第505話 鉄心チームvsレッドサイクロプス

 ジャンプしたレッドサイクロプスの巨体が、地面に叩き付けられた。その下に鉄心の身体が有ったら、ぺしゃんこになっていただろう。恐るべきボディ・プレスである。


 『カタパルト』で宙を飛んだ鉄心は、『エアバッグ』を使って着地した。チャンスだと思い、『クラッシュボール』を発動しようとしたが、レッドサイクロプスが機敏に起き上がった。


「あの巨体で機敏な動きができるのか。厄介だな」

 武田たちが後ろに回り込んでいるのが見える。武田たちは三メートルほど跳躍しレッドサイクロプスの足の付根に斬撃を打ち込んだ。たぶん『パワータンク』の魔装魔法を使って筋力を強化しているのだろう。


 頑強な皮膚を斬り裂いて、巨大な足から血が流れ出る。鉄心は『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールをレッドサイクロプスの胸に放つ。


 レッドサイクロプスは咄嗟に金棒を盾とした。だが、金棒に命中したD粒子振動ボールは空間振動波を放射し、金棒を貫通し、分厚い胸にも穴を開ける。


 激痛で苦しむレッドサイクロプスが、悲鳴のような大きな叫び声を上げる。鉄心は続けてD粒子振動ボールを放ったが、レッドサイクロプスが地面を転がるようにして避けた。


 激怒したレッドサイクロプスは、叫びながら金棒を振り回す。しかも、鉄心を執拗に狙っている。鉄心は『カタパルト』を駆使して避けているが、これではまずいと感じていた。


 このままでは、いつか金棒の一撃を食らってしまう。レッドサイクロプスが真上から金棒を振り下ろした時、鉄心は『カタパルト』を発動し身体を斜め上に投げ上げる。


 空中で魔法が解除され、惰性で飛び始める。セブンスハイブレードを発動し、D粒子で形成された巨大な刃をレッドサイクロプス目掛けて振り下ろす。


 レッドサイクロプスの頭を狙ったのだが、避けるような動作をしたので、巨大な刃は右肩を切り落とした。金棒を持った腕が地面に落ちて大きな音を響かせる。


 チャンスだと思った武田たちは、レッドサイクロプスの足をもう一度攻撃する。そして、太腿の筋肉を断ち切る事に成功した。


 そのせいでレッドサイクロプスが地面に倒れる。

「よくやった」

 鉄心は褒めて、レッドサイクロプスに近付くと『クラッシュソード』を発動し、空間振動ブレードで太い首を真っ二つにした。


 鉄心はレッドサイクロプスが消えるのを確認してから、ホッと息を吐き出す。

「やりましたね」

「お見事です」

 武田たちが集まって来て、鉄心の手際を褒めた。


 鉄心たちはドロップ品を探し始めた。最初に黒魔石<大>を見付けて、鉄心が拾い上げる。次に武田が剣を発見した。どうやら魔導武器だと見当を付ける。


 次に松山が鑑定モノクルを発見。これはグリムが所有している鑑定モノクルと同じものらしい。

「これが有れば、武田が見付けた剣も調べられる」

 松山は鑑定モノクルを装着して、魔導武器だと思われる剣を調べた。すると、『倚天剣いてんけん』と表示された。倚天剣というと、三国志演義の曹操そうそう孟徳もうとくが持っていた剣である。


「倚天剣か。伝説級の魔導武器らしい」

 松山の言葉を聞いて、鉄心は驚いた。中級ダンジョンで伝説級の魔導武器がドロップするのは珍しい事だったからだ。


 野田が中ボス部屋の隅から走ってきた。

「鉄心さん、宝箱が有りました」

 宝箱を発見した野田は、興奮している。鉄心たちは宝箱を確認に行く。慎重に近付き罠がないかチェックする。罠はないようだが、慎重に蓋を開けた。


「これは……また剣か」

 野田が宝箱から剣を取り出した。松山から鑑定モノクルを借りて調べると、『青紅剣せいこうけん』と分かった。これも同じく曹操が所有していた剣だったが、部下の夏侯恩かこうおんに与えたものである。青紅剣は覇王級の魔導武器らしい。


 この鑑定モノクルでは魔導武器にどんな力や機能があるのか分からない。地上に戻ってから、詳しく調べるしかないだろう。


「しかし、ダンジョンにとっては、三国志演義も神話なのか」

 鉄心が腑に落ちないという顔をする。その顔を見た松山が、

「我々が考えても分かりませんよ。相手はダンジョンなんですから」

 それを聞いた鉄心は、そうだなという感じで頷いた。


 宝箱の中にはもう一つ指輪が入っていた。鉄心が拾い上げ、これも鑑定モノクルで調べてみると『九天玄女の指輪』と表示された。これについては機能が表示される。素早さを五倍、防御力を三倍にする魔導装備のようだ。


 鉄心が欲しかった指輪だった。魔装魔法には素早さを上げる魔法がいくつか存在するが、それらは魔力消費が大きく何度も使うと魔力が尽きてしまう。


 それに比べて魔導装備による素早さの強化は、魔力を注いでいる間だけ魔力を消費するので、魔力の節約になる。


 他にドロップ品がない事を確認した鉄心たちは、地上に戻った。地上に戻った鉄心たちは、冒険者ギルドに行き、カウンターへ向かう。


「支部長に報告がある。取り次いでもらえないか」

 鉄心は冒険者カードを見せてから、支部長に報告する事があると伝えた。

「どのような報告でしょうか?」

「石狩ダンジョンにある二十層の中ボス部屋を発見した」


 その瞬間、冒険者ギルドがシーンと静まり返った。

「ほ、本当ですか?」

「間違いない。中ボスも倒した」

 周りの冒険者たちがざわつき、大騒ぎとなった。


 その騒ぎを聞きつけて、支部長が部屋から出てきた。

「何の騒ぎだ?」

「石狩ダンジョンにある二十層の中ボス部屋が発見されたんです」

 それを聞いた支部長が目を丸くする。


 鉄心たちは支部長室に案内され、詳しい経緯の報告を求められた。

「なるほど、中ボス部屋は荒野の地下にあったのですね」

「ええ、円柱状の大岩にレバーがあったので、確かめたのです」

「……レバー? なぜ気付かなかったのだろう?」


「周りにも様々な形の岩がありましたから、変な形の模様だと思ったのかもしれません」

 この発見は鉄心チームのメンバーの実績としてカウントされ、三人はC級昇級試験を受ける資格を得た。後は課題をクリアするだけであるが、問題が起きた。


 今までの課題はブルーオーガの討伐だったのだが、最近変更になったらしいのだ。その新しい課題というのは、ワイバーンの討伐だった。

「それはないだろう。魔装魔法使いには不利な課題じゃないか」

 鉄心の声が響いた。


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