第500話 パルミロの正体

 為五郎が足を引き摺りながら戻ってきた。

「怪我をしたのか? 影に戻れ」

 養生のために為五郎を影に戻すと、タア坊とゲロンタを影から出しハクロと一緒にドロップ品と思われるものを拾い集めさせた。


 中ボス部屋に散らばるアイテムは、ドロップ品にしては数が多かった。

「これはドロップ品じゃないな」

 落ちているものの中には、食料品やタオルなどが有った。パルミロが持っていた収納系魔導装備が『クラッシュボールⅡ』の攻撃で壊れ、中身が収納空間から溢れ出したようだ。


「これがパルミロの持ち物だというのは分かる。だけど、なぜ収納系の魔導装備が壊れた直後ではなく、今頃出て来たんだろう?」


『時間遅延機能のせいかもしれません』

 魔導装備の収納空間は時間の流れが違うから、出て来るタイミングが遅れたという事が有るんだろうか? 分からないな。まあいい。


 タア坊が袋を拾って持って来た。何だろうと思って開けると、パルミロの下着が入っていた。しかも洗濯前のものだ。俺は床に叩き付けようとしたが、タア坊がジッと見ている。


「……ありがとう。他の物を持って来て」

 俺は床に円を描くとそこに下着の入った袋を置いた。シャドウパペットは次々に拾った物を持って来るが、ほとんどは持ち帰る価値のない物だった。それらを円の中に置く。


 ゲロンタが槍を持って来た。マルチ鑑定ゴーグルで調べてみると、『聖ゲオルギウスの槍:アスカロン』と表示された。この魔導武器の槍は神話級で、ドラゴン退治にも使用されたらしい。


 アスカロンの力は、標的を刺した時に熱を奪い凍らせるというものだ。その威力は前方に放射状に広がり、三メートルほどの範囲を凍らせるらしい。


 次はハクロがハンマーを持って来た。為五郎が持っている雷鎚『ミョルニル』にそっくりだ。鑑定してみると『モージハンマー』と表示された。雷神トールにはマグニとモージという二人の息子が居たという事なので、亜美が持つマグニハンマーの兄弟武器という事になる。


「伝説級か。これもバタリオンで貸し出すか」

 武器の他に宝石や魔石も集まった。そして、タア坊が魔石を持って来た。その銀魔石<小>を鑑定すると『半邪神パルミロの魔石』と表示された。


「あいつ邪神に成りかけていたのか。神なんて、高望みするから……」


 最後に細長い魔法薬瓶二本をハクロが持ってきた。マルチ鑑定ゴーグルで調べると、『アムリタ(偽)』と表示された。


 どういう事だ。パルミロが飲んだアムリタは偽物だったのか? そんなはずがない。パルミロの姿は尋常なものではなかった。

 偽物であんな風になるのだろうか? 仕方ない持ち帰って中身を調べてみよう。


 シャドウパペットたちを影に戻すと、中ボス部屋を出た。パルミロはチームで来たはずなのだが、中ボス部屋の外には誰も居ない。一緒に来たはずの仲間は地上に戻ったようだ。


 俺は地上に向かって戻り始めた。階段を探しながら上へ上へと進み、二十五層でクラリスたちと合流する。エルモアが静かに近寄り、影に入った。

「無事で良かった。突然消えた時には、心配しましたよ」

「あたしも焦ったよ」

 クラリスとカルロッタがホッとした顔で言う。


「心配をお掛けしました。エルモアが説明したと思いますが、三十層の中ボス部屋に飛ばされたんです」


「聞いている。あれは罠だったのですか?」

「そのようなものです。詳しくは地上に戻ってから話します」

 カルロッタも居るので、パルミロの件は地上に戻ってから話す事にした。クラリスは事情が有るんだろうと察して、黙って従った。


 二日後、地上に戻った俺たちはホテルにチェックインする。俺が部屋で少し休んでいると、クラリスが部屋に来た。


「さて、何が起きたのか話してください」

 クラリスの要求に俺は頷いた。

「あれはパルミロが神になるための三つ目の試練だったのだと思う」


 俺が推測も加えて説明すると、クラリスは理解した。

「それでパルミロとグリム先生が戦う事になったのね」

「そうです」

「グリム先生がここに居るという事は、勝ったのでしょうけど、どういう戦いになったか、教えてもらえるかしら」


「最初、パルミロを見た時、それがパルミロと分からないほど姿が変わっていました」

 俺は戦いの様子を話し、最後はフォトンブレードでトドメを刺したと伝えた。但し、切り札である神威については、教えなかった。


「パルミロは、邪神に成りかけていたようです」

「どうして、そう思うの?」

 俺はパルミロの魔石を取り出して見せた。

「パルミロが魔石を残したんです」


 それを聞いたクラリスが驚いた。人間が魔石を残すなど、あり得ない事だったからだ。それが本当だったら、人間が魔物化した事になる。


 俺はマルチ鑑定ゴーグルをクラリスに貸して、確かめさせた。

「半邪神? アムリタと神へ至る道は、想像以上に危険なようね」

「ええ、俺もそう思います」


 クラリスが何か思いついたような顔をする。

「三つの試練というのには、ダンジョンの罠が隠されているようね」

「どういう意味です?」

「二つの試練を潜り抜けた神の候補者が、ダンジョンが考えているような進化をしなかった場合、候補者が倒せないような相手と戦わせるのではないか、と思ったのです」


「出来損ないの候補者を、抹殺するという事ですか?」

「ええ、ダンジョンに人間的な感情が有るとは思えませんので、不要なものは処分すると思ったのです」


 出来損なった候補者が悪いという事か。ダンジョンは人間をもてあそんでいるのだろうか? ダンジョンにとって、人間とは何なのだろう?


「問題は、冒険者ギルドに何と報告するかです」

「真実を報告したら、どうなるでしょう?」

「パルミロの魔石が有るのですから、冒険者ギルドは納得するでしょう。ですが、ヴァチカンは騒ぐかもしれません。報告しない方がいいかも」


 クラリスは転送系の罠に引っ掛かって三十層へ飛ばされたので、引き返した事にすべきだと言う。俺もそれが良いかもしれないと思った。俺たちは現地の冒険者ギルドに簡単な報告だけ行った。


 鳴神ダンジョンのような新しいダンジョンではないので、五年ルールもない。報告は義務ではないのだ。ただパルミロの仲間については、調査した方が良いだろう。人を雇って調べさせる事にした。


 俺はカルロッタに十分な謝礼を払って、日本に帰国した。

 その後、パルミロが行方不明だというニュースが世間を騒がせたが、ダンジョンに潜って魔物に殺されたという噂が広まると沈静化する。


 ヴァチカンはパルミロを正式な聖人にするために聖人認定の調査を始めたらしい。きっと聖人には認められないだろう。


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