第501話 バタリオンの戦力アップ

 時間を戻し、ギリシャから日本に戻った直後。

 俺は持ち帰った『アムリタ(偽)』を民間の研究所に調査依頼に出した。その結果、魔法薬瓶に入っていたのは十数種類の薬剤を調合し、着色剤で色を付けたものだと分かる。


 アムリタの製法は分からないが、アムリタを調合するのに必要な薬剤が数多く含まれていたので、『アムリタ(偽)』と表示されたようだ。但し『竜王の血』などの希少なものが含まれていないので、全くの偽物という事だ。


「メティスはどう思う?」

『パルミロが持っていたのですから、パルミロ自身は本物だと思っていたのだと思います』

 知っていて偽物をパルミロが持っていた、とは思えなかった。


「本物を誰かが、偽物にすり替えたという事だな」

『はい。その人物はアムリタをすでに飲んだか、飲むつもりだと思われます』

「まだ神になりたい者が居るという事か。そいつはどんな神になるのか分かっていて、神になりたいと思っているのかな?」


『どうでしょう? ただ神になれば、何でもできると思っている馬鹿かもしれません』

 時々辛辣しんらつになるメティスだった。

「そいつはパルミロの仲間なのだろうか?」

『分かりません。パルミロを利用していたという事になるのでは?』


 俺は納得して頷いた。パルミロの仲間となると、仲良くなれそうにない勢力という事になる。バタリオンの主要メンバーを鍛えて、戦力アップした方が良いだろうか。それをメティスに相談する。


『そうですね。『干渉力鍛練法』は教える方が良いと思います。D粒子の扱い方が上手くなるなら、戦力アップするでしょう』


 その翌日、俺はバタリオンのメンバーで、C級以上の者と三橋師範をグリーン館に集めた。

「グリム先生、急に呼び集めるなんて、どうかしたのですか?」

 カリナが尋ねた。


 俺はパルミロの事を話して、パルミロの仲間がちょっかいを出すかもしれないので、皆の戦力アップをしたいと切り出した。ただ皆には神威の事は話さず、戦いの様子も簡単に纏めて伝えた。


「戦力アップというと、レベルアップとは違うのですか?」

 天音が首を傾げながら質問する。

「皆に、D粒子の扱いが上達する『干渉力鍛練法』を教える事にしたんだ」


 三橋師範が興味を持ったようで身を乗り出して尋ねる。

「『干渉力鍛練法』というのは、どういうものなのだ?」

「魔法を使わずに、D粒子を操作できるようにする鍛錬法です。これを行うと、こういう事ができるようになります」


 俺は周りに存在するD粒子に干渉して集め、その流れを作り出した。D粒子の流れは、龍のように空中を舞い密度を増していく。


 そして、D粒子の流れが肉眼でも見えるようになる。鉄心が顔を強張らせてD粒子の流れが空中を舞う様子を見詰めていた。

「凄え」


 タイチも魅せられたようにD粒子の流れを目で追っている。

「先生、これは何に使えるのですか?」

「『干渉力鍛練法』の鍛錬は、三段階に分かれている。これは二段目の鍛錬を完了した者が可能になる。実は、俺もまだ二段目までなんだ」


 アリサは俺に目を向ける。

「三段目は、どんな事ができるようになるのです?」

「D粒子を圧縮して、形を与える事ができるようになる。そうなれば、工夫次第で様々な事ができるようになるだろう」


「ダンジョンでの戦いにも影響するのだろうか?」

 三橋師範が尋ねた。

「もちろんです。まずD粒子センサーの感度が向上し、魔物の発見が早くなります。そして、D粒子が集めやすくなった事で、生活魔法を早く発動できるようになり、必要な魔力も少なくて済むようになります」


 魔物を早く見付けられるようになるというのは、重要な事だった。早く発見できれば先手を打つ事ができるからだ。


 俺は『干渉力鍛練法』について詳しく説明した。そして、一段目の広い範囲のD粒子を感じる鍛錬は、鍛錬しなくても全員ができるようだ。『センシングゾーン』を使っている影響だろう。


 そこで二段目の鍛錬方法を教える。D粒子をデコピンのように弾いて動かすという鍛錬から始まり、最終的には【D粒子制御】を習得してもらう。


 アリサたちがD粒子を弾く鍛錬を始めた。最初は上手くいかなかったが、続けると弾けるようになる。

「あっ、できました」

「うわっ、できた」

 アリサが一番早かった。次にタイチができるようになる。


 俺も経験が有るが、D粒子を弾けるようになると鍛錬が楽しくなる。時間も忘れてD粒子弾きに夢中になってしまうのだ。


「皆、この辺で終了です。やり方は分かったと思うので、時間のある時に鍛錬してください」


 『干渉力鍛練法』の伝授が終わった後、皆で食事をしてから解散した。ただアリサだけは残り、作業部屋で夕日を眺めながら話を始める。


「パルミロの最期は、どのような感じだったんです」

「そうだな。あいつが『ブラックホール』で攻撃してきたので……」

 俺は『クローズシールド』を使って防御して、隙を突いて『クラッシュボールⅡ』で身体を粉々にした、と話す。その時、あいつが持っていたブリューナクも粉々になっている。


「その一撃がトドメとなったのですか?」

「いや、あいつは精神体だけになっても、生きていた。魔法で攻撃してきたんだ」

 アリサが顔を青褪めさせ、話を促す。


 アリサにだけは神威の事を話し、神威の力を使ってパルミロを滅ぼした事を伝えた。

「神威とは、何なのでしょう?」

「躬業と呼ばれる技があり、神威もその一つらしい。魔力とは違う力、エネルギーを扱えるようになる技術なんだと思う」


 神威の力は次元を超越して作用する意思を持つパワーだと教える。

「神威をバタリオンのメンバーに教えられるのですか?」

「それは難しいな。俺の魂に刻まれた『神威』に関する情報がないと、神威月輪観を実行できないだろう」

 神威を身に付けたければ、黒き巨竜ニーズヘッグの首を切り落として倒さなければならない。


「そう言えば、パルミロを倒して『アスカロン』と『モージハンマー』を手に入れたんですよね。それはどうするんですか?」


「バタリオンの戦力アップのためにも、メンバーに貸し出そうと思っている。アスカロンはタイチ、モージハンマーはシュンがいいんじゃないかな」


 こうしてバタリオンの戦力は向上し、アリサたち以外のメンバーも大物を倒せるようになった。


--------------------------

今回の投稿で『第11章 海外雄飛編』は終了です。次投稿から次章スタートになります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る