第497話 パルミロの再戦

 パルミロの放った『ドラゴンキラー』は、的を外してバハムートから三メートルほど離れた地面に着弾し、無駄に盛大な火花を散らして消えた。


 バハムートが翼を広げて大きく羽ばたく。その巨体が宙に舞い、羽ばたきで起きた風が飛んでいたパルミロの身体を壁に吹き飛ばす。


 パルミロは慌てて『フライ』の魔法を解除して地面に着地しようとしたが、失敗して中ボス部屋の壁に叩き付けられた。


 ドンという衝撃音で壁に叩き付けられたパルミロは、血を吐き出して床に倒れる。

「私は不死、神になる者……」

 そう呟いたパルミロが立ち上がり、ブリューナクを握り締める。上空を見上げるとバハムートが空を飛びながら青炎ブレスを吐こうとしていた。


「させませんよ」

 パルミロはブリューナクに魔力を流し込むとバハムートに向かって投擲した。稲妻となったブリューナクはバハムートの腹を貫通して背中の翼の付け根から飛び出した。


 翼を傷付けられたバハムートは、頭から着地して派手に転がる。

「あっ、こっちに……」

 パルミロは巻き込まれて、宙に跳ね飛ばされた。床を転がったパルミロはボロボロになり、全身の骨が折れたような激痛がパルミロを襲う。『ブルーアーマー』の魔法も巨竜の体当たりまでは防げなかったようで、途中で解除された。しかし、大怪我で済んだのは『ブルーアーマー』の御蔭である。


 苦痛に藻掻きながら、『天翼てんよく』を発動する。これこそが聖人と呼ばれる原因となった能力だった。この『天翼』は躬業みわざと呼ばれる特別な能力の一つだ。魔法とは少し異なり、躬業は脳ではなく魂に刻まれ習得する。


 パルミロは偶然上級ダンジョンの神殿にある隠し部屋で宝箱を発見した。その中に『天翼』が秘められている水晶球が入っており、『天翼』の躬業を習得したのである。


 『天翼』の効果は人を癒やす事だ。ボロボロだったパルミロの身体は、傷一つない身体に再生される。一方、バハムートもその再生能力を見せ付けるように、ブリューナクが貫通した傷が完治していた。


 バハムートは青白い炎を口の端からこぼしながら、パルミロを睨む。飛んでいるところを撃ち落とされたのが、頭にきたようだ。


 青炎ブレスがパルミロを襲う。『フライ』を発動して逃げたが、髪の毛と鎧の一部が燃え上がる。すぐに火を消し、ブリューナクで反撃する。


 ブリューナクの稲妻がバハムートの頭を貫通した。これはさすがの巨竜バハムートでも大ダメージとなった。苦しみながらパルミロに向かって飛び掛かり、前足でパルミロを薙ぎ倒した。


 それは致命傷になる一撃だった。床に横たわったパルミロの頭が陥没している。パルミロの肉体と魂の絆が断ち切れ、その身体から魂が抜け出す。


 パルミロの魂は消える事もなく、宙に浮かんでいた。その状態で『天翼』を発動する。肉体が再生すると、パルミロの魂は中に飛び込んだ。


「危なかった」

 パルミロが立ち上がると、バハムートの方を見る。パルミロが死んだと思ったバハムートは、頭のダメージを回復させる事に集中している。


 目を閉じてジッとしているバハムートに向かって、パルミロは『ブラックホール』の魔法を発動した。ボウリングボールほどのブラックホールがバハムートに向かって飛び、その背中に叩き付けられた。


 『ブラックホール』の魔法は絶大な威力を持っているが、その飛翔速度が遅いために使いづらい。ただ今回はバハムートが回復に集中していたので、発動に気付かれず幸運だった。


 ブラックホールはバハムートの肉体をバラバラにして吸い込みながら前進し、巨体の中心でバハムートの心臓や肺などの臓器をバラバラにしながら吸い込みブラックホールが消滅する。


 強力な再生能力を持つバハムートでも致命傷となる損傷だった。巨体が地響きを立てながら倒れ、次の瞬間消える。


 パルミロは悪魔のような笑みを浮かべ笑い出した。

「くっはははは……やった。ついに神への道が開いた」

 パルミロはバハムートのドロップ品を探し、白魔石<大>と魔導武器の槍アスカロンを発見して仕舞う。中ボス部屋を確認すると、壁の一部に通路が出現していた。


「ここですね」

 パルミロはためらう事なく通路を進んだ。すると、背後で通路が封鎖された。バハムートを倒した者しか入れないという事なのだろう。


 通路を進んだパルミロは、大きな部屋に辿り着いた。そこには円形のプールのようなものがあり、無色透明な水で満たされている。


「ここに入れという事か」

 パルミロが水に足を踏み入れた瞬間、強力な力で水の中に引き込まれた。深さが三メートルほどあるプールの底に沈んだパルミロは、まずいと思い水面に浮き上がろうと藻掻いたが、足の裏が底に張り付き離れない。


 暴れた後、苦しくないのに気付いた。肺の中は新鮮な空気が満たされており、呼吸する必要がなくなっていたのだ。その時、頭の中に声が響く。

【巨竜を倒した者よ。なんじは神へ至る道を選ぶのか?】

 パルミロは心の中で『そうです』と答えた。


【では、最初の試練を受けてもらう。汝に神格を与える。その衝撃に耐えよ】

 次の瞬間、パルミロの魂に凄まじい力が加えられた。普通なら精神が崩壊し魂が砕け散ってもおかしくないような力である。


 だが、パルミロの精神=魂は、アムリタの力により強化され強靭になっていた。その御蔭でかろうじてパルミロの精神=魂は保たれた。


 パルミロは発狂寸前になるほど苦しむ。『なぜ、私はこれほど苦しまなければならない?』と心の中に疑問が浮かんだ。その瞬間、誰かの声で『お前は神になるんだ』という言葉が心に響き渡る。


 パルミロは耐えきった。その魂に神格が刻まれ、人間から次の存在に進化した。だが、神になった訳ではなく、神になるための試練は続く。


 神格はパルミロに第二の脳を与えた。様々な情報を高速に処理する事ができるようになったのだ。そればかりではなく、神威の力を得る方法を手に入れた。


【試練に打ち勝った者よ。次の試練を受けるか?】

 パルミロの顔に一瞬だけ怯えたような表情が浮かんだ。発狂寸前まで苦しんだ経験が、そんな表情を浮かばせたのだろう。


 パルミロは試練を続けると答え、次の試練が始まる。それは神になるために必要な膨大な知識を身に付けるというものだった。


 神格を持つパルミロは、流れ込んでくる膨大な情報を全て神格が持つ処理能力に任せた。だが、それは正しいやり方ではない。そうすると、パルミロの精神=魂が鍛えられず、処理する時に発生する苦痛のみを受け止める事になったからだ。


 苦痛が蓄積されるに従い、パルミロの精神=魂が歪み始める。その影響が肉体にまで及び、頭部から二本の角が生え始め、顔が般若のように歪む。


 パルミロは第二の試練を苦痛に耐える事で乗り切った。ただダンジョンが意図している神とは違う方向へ進化したようだ。


【最後の試練として、リストの中から選んだ相手を、神威を使って倒してもらう】

 パルミロの頭の中に対戦者のリストが浮かび上がる。ネームドドラゴンや巨獣と呼ばれる魔物が多く、中に人間の名前もあった。


 パルミロはリストの中に知っている人物の名前が有るのを発見し、ニヤリと笑うとその人物を指名した。


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