第499話 リッチなパルミロ

 ブリューナクの攻撃を神剣グラムで受け流し、剣先をひるがえしてパルミロの胸を斬り裂いた。だが、その切り口はすぐに塞がり、そこに何枚かの赤い鱗のようなものが張り付いた。


 血が固まったのかと思ったが、違うようだ。攻撃を繰り返し神剣グラムの切っ先が赤い鱗に当たった時、今まで何でも斬り裂いていた神剣グラムの刃が跳ね返される。


 どういう事だ? あれは装甲のようなものなのか? 俺の攻撃は当たるのだが、致命傷と言えるほど深い傷を負わせられずにいた。どうやらパルミロの方が少しだけ素早いようだ。


 パルミロに浅傷あさでを負わせるたびに、赤い鱗が増え、途中から傷を負わせていないのに、鱗の増殖が始まる。ついにパルミロの全身が赤い鱗に覆われた。


 それと同時に神剣グラムの力が発動する。神剣グラムの力は、切ったものに掛かる重力を増大させるというものだ。それが発動するのにはタイムラグが有るようで、切った直後に発動するという訳ではなく、何かの切っ掛けで発動するらしい。


 動きが遅くなったパルミロに神剣グラムの斬撃を叩き付けた。だが、刃が鱗の表面を切っただけで終わる。


 俺は『スカンダの指輪』への魔力供給を止めた。長時間の使用は精神的にキツイのである。

「その姿は何だ?」

 真っ赤な目をしたパルミロがニヤッと笑う。

「その剣の斬撃に対抗するために、肉体が進化しただけですよ」


 俺は神剣グラムを仕舞い、『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールを放った。パルミロが横に跳んで躱し、俺から距離を取る。


 何か遠距離攻撃を仕掛けるつもりだな、と思った俺は影からハクロを出してから、『クローズシールド』を発動する準備を行う。


 パルミロがブリューナクに魔力を注ぎ込み投擲する。その槍が稲妻に変化して俺に襲い掛かる。俺は『クローズシールド』を発動した。


 ブリューナクが変化した稲妻は、展開された遮空シールドを擦り抜けて、パルミロの手元に戻った。その様子をハクロの目を通して見ていた俺は神威月輪観を行う。


 その間にパルミロが『ソードフォース』や『ドレイクアタック』などで攻撃してきたが、全て遮空シールドが防いだ。


 神威月輪観により神威の力を得た俺は、それを魔力と練り合わせて『フライングブレード』を発動する。形成された斬剛ブレードの柄を握ると、『クローズシールド』を解除し飛び出した。


 一気にパルミロまで駆け寄り神威の力を帯びた斬剛ブレードで、その胴体を撫で切った。神剣グラムでも斬れなかった赤い鱗が真っ二つとなり、十五センチほどの傷を負わせる。


 俺は浅いと感じた瞬間、後ろに跳んで距離を取った。パルミロがジロリと俺を見る。

「魔導武器でも切れなかった私の装甲を切るとは、素晴らしい魔法です。ですが、私もとっておきの魔法が有るんですよ」


 パルミロがヤバそうな魔法を発動する。距離が離れていたので阻止できない。発動した魔法は『ブラックホール』だった。ボウリングボールほどのブラックホールが、こちらに飛んで来る。


 俺は横に跳んで避けた。ブラックホールは横を通り過ぎて地面に着弾すると強烈な重力を発生させる。ブラックホールは強烈なパワーで周囲のものを引き寄せ粉々に砕き始めた。


 俺も引き寄せられ足元がズズズッと床を滑る。慌てて『クローズシールド』を発動し遮空シールドを展開する。感じていた重力が消えホッとする。


 いつの間にか斬剛ブレードが消えていた。魔力が尽き掛けていると感じて不変ボトルを出し万能回復薬で魔力を回復させる。


「ふうっ、まだ重力の嵐が荒れ狂っている」

 ブラックホールが消滅し重力の嵐が収まったと同時に、遮空シールドを解除して『クラッシュボールⅡ』を発動し高速振動ボールをパルミロ目掛けて放つ。


 パルミロは避けようとしたが、斬剛ブレードで切られた傷がまだ治っておらず、避けるのが一瞬遅れた。高速振動ボールがパルミロに命中し破壊空間にパルミロが包まれる。


 パルミロの口から断末魔の叫びのような声が響き渡り、パルミロの肉体は粉々となる。俺は大きく息を吐き出した。だが、その瞬間、パルミロを感じた。


 肉体が滅んでも、その精神=魂は消えなかったのだ。膨大な魔力を持つ存在が宙に浮いている。肉体が滅んで精神体だけの存在になったようだ。


「嫌な感じだ。まるで、リッチだな」

 リッチというのは魔法使いが死んでアンデッドの魔物になったものだ。

【魔物と一緒にするな。私は神なのだ】


「いや、俺を倒さない限り、神にはなれないはず」

【殺す】

 俺は光剣クラウ・ソラスを取り出すと、影から為五郎を出した。

「時間稼ぎを頼む。円盾と聖属性付きの魔導武器を使うんだ」

「ガウッ」


 為五郎は体内にある巾着袋型マジックバッグから、円盾と聖属性付きの魔導武器を取り出した。魔導武器は薙刀に近い形の武器で<貫穿>と<斬剛>の特性が付与されている。


 その薙刀と円盾を構えた為五郎は、パルミロに近付いた。パルミロが『デスショット』を発動し、徹甲魔力弾を為五郎に放つ。


 為五郎は徹甲魔力弾を躱して、薙刀をパルミロに叩き付ける。手応えがあり、衝撃でパルミロの精神体が弾かれた。だが、弾かれただけでほとんどダメージはないようだ。さすがに聖属性付きの魔導武器ではダメらしい。


 それでも弾き飛ばされた事で、パルミロのプライドが傷ついたようだ。『ドレイクアタック』を発動しマジック砲弾で為五郎を攻撃する。マジック砲弾は近接信管付きの対空砲弾のようなもので、為五郎に近付くと爆発した。


 その爆風で為五郎が吹き飛ばされ中ボス部屋の床を転がる。

 パルミロの相手を為五郎がしている間、俺は神威月輪観で神威の力を取り込み魔力と練り合わせると光剣クラウ・ソラスに注ぎ込んだ。


 いつもなら太陽光に近い色のフォトンブレードが形成されるのだが、神威の力も注ぎ込んだ事でエメラルドグリーンに輝くフォトンブレードが形成される。


 フォトンブレードの輝きに気付いたパルミロは、何か魔法を発動しようとした。俺は魔法が発動する前に間合いを詰めるとエメラルドグリーンに輝くフォトンブレードをパルミロの精神体に振り下ろす。


 アムリタを飲んだ効果で精神体だけでも存在できるようになった者は、基本的に不老不死である。聖属性のもので弾かれる事は有っても、ダメージを負う事はない。


 但し、神に属する力は例外であり、その一つである神威の力は精神体も滅ぼす事ができた。

 フォトンブレードがパルミロの肩に命中し、精神体を引き裂き消滅させながら胸から脇腹を斬り裂いた。絶叫を放つパルミロ。それは音声ではなく念の放射という形であったが、俺の心を震わせる。


 恐怖・無念・恨みなどの思いが詰まった叫びだった。俺はフォトンブレードを振り上げ、まだ残っている精神体の残滓ざんしに向かって何度も振り下ろす。完全に消滅させないと不安だったのである。


 完全に消滅した事を確信した俺は、その場に座り込んだ。その時、何かの音がして中ボス部屋の床にアイテムが転がる。パルミロを倒してもドロップ品があるのか?


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