第504話 鉄心の勘
鉄心たちは二十層の入り口付近で野営する事にした。前方に広がる荒涼とした大地を目にして、この広いエリアから中ボス部屋を探すのは時間が掛かりそうだと鉄心たちは思った。
「このエリアは、トカゲの魔物が多いようだな」
「ええ、その通りです。アイアンリザードも居ますから、気を付けてください。それじゃ、私たちは先に行きます」
柚木たちは先を急ぐそうなので、ここで別れである。
鉄心チームだけになると、野営の準備を始めた。
「中ボス部屋は、どこにあるんですかね?」
野田が夕食の用意をしながら質問した。
「右手の方にある山には、洞穴がいくつかあるらしい。そのどれかが中ボス部屋に繋がっているのではないか、と言われている」
鉄心は柚木から聞き出した情報を教えた。
「じゃあ、あの山を調べるんですか?」
「調べてもいいが、骨折り損になる気がする」
野田が凄いという顔で鉄心を見る。
「おっ、何か考えが有るんですね?」
「ある訳ないだろ。おれの野生の勘だ」
野田はガックリと肩を落とし溜息を漏らす。鉄心の勘は偶にしか当たらないのを知っているからだ。
その日は鉄心のシャドウパペットを見張り番にして休む。
翌朝、鉄心たちは山の方ではなく左手の方に広がる荒野へ進んだ。取り敢えず、鉄心の勘を信じる事にしたのである。
歩いても歩いても変わらない景色が続いている。偶にアイアンリザードと遭遇する事があったが、鉄心が『クラッシュボール』と『クラッシュソード』で仕留める。
「それらしいものは、ありませんね」
「そうだな。岩と石ばかりだな。鉄心さん、勘が外れたんじゃないですか?」
鉄心が渋い顔になる。自分も外れかもしれないと思い始めたところだったのだ。
引き返すかどうか悩んでいると、鉄心たちの前にアイアンリザードが現れた。
「今度は、おれたちに任せてください」
武田がそう言って『効力倍増』の魔導武器である剣を抜いて構える。松山と野田も同じように武器を構えた。
武田たちが持つ魔導武器は武将級であり、魔導武器のランクとしては一番低いものだ。それでもアイアンリザードにダメージを与えられるが、一撃で致命傷を与えるというほどの威力はない。
武田たちが走り回りながら攻撃し、アイアンリザードに数多くの傷を負わせるも中々倒せない。上級ダンジョンで活動するには、もう少し良い魔導武器が必要だな、と鉄心は考えた。
その時、引っ掛かるものを感じて、何だろうと鉄心は首を傾げる。D粒子センサーの感度を上げるために『センシングゾーン』を発動した。
すると、鋭くなったD粒子センサーが地下通路のようなものを感知した。
「これは……」
鉄心は中ボス部屋へ繋がる地下通路ではないかと考え、念入りに探る。その結果、地下通路が傾斜しているのに気付いた。
地下通路が浅くなっている方向へ目を向けると、円柱の形をした大岩があった。その頃になって、ようやくアイアンリザードを仕留めた武田たちが鉄心の周りに集まってきた。
「鉄心さん、どうかしたんですか?」
ジッと立ったまま動かなくなった鉄心を不思議に思った野田が尋ねる。
「この下に地下通路がある」
「まさか、中ボス部屋ですか?」
鉄心は頷いて円柱の形をした大岩のところへ行き、大岩を調べ始める。よく見ると岩の表面にレバーのようなものがあった。無茶苦茶不自然なのだが、今まで誰も気付かなかったようだ。
野田もレバーに気付いて、皆の了解を取ってから引いた。すると、大岩の一部が地面に吸い込まれるように下がり穴が開いた。
「鉄心さんの勘が当たった。凄え」
野田は偶にしか当たらない鉄心の勘が当たった事に驚いているようだ。中を覗くと階段があり、鉄心たちは階段を下り地下通路を先に進んだ。傾斜している通路は、五百メートルほどの長さがあった。
その突き当りには、大きな扉があった。
「中ボス部屋かな?」
武田が少し緊張した顔で言った。鉄心もそうじゃないかと思ったので、扉を見詰めながら頷く。
それぞれが武器を手に取り戦う準備をして、扉を開いた。やはり中ボス部屋だった。中に居たのは、全長八メートルのレッドサイクロプスである。
「真っ赤なサイクロプスか。普通のサイクロプスと体格は同じだな」
レッドサイクロプスは体格に見合った金棒を持ち、大きな口に二本の長い牙があった。そいつが鉄心たちに気付き、金棒を振り上げて襲ってきた。
「散開!」
鉄心チームはばらばらになって走り出し、レッドサイクロプスは野田に目標を定めて金棒を振り下ろす。
「うわっ、何でおれなんだ!」
走り回る野田は、逃げるだけで精一杯のようだ。鉄心はレッドサイクロプスの背後に回り込んで『クラッシュボール』を放とうとする。
だが、レッドサイクロプスが気付いて振り向き、鉄心に向かって金棒を振り下ろした。慌てて飛び退く鉄心の前方を金棒が通過し、爆発音のような轟音を立てて地面に激突する。
御蔭で飛び散った土砂が鉄心の全身に降り掛かる。
「うわっ、ぺっ」
口に入った砂を吐き出し、鉄心は神槍ゲイアッサルの『飛翔突き』で反撃する。レッドサイクロプスは金棒を盾にして防いだ。
武田たちが走り回ってレッドサイクロプスの足を攻撃しているが、大したダメージは与えられないようだ。レッドサイクロプスの皮膚が予想以上に頑丈なのだ。
レッドサイクロプスはまず倒すべきは鉄心だと決めたらしい。鉄心だけが一撃で倒せる戦力を持っていると直感したのだろう。
武田たちが向かって行く。それを薙ぎ払うようにレッドサイクロプスが金棒を振り回した。武田たちは慌てて避け、鉄心は『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールを放つ。
慌てて避けたレッドサイクロプスが、鉄心に向かって走り出し跳躍した。鉄心の真上から巨体が降ってくる。鉄心は『カタパルト』を発動し身体を右に放り投げた。
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