第506話 ワイバーン対策
北海道から戻った鉄心チームはグリーン館へ向かった。グリムに倚天剣と青紅剣の事をもっと詳しく調べてもらおうと思ったのだ。
門のところで呼び鈴を鳴らすと、猫人型シャドウパペットが走ってきて、鉄心を確認すると門を開けた。バタリオンに所属していない三人には、入館許可証が渡される。
鉄心たちは屋敷に入り、作業部屋に向かった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺は作業部屋で日本精密光学工業から送られてきたイメージ画像記録装置の売上記録と、俺に支払われる利益配分の金額が書かれた報告書を読んでいた。
イメージ画像記録装置は世界中の大きな病院で導入され始めたらしい。その御蔭で莫大な売上を記録し、日本精密光学工業は世界中から注目され始めているそうだ。
そして、共同開発した俺とアリサたちには莫大な利益配分が支払われると書かれている。軽く自家用飛行機が買えるほどなので、車くらいは買うかと考えた。
ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
鉄心たちが入って来た。顔を見ると晴れ晴れとした表情を浮かべている。どうやら北海道での気分転換には成功したらしい。
「北海道はどうでした?」
鉄心がニヤッと笑う。
「百点満点だった。隠されていた中ボス部屋を発見して、中ボスを倒しドロップ品も手に入れる事ができたんだ」
「おめでとうございます。その報告に来た訳じゃないんでしょ」
「ああ、ちょっとだけマルチ鑑定ゴーグルを貸してくれないか?」
「いいですよ」
俺はマルチ鑑定ゴーグルを鉄心に渡す。それを装着した鉄心は、まず倚天剣を調べた。
「この倚天剣に魔力を込めると、剣身から蒼銀でも切り裂く魔力刃となって八メートルまで伸びるようだ。珍しくもない機能だが、使い勝手が良さそうだ」
青紅剣も機能的には同じであり、ただ切れ味が蒼銀ではなく『鋼でも切り裂く』に変わっていたと言う。
ちなみに、倚天剣は武田、青紅剣は野田が使う事になった。鑑定モノクルは松山のものになり、鉄心は『九天玄女の指輪』を自分のものにした。
鉄心がC級昇級試験の課題がブルーオーガからワイバーンに変わった事を教えてくれた。以前から変えようという話はあったので、とうとう変えたのかという感じだ。
但し、ワイバーンになったというのは意外だった。
「何でワイバーンなんだろう?」
鉄心が渋い顔になって教えてくれた。
「最近、上級ダンジョンでワイバーンなどの飛行できる魔物と戦った冒険者が、死亡したり怪我をしたりするケースが多いらしい」
そこで冒険者ギルドは、C級になる課題をワイバーンに変えたのだという。
「それだと魔装魔法使いは、難しいんじゃないんですか?」
俺が疑問を口にすると、鉄心が頷いた。
「そうなんだ。グリム先生なら、簡単にワイバーンを倒すんだろうけど、魔装魔法しか使えない冒険者には、倒すのが難しいんだよ」
人間の肉体を強化する魔法を得意とする魔装魔法は、遠距離攻撃を苦手としている。ワイバーンが相手となった場合、接近したワイバーンに対して跳躍して攻撃する事になる。
「魔装魔法には、空を飛ぶような魔法はないんですか?」
俺は魔装魔法に詳しい訳ではないので確認してみた。
「『エアリアルマヌーバー』という魔装魔法が有るんだが、それは魔法レベル18で習得できる魔法で、制限が厳しいものなんだ」
鉄心によると『エアリアルマヌーバー』は空中に魔力の足場を発生させて、その足場から跳躍して空中を移動するというものだ。しかし、それは七個の足場しか作れないという。
「しかも、魔力消費が大きいので、使い勝手が悪いんだ」
「その『エアリアルマヌーバー』を習得して、ワイバーンを倒す事は可能……でも、習得するには魔法レベル18か。厳しいな」
どうやら武田たちの魔法レベルは『18』に達していないらしい。しかし、歴代の魔装魔法の賢者たちが、この欠点を見逃すとは思えないので、何か秘蔵魔法みたいなものが有るのかもしれない。今度エミリアンに会ったら、確認してみよう。
さらにワイバーンは口から圧縮した空気を撃ち出すという魔法も使えるので、注意が必要だ。但し、その時は低空飛行で獲物に接近するので、攻撃するチャンスでもあった。
「ワイバーンが地上で休憩している時に、接近して一気に倒してしまう。という手もあるが、接近に気付かれると空に飛び立つから成功率は低いと思う」
鉄心の意見を聞いて、魔装魔法使いが空を飛ぶ魔物を倒すのは難しいと感じた。
「そうだ、弓矢はどうなんです?」
「うちの松山が弓を使うんだが、ワイバーンの皮膚は頑丈だから、普通の矢では突き刺さらないと言っている」
俺が<
俺は<貫穿>と<斬剛>を付与した金属を持っているので、それで鏃を作って試してみようと提案した。鉄心も一応弓を扱えるらしいので、特性付きの矢を作って試す事にした。
俺が収納アームレットから特性付きの蒼銀を五キロほど取り出すと、鉄心に渡した。
「ほう、白輝鋼ではなく、蒼銀なのか」
「白輝鋼は軽いですから、重い蒼銀の方がいいでしょう」
その数日後、特性付きの矢が完成したという連絡があり、鉄心と一緒に鳴神ダンジョンへ潜った。
「鉄心さんは、どんな弓を使うんです?」
今回用意した弓は魔導武器の『猛鬼の弓』というものらしい。重い矢でも秒速八十メートルで飛ばせるという。
俺たちは二層へ行って、ワイバーンを探した。二層の峡谷エリアにはワイバーンの巣がある場所がある。そちらへ向かうと、途中でスティールゴーレムと遭遇した。
「こいつは、俺が仕留めます」
スティールゴーレムはゆっくりとした動きだが、重々しい足音を響かせて近付いてくる。俺は普通に歩いて近付くと、『クラッシュソード』を発動し空間振動ブレードを、ゴーレムの頭へ叩き込み真っ二つとした。
「見事だ。ゴーレムの間合いに入る直前に仕掛けて、一撃で仕留めるなんて、戦い慣れているな」
「鉄心さんだって、これくらいはできるでしょう」
「いや、おれなら足に一撃入れてから、トドメを刺すだろう」
そんな事を話している間に、ワイバーンの縄張りに入っていた。二人を発見したワイバーンが狙いを定めて旋回を始める。
「鉄心さん、頼みますよ。俺は『マグネティックバリア』で防御します」
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