第503話 鉄心の高速戦闘
蒼銀ゴーレムのドロップ品はなく、魔石だけを回収する。鉄心たちは十二層・十三層・十四層と進み十五層の草原エリアへ下りた。この草原にはオークナイトの町があり、時々オークナイトの部隊が草原を周回している。
そのオークナイトの部隊に遭遇した冒険者たちは、逃げる事を選ぶチームも多いらしい。その数が五十匹を超える事も珍しくないからだ。
C級冒険者以上のチームだったら、五十匹くらいのオークナイトなど問題としないが、D級以下の冒険者だと苦しい戦いになる。もしかすると、冒険者側が負けるかもしれない。
「偶に、オークジェネラルが率いるオークナイトの部隊、と遭遇する事も有るんです。そういう時は、逃げるしかないです」
柚木が教えてくれた。オークジェネラルを倒した事もある鉄心だったが、オークジェネラルに五十匹以上のオークナイトというのは、倒すのに苦労しそうだと思った。
そのまま進み二十分ほど経過した頃、鉄心のD粒子センサーに魔物の群れらしいものが引っ掛かる。
「待て、あの丘の向こうに魔物の群れが居る」
前方に高さ八メートルほどの丘がある。鉄心たちは慎重に丘に近付き、登って向こう側を覗く。
「うわっ、本当に居やがった」
柚木は信じていなかったようだ。オークナイトの部隊規模は七十匹程度、しかもオークジェネラルが率いている。
「一人十匹を倒して、ついでにオークジェネラルを倒すだけだ。どうする?」
鉄心が柚木に確認した。
「……一人十匹はキツイな。一対一が十回というなら、おれたちでも戦えますが、十匹に囲まれると、対応できません。高速戦闘は得意じゃないんです」
十匹と同時に戦うには、素早さを上げて高速戦闘する必要がある。そのためには専用の訓練が必要であり、高速戦闘のノウハウを持つ者から習う必要があった。
但し、それは素早さを四倍以上にして高速戦闘を行う場合で、三倍までなら自己流の訓練で何とかなる。
「それなら、おれたちでオークナイトの部隊を倒す。柚木たちはここで待機してくれ」
連携して戦う事ができない柚木たちに言ってから、鉄心はチームメンバーに視線を向ける。
「おれがオークナイトの部隊に飛び込んで、掻き回すから、散ったオークナイトを倒してくれ」
チームメンバーに指示を出すと、鉄心は魔導武器である神槍ゲイアッサルを取り出した。伝説級の魔導武器である神槍ゲイアッサルは、魔力を注ぎ込みながら突きを放つと『飛翔突き』という技が発動する。
『飛翔突き』は、貫通力を強化された魔力が砲弾となって敵を貫く。攻撃魔法の『デスショット』に似ており、威力も『デスショット』と同等だった。
「行くぞ!」
鉄心はゲイアッサルを持って走り出す。その後ろにはチームの者たちが続く。オークナイトの部隊が鉄心たちに気付いて叫び声を上げる。
鉄心が連続で『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールを部隊に向けてばら撒く。五発のD粒子振動ボールがオークナイトの集団に飛び込み、長さ十二メートルの空間振動波を放射する。
それぞれが一匹以上のオークナイトを刺し貫き、九匹のオークナイトが死んだ。鉄心は『トップスピード』を発動し、素早さを五倍まで上げる。
『トップスピード』は、素早さを七倍にする効果が有るのだが、鉄心の技量では五倍までが限界なのだ。それでもオークナイトには十分だった。
周りの時間が遅くなり、オークナイトの動きも遅くなる。鉄心はオークナイトの集団に入り込み、ゲイアッサルの突きを何度も繰り返す。
後ろから見ていた柚木たちの目には、鉄心が凄まじい速さで槍の突きを繰り出しているように見えた。魔導武器の槍がオークナイトの眉間や胸を貫き、
鉄心チームのメンバーたちは『トリプルスピード』を発動し素早さを三倍まで上げて戦っている。鉄心ほどの凄みはないが、鉄心に鍛えられているのが分かる戦い方だ。
瞬く間にオークナイトの数が減り、オークジェネラルが前に出てきた。それに気付いた鉄心もオークジェネラルへ近付く。その頃になって『トップスピード』の効果が切れた。
「お前が指揮官か。どうだ、タイマンで戦わないか?」
意味が分かったかどうかは分からないが、オークジェネラルは顔を歪めて大剣を振りかざすと攻撃してきた。大剣の斬撃をゲイアッサルで受け流し、穂先を翻してオークジェネラルの胸に突き入れる。
オークジェネラルが横に跳んで躱した。それを追って鉄心も跳躍する。ジャンプ中の鉄心に向かって、オークジェネラルが大剣を薙ぎ払う。
鉄心はゲイアッサルの柄で受け止めたが、オークジェネラルのパワーで弾き飛ばされる。鉄心は空中で手足を広げてバランスを取り、足から着地した。
オークジェネラルが鉄心に向かって走り寄る。鉄心はクイントオーガプッシュを発動し、オーガプレートをオークジェネラルに叩き付ける。
オークジェネラルが跳ね飛ばされて地面に倒れた。起き上がろうとするオークジェネラルに向かって、鉄心はゲイアッサルの穂先を向け、魔力を注ぎ込み突き出す。
ゲイアッサルの穂先から魔力の塊である魔力徹甲弾が放たれ、オークジェネラルの頭を撃ち抜いた。鉄心は周りを見回し、オークナイトがもう少しで全滅するところなのを確認した。
鉄心が手を出す必要もなく、最後まで残ったオークナイトたちが倒された。
「よくやったぞ」
鉄心は声を掛けてから、『マジックストーン』を発動し魔石を集める。
「鉄心さん、オークジェネラルのドロップ品です。保管しておきますね」
武田は拾い上げた中級治癒魔法薬二本を鉄心に見せてから、マジックポーチに仕舞った。ドロップ品などは地上に戻ってから、再度分配する事になっているので、誰が倒したかに関係なく保管する決まりだった。
ドロップ品を入れたマジックポーチは、鉄心が鳴神ダンジョンのゴブリンの町を襲って手に入れたものだ。
最近、グリムが海外へ行ったりして、鳴神ダンジョンへ行く機会が少なくなっているので、代わりに鉄心とカリナが組んでゴブリンの町を殲滅し、ゴブリンメイヤーを倒してマジックポーチを回収している。
このマジックポーチはちょっと出掛ける時に持っていくと便利なので、贈り物に最適なのだ。鉄心は奥さんとチームメンバーにプレゼントし、カリナは妹のマリアと母親にプレゼントした。
「鉄心さんの『ハイスピード戦闘術』は凄いですね」
柚木たちが近寄って来て、称賛した。
「おれの高速戦闘術なんて、まだまだだけど、ナンクル流空手の高速戦闘術は一流だぞ」
鉄心はグリムやタイチがナンクル流空手の高速戦闘術を習っていると聞いて、自分も習い始めた。ただ三橋師範からではなく、グリムから習っている。
はっきり言って、基礎を習うならグリムの方が分かりやすかったからだ。『疾風の舞い』を習い、グリムと高速戦闘の練習をするようになると、高速戦闘の凄さに驚いた。
鉄心は元々パワー重視の戦闘スタイルだったのだが、上級ダンジョンにはグリムと互角に高速戦闘ができる魔物が居ると聞いて、習得しなければ生き残れないと思ったのだ。
その後、鉄心たちは遭遇した魔物を倒しながら進み、二十層へ到着した。
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