛に覆われた腕を斬り飛ばす。


 オーバーロードベアが吠え、突進してきた。その攻撃を五重起動の『プロテクシールド』を発動してD粒子堅牢シールドで受け止めた。


 巨大な熊の突進が止まった瞬間、『クラッシュソード』を発動し空間振動ブレードで頭を真っ二つにする。


 エルモアの方を見ると、ゲイボルグを投擲してオーバーロードベアの胸に穴を開けて仕留めたようだ。一方の為五郎は、ジャキンと伸ばしたメタルクロウで切り刻み仕留めた。


 そんな戦いを何度も繰り返して五連山を進み、不変ボトルの万能回復薬を二回飲んだ頃に、最後の山まで辿り着く。そこには大きな鳥居が建てられていた。そして、鳥居の前に薙刀を持つ大鬼が居るのを目にする。


 オーガとは違う日本の仁王像のような青い皮膚をした大鬼である。

「こいつは何だ?」

『分かりません。マルチ鑑定ゴーグルで調べましょう』

 メティスの言葉を聞いて、マルチ鑑定ゴーグルを出して調べる。その間は、エルモアと為五郎が大鬼の相手をしてくれた。


 鑑定によると『神域の守護者』と表示された。


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