第511話 アメリカから送られて来た新しい特性
近藤支部長からエミリアンの伝言を聞いた後、俺たちはグリーン館へ戻った。食堂で夕食を食べた後、マルヴィナから質問を受ける。
「賢者エミリアンからの伝言は、どういう意味なのです?」
俺は周りに誰も居ないのを確認する。
「マルヴィナさんは、ディアスポラという組織を知っていますか?」
「名前だけは知っています」
モイラに視線を向けると、その細い首を振った。知らないようだ。
「賢者を攫い、何かに利用しようとしている組織らしい。その組織が『テネブル』という犯罪者集団と接触し、その犯罪者集団が日本に配下を送り込んだようだ。目的はモイラを攫う事だろう」
「なぜ、モイラと限定するのですか?」
俺かもしれないと言いたいマルヴィナが尋ねる。
「ディアスポラは、A級になった賢者には手を出さないと言われているんです」
マルヴィナが急に立ち上がった。
「ならば、アメリカに戻らないと」
「いや、アメリカへの復路が危険です。ここに滞在して、テネブルを撃退してから、帰国する方がいいでしょう。連中の中には、B級冒険者も居るかもしれないので、警察に頼っても危ないですよ」
マルヴィナが唇を噛み締め考え込む。
「私はグリム先生のところに居たいです」
モイラが信頼しているという目で、俺を見ながら言った。
『信頼されていますね』
メティスが話し掛けてきた。モイラたちと居る時は、黙っていたのに珍しい。
「分かりました。ですが、警護の者を三名ほど屋敷に入れてください」
俺は承諾した。警護を三人程度増やしても、あまり意味はないのだが、マルヴィナとしては何か手を打たないとダメなのだろう。
二人がゲストルームへ行き、俺は自分の部屋に戻った。
『グリム先生、モイラの警護はどうするのですか?』
メティスが質問する。
「そうだな。強力なシャドウパペットを警護として与えるのが、ベストだろう。だけど、訓練が終わるまで時間が掛かる」
『その警護用シャドウパペットが、使えるようになるまで、エルモアに警護させましょうか?』
「そうだな。それが一番安心できる」
その日は寝て、次の日はシャドウパペットの作製を行う事にした。
ソーサリー三点セットは、以前にエルモアが使っていたソーサリーアイとソーサリーイヤーを使い、ソーサリーボイスは大量生産品を使う事にする。
魔力バッテリーを二個とマジックポーチ、魔法回路コアCは『パペットウォッシュ』『サンダーボウル』『クラッシュソード』『サンダーバードプッシュ』の四つにしようと考えている。
『サンダーボウル』は対人用で、『クラッシュソード』と『サンダーバードプッシュ』が対物用になる。対物用というのは、車に轢かれそうになったり、監禁された場合に脱出手段として使うためである。人間を相手にする警護用というのなら、これ以上に強力な魔法は必要ないだろう。
後は高速戦闘ができるように訓練すれば、B級の魔装魔法使いにも対抗できると思う。
起きてきたモイラが、今日は何をするのかと尋ねた。
「今日はシャドウパペットを作るつもりだよ」
モイラがシャドウパペットの作製を見たいというので、見学させる事にする。それからエルモアを警護として影に潜ませる事にすると伝えた。
エルモアは優雅にお辞儀してから、モイラの影に潜った。その後、マルヴィナが起きて話に加わった。朝食を食べてから、シャドウパペットの作製に取り掛かる。
D粒子を練り込んだシャドウクレイを九十キロほど使い、エルモアに大体の形を作ってもらう。形は以前のエルモアと同じで、尻尾有りの人型である。
そのためにダークリザードマンの影魔石を使って魔導コアと指輪を作製する。身長は百六十センチほどで、顔はエイブラハム・リンカーンに似てしまった。アメリカ人らしい顔にしようと思ったら、こうなったのである。
モイラにも微調整の作業を手伝ってもらったのだが、だんだん顔がリンカーンになっていくのを見て喜んでいた。
ソーサリー三点セットや魔力バッテリー、マジックポーチ、魔法回路コアCなどを埋め込み。最後に魔導コアを組み込んで、髪の毛と眉毛以外は白で塗装する。
そして、魔力を流し込んで仕上げた。
粘土の造形物だったものが、魔力を注ぎ込んで生きているシャドウパペットへ変化する瞬間を見たモイラは、目を丸くして驚いていた。
「先生、シャドウパペットの作製は凄いですね。まるで、神様の仕事みたいです」
モイラが『エイブ』と名付けた。リンカーンの愛称が『エイブ』だったらしい。そのエイブの訓練は、メティスに任せる事にする。それが一番早いからだ。
午後からはモイラに早撃ちの訓練をさせ、基本の『プッシュ』から始め、『コーンアロー』『ブレード』などの訓練を続ける。
マルヴィナはディアスポラの件を、政府に報告して対策を確認していたようだが、具体策が出て来るのは時間が掛かるようだ。
俺は短期間しか日本に居られないモイラのために、一緒に訓練とダンジョンでの実戦を続けた。モイラが生き残り、自由な人生を手に入れるためには必要だと思ったのだ。
数日後、アメリカから荷物が届いた。マルヴィナ宛の荷物で、巻物二十二巻が入っていた。
「グリム殿、この巻物の使い方を教えて頂きたい」
マルヴィナが俺に頼んできた。マルヴィナは、この巻物を開くだけで自動的に使えるようになるとは知らなかったらしい。何か特別な使い方が有るのではないかと思ったようだ。
「その前に、どんな特性か調べましょう」
俺は賢者システムを立ち上げて、二十二巻の巻物を調べた。俺が所有するD粒子二次変異の特性なら、中を開けなくても、どんな特性なのか分かるようなのだ。
その結果、<斬剛>の特性が四巻、<ベクトル制御>の特性が二巻、<分散抑止>の特性が三巻、<編成>の特性が一巻、<反発(地)>の特性が四巻、<電磁波感知>の特性が三巻、未知の巻物が五巻と判明する。
重複している特性の巻物が多い。俺は三割をもらう約束なので、未知の巻物の一巻を開いた。自動的に賢者システムに情報が流れ込み、一つの特性が追加された。
それは<耐熱>という特性だった。他の巻物を調べるともう一つの巻物が同じものである。未知の巻物は残り三巻となり、もう一つを開く。それは<耐雷>の特性だった。それももう一巻あった。
残りは一巻だけ、それを調べると<ステルス>だった。最後の最後で凄い特性を引き当てたようだ。モイラの教育を手伝う代償として、十分なものを手に入れた事になる。
「重複している特性の巻物も有るので、モイラが習得できる特性は、<斬剛><ベクトル制御><分散抑止><編成><反発(地)><電磁波感知><耐熱><耐雷>の八つになります」
俺はモイラに八つの特性を習得させ、その一つ一つを説明した。
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