第495話 上条のお土産

 アイアンドラゴンの巨体が消えたのを確認した上条と緒方が、ボーッと立っている千佳の傍まで来て声を掛ける。


「B級昇級試験、合格です」

「おめでとう」

 それを聞いて千佳がホッとした顔になる。

「しかし、強いな。私がアイアンドラゴンと戦った時は、もっと危ない瞬間があったんだが、圧勝じゃないか」


「それは生活魔法が発展したからです。強力な魔法が使えるようになりましたから」

「そういう事も有るかもしれないが、厳しい修業をしたんじゃないか。それにグリム先生と三橋師範から鍛えられたのだろう?」


「ええ、先生と師範には感謝しています」

 上条が頷いてから、ドロップ品を探そうと言い出した。千佳は影からカンナを出してドロップ品探しに参加させる。


 上条が魔石を見付けて千佳に渡した。

「ありがとうございます」

 千佳が上条に礼を言っている時、カンナがほこらしい武器を発見して持ってきた。


「これは鉾ですね」

「魔導武器だと思うんだが、どんなものなんだ?」

 緒方が近付いて鉾を見る。

「私が調べましょうか。分析魔法の『アイテム・アナライズ』が使えるんです」


「お願いします」

 千佳は鉾を緒方に渡した。受け取った緒方は、『アイテム・アナライズ』を発動する。

「分かりました。これは『天逆鉾あまのさかほこ』と呼ばれる神話級の魔導武器らしいです」


 アイアンドラゴンのドロップ品なら当然だと、上条が頷いた。

「神話級の魔導武器か。どんな力を持っているんだろう?」

「すみません。これ以上は分かりませんでした」


 千佳が礼を言った。

「それだけ分かっただけで十分です。後は地上に戻ってから調べます」

 アリサかグリムに調べてもらえば、詳しい事が分かるだろうと千佳は考えた。


 他にないか探すと、中級治癒魔法薬が五本入った革袋が見付かった。ドロップ品はこれだけのようだ。


「さて、お待ちかねの御神籤おみくじを引こうぜ」

 上条がスキップしそうなほど上機嫌で聖域へ向かう。千佳と緒方も上条に続いた。


 誰から御神籤をを引くか、ジャンケンで決める。まずは緒方からになり、御神籤を引いた。

「やった。『吉』です」

 緒方は運が良いらしい。その御神籤の紙が高品質のルビーに変わった。そのルビーを換金すれば、かなりの高額になるだろう。


 次は上条の番となり、気合を入れて御神籤を選んだ。選んだ紙を見ると『末吉』だった。上条が不満そうな表情を浮かべた瞬間、紙が『タワシ』に変化する。


「ノォーーーー!」

 上条が絶望の叫び声を上げた。それを聞いた千佳が吹き出して笑う。

「笑い事じゃない。ここまで来て『タワシ』だったんだぞ」

「運の悪い時もありますよ」

 年下の千佳から慰められた上条が、肩を落として溜息を漏らす。


 最後に千佳が御神籤を引くと『吉』だった。御神籤の紙が魔石に変化した。

「これは珍しい。御神籤の紙が魔石に変わったのは、初めてではないですか」

 緒方が興奮したように、声を上げた。もう一度緒方に鑑定を頼むと『シャドウスライムの影魔石』と分かった。


「シャドウスライム? 聞いた事がない魔物だな。影魔石という事はシャドウパペットを作製できるのか。スライムのシャドウパペットなんて役に立つのか?」

 スライムのシャドウパペットを想像した上条は、首を傾げた。


 千佳は影魔石を仕舞うと、地上に戻る事にした。地上に戻り冒険者ギルドに報告した千佳は、渋紙市に帰って、グリーン館へ向かう。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その頃、俺は『干渉力鍛練法』、『霊魂鍛練法』、神威月輪観の瞑想、『身体操作の奥義』などの修業を続けて自分の能力を高めていた。


 そこに千佳が来た。俺がB級昇級試験について尋ねると、笑顔で合格したと言う。

「おめでとう。これでバタリオンでは、二人目のB級冒険者か」

「先生、アイアンドラゴンのドロップ品として、魔導武器の鉾を手に入れたのですが、調べてもらえませんか?」


 引き受けてマルチ鑑定ゴーグルを出して調べた。すると『天逆鉾』と表示され、神話級魔導武器である事が分かった。


「天逆鉾の力や機能は、何か分かりますか?」

「ああ、鋼でも断ち切る事ができる切れ味と『裂地刃』という力が有るらしい」

「裂地刃? それはどういうものなんですか?」


「天逆鉾に魔力を注ぎ込み、目標を定めてから、その穂先を地面に突き立てると、魔力刃が地面を滑るように飛んで、敵を攻撃するらしい」


「ありがとうございます。試してみます。……そうだ、これ試験官だった上条さんからのお土産です」

 千佳がタワシを収納ペンダントから取り出して、俺に渡す。


 それを見て、全てを理解した。これは御神籤だな。上条はハズレを引いた訳だ。

「これは御神籤だな。上条さんは『末吉』だったのか?」

「そうです。タワシに変化した時に、『ノォーーーー!』と叫んでいました」


 愉快な人だ。俺はタワシを鑑定してみた。『美容タワシ』と表示された。これで肌をこすると肌がツルツルになるようだ。美容タワシは千佳にプレゼントする。


 そこに執事シャドウパペットのシンパチが来て、フランスから電話だと伝える。俺は電話のところまで行って、受話器を取った。意外にもフランスのA級冒険者クラリスからだった。パルミロがもう一度ミケーネダンジョンの巨竜バハムートに挑むために動き出したという連絡だ。


 ギリシャは遠い。俺ができる事はないだろうと思っていたが、クラリスが現地へ行ってミケーネダンジョンと巨竜バハムートについて調べてみないか、と提案した。


 今から行っても、俺たちが到着する頃には、パルミロと巨竜バハムートの戦いが終わっているだろう。だが、現地で調べれば、何か具体的な事が分かるかもしれないというのだ。


 不安なまま日々を過ごすのは嫌になっていたので、俺はギリシャへ行く決心をした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る