第12章 特級ダンジョン編

第502話 鉄心チームの遠征

 グリムの弟子であり、グリーンアカデミカのメンバーでもある鉄心は、チームのメンバーをC級にしようと鍛えていた。


「鉄心さん、おれらはC級になれるかな?」

 チームで一番若い野田孝雄が尋ねた。最近、鉄心と自分たちの実力の差が開くばかりなので、自信喪失という感じらしい。


「馬鹿野郎、何弱気になっている。地道に努力すれば、結果は出る」

「でも、グリム先生は年下なのに、A級冒険者ですよ」

 それを聞いた鉄心が苦笑いする。

「グリム先生と比較してどうする。先生は例外中の例外だ。中野さんを見ろ。あの人は地道に頑張って、去年ようやくC級になれたんだぞ」


 それを聞いた武田史郎が、溜息を吐く。中野は三十八歳で、魔装魔法使いとしてはリタイアする時期になっていたのだ。


 鉄心チームの最年長は鉄心自身で、全員が三十代前半である。全員が魔装魔法使いだが、最初からそうだった訳ではない。元は攻撃魔法使いが一人居たのだが、引退してしまったのだ。


 鉄心もバランスが悪いと思っていて、そんな時にグリムと知り合い生活魔法を学ぶ事にした。その判断は正しかったと鉄心は思っている。


 C級にも成れたし、収入も増えたからだ。ただ他のメンバーと格差が生じてしまった。

「おれらも生活魔法の才能が有れば、グリーンアカデミカに入ったのに」

 鉄心の次に年長の松山庄司が愚痴るように言う。


 鉄心は松山・武田・野田の三人を見た。ちょっと疲れているようだ。水月ダンジョンでの活動もマンネリ化しているので、気分を変えるためにも遠征が良いかもしれない。


「北海道の石狩ダンジョンへ、遠征に行かないか?」

 いきなりの提案だったので、三人が戸惑った。

「何で北海道なんです?」

 武田が確認した。

「水月ダンジョンはマンネリ化しているから、気分転換に目新しいダンジョンを、と考えたんだ」


「なるほど、それは面白いかもしれない」

 野田が賛成し、それを聞いた松山と武田も賛成する。こうして、鉄心チームは北海道へ行く事になった。


 寝台列車の切符を買った鉄心たちは、列車で北海道へ向かった。列車を乗り換えて石狩市まで行って、ホテルにチェックインする。


 北海道の海の幸をたらふく食べて疲れを癒やしてから、石狩ダンジョンへ向かった。中級である石狩ダンジョンには、一つの謎がある。


 二十層の中ボス部屋が見付からないという事だ。二十層に中ボス部屋が有るというのは絶対ではない。ただ十層と三十層には中ボス部屋があるのに、二十層にないというのは不自然なので、冒険者たちは隠し中ボス部屋が存在すると噂していた。


 鉄心はその二十層の中ボス部屋を探そうと思い、チームを連れてきたのである。もし発見できたら、大きな実績になりC級昇級試験を受ける資格が得られるかもしれないと考えたのだ。


 翌日は冒険者ギルドへ行って、石狩ダンジョンについて調べる事にした。冒険者ギルドの資料室へ行くと、先客が居た。


「ん? 見ない顔だな。石狩ダンジョンは初めてか?」

 二十代後半くらいの三人チームの冒険者が、鉄心たちを見て尋ねた。

「そうなんだ。二十層の中ボス部屋が見付からないと聞いて、調べてみようと思って来た」


 その冒険者が笑った。

「そういう連中は、多いんだ。だが、誰一人見付けられない。はっきり言って、時間の無駄だぞ」

「見付けられなくてもいい。この遠征は気分転換が、一番の目的なんだ」


 地元の冒険者がムッとした顔をする。

「石狩ダンジョンを軽く考えると、怪我をするぞ」

 鉄心は言い方がまずかったと考え、謝罪する。

「済まない、言い方が悪かった。もちろん、気を抜くつもりはない。真面目に取り組むつもりだが、地元のダンジョンがマンネリ化したので、メンバーに刺激を感じて欲しいんだ」


 地元の冒険者チームは、『波沙斗ばさと』というチームでリーダーは、柚木ゆずきという名前らしい。柚木たちは二十五層の森エリアへブラックシープを狩りに行くらしい。


「良かったら、二十層まで道案内してやろうか?」

 鉄心と柚木は話しているうちに仲良くなった。たぶん魔装魔法使い同士だという事も分かり、気が合ったのだろう。


 次の日、石狩ダンジョン前に集合してから、中に入った。一層から九層まではハイゴブリンやオークナイト、アーマーベアなど定番の魔物だったので、問題なく進んだ。


 十層の中ボス部屋に到着し、そこで一泊してから十一層へ向かう。

「鉄心さんは、積極的に魔物と戦わないみたいだけど、どうしてです?」

 鉄心があまり戦わないのに気付いた柚木が尋ねた。


「今回の探索は、メンバー三人を鍛えるという目的も有るんだ」

「なるほど、それで戦わなかったんだ。一度戦うところを見たいな」

「見せるほどの腕じゃないんだが」

 それを聞いた鉄心チームの武田が、溜息を漏らす。


「謙遜しないでくださいよ。おれたちが束になっても勝てないんだから」

「大げさなんだよ。生活魔法使いのグリム先生と戦っても、完敗するくらいなんだ」

「あれっ、グリム先生は例外だから、比べるなと言っていませんでした?」


 鉄心は肩を竦め、次の魔物は自分が戦うと宣言した。そして、次の魔物と遭遇する。

「蒼銀ゴーレムだって、このダンジョンにも居たのか」

 柚木が寄って来た。

「相手がまずい。私たちも手伝おう」

「いや、必要ない。蒼銀ゴーレムは動きが遅いから、おれにとってはかもなんだ」


 鉄心が前に進み出ると、柚木は武田に顔を向ける。

「彼はいい魔導武器を持っているのか?」

「ええ、持っていますよ。でも、使わないんじゃないかな。硬い魔物は生活魔法で仕留める事にしているみたいです」


 鉄心は持っていた槍をマジックポーチに仕舞い、素手で蒼銀ゴーレムと相対する。鉄心はスタスタと散歩しているような感じで蒼銀ゴーレムの前まで行くと、『クラッシュソード』を発動し空間振動ブレードで、ゴーレムの胸を薙ぎ払う。


 その一撃で蒼銀ゴーレムの胸に深い傷が刻まれた。蒼銀ゴーレムがギクシャクした動きになり、蒼銀製の腕を振り上げて、鉄心を攻撃する。


 もう一度『クラッシュソード』を発動し空間振動ブレードで、その腕を切り捨てた。それを見ていた柚木たちが驚いた顔になる。

「鉄心さんは、何という魔法を使ったんだ?」

「あれは生活魔法の『クラッシュソード』という魔法です。鉄心さんのお気に入りなんです」


 鉄心はトドメに『クラッシュボール』を蒼銀ゴーレムの胸に放った。その連続攻撃の一つ一つが驚異的な威力を持っていたので、柚木たちは衝撃を受けたようだ。


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