第490話 サラマンダー亜種

 地元冒険者が逃げた後、俺は休憩を続ける事にした。ニーズヘッグとの戦いと神威の習得で、肉体的にも精神的にも疲れたのである。


『神威とは、どんなものなのです?』

 次元を超えて作用する意思を持ったエネルギーだと答えた。メティスにも理解できなかったようだ。俺も理解しているとは言えない。


「グリム先生、何を話しているのです?」

 俺とメティスが日本語で話していたので、アーティフが気になったようだ。但し、メティスは脳に直接話し掛けているので、俺一人がエルモアに話し掛けているように見えただろう。


「何でもない。これからの予定だ」

「これからと言うと、このまま戻るのですか?」

「いや、ついでにサラマンダーの亜種も倒そうと思っている。アーティフも参加するか?」

「はい」


 まず食事をして、疲れを取る事にした。 食事は日本の持ち帰り弁当のチェーン店で購入した数種類の弁当である。十日分ほど買って、ゴブリンエンペラーのドロップ品であるマジックポーチⅧに入れている。


 このマジックポーチⅧは、時間の流れが千分の一ほどに遅くなるという高性能なものだ。俺は幕の内弁当を選び、アーティフにはチキンカレーを渡す。


 マジックポーチⅧの機能と保温用ケースに入れていた事により、まだ温かい。アーティフは保温用ケースが魔導装備なのではないかと思ったようだ。


 チキンカレーはアーティフの口にも合ったらしい。アーティフの戦闘力が気になったので確認すると、C級になったばかりの攻撃魔法使いだという。


 食後、ゆっくりした時間を過ごしてから、準備をして中ボス部屋に入った。俺たち二人に続いて、エルモアと為五郎も入る。


 中ボス部屋には、普通のサラマンダーより一回り大きな亜種が居て、俺たちを睨んだ。赤い鱗に覆われたサラマンダー亜種は、口からチロチロと炎を漏らしている。


 俺は『マグネティックバリア』を発動し数珠のようなD粒子磁気コアを首に掛ける。アーティフが『ロッククラッシュ』を発動し高速魔力榴弾をサラマンダー亜種に向けて放った。


 高速魔力榴弾がサラマンダー亜種に命中して爆発。その硬そうな鱗の一部を剥ぎ取ったが、大したダメージではなかった。


 俺はクイントコールドショットを発動しD粒子冷却パイルを飛ばす。それに気付いたサラマンダー亜種が口から火炎放射のような炎を吐き出した。


 炎とD粒子冷却パイルがぶつかり、その衝撃でD粒子冷却パイルの追加効果が発揮される。D粒子冷却パイルは標的に命中する前に消えた。


 サラマンダー亜種が俺たちに向かって走り出した。遠距離戦では不利だと思ったようだ。俺は神剣グラムを抜き、アーティフは蒼銀製のロングソードを構える。


 アーティフの構えは何だか頼りなく、武器による戦闘は苦手らしい。近付いたサラマンダー亜種は、また炎を吐き出そうとした。


「グリム先生!」

「大丈夫だ。磁気バリアで防ぐ」

 俺はサラマンダー亜種の前に磁気バリアを展開、その直後に真っ赤な口から炎が吐き出される。炎は磁気バリアに当たって跳ね返された。


 為五郎が磁気バリアの陰から跳び出し、雷鎚『ミョルニル』をヒョイと投げる。クルクルと回転したミョルニルはサラマンダー亜種の頭に命中し、派手な火花を散らした。


 大電流がサラマンダー亜種の肉体を駆け巡り、一時的に全身の筋肉を麻痺させる。エルモアが続いて跳び出し神槍ゲイボルグを投げ、サラマンダー亜種の首を貫通させた。それでも死なない。驚くほどタフだ。


「チャンスだ。攻撃するぞ」

 俺は五重起動の『ブローアップグレイブ』を発動し、形成されたD粒子グレイブを振り下ろす。アーティフは『デスショット』を発動し徹甲魔力弾を放った。


 その二つの魔法が同時にサラマンダー亜種を攻撃。徹甲魔力弾はサラマンダー亜種の肩から背中を貫通し、D粒子グレイブの巨大な刃はサラマンダー亜種の首を半分ほど切り裂いてから爆発した。


 致命傷を負ったサラマンダー亜種は、血を吐き出してから地面に横たわり消える。

「か、勝ちましたよ」

 アーティフが嬉しそうに声を上げた。上級ダンジョンで中ボスを倒したのは、初めてだったようだ。


 ドロップ品を探すと、まず赤魔石<大>が発見された。次に見付かったのが、先端にエメラルドのような宝石があり、その宝石を囲むように三日月型の刃が八枚も付いている錫杖のような長い柄の武器だ。


 マルチ鑑定ゴーグルで調べてみると、『ウアス』と表示される。これはエジプト神話のプタハ神が持つ武器らしい。これは覇王級の魔導武器であり、攻撃魔法を強化する効果が有るようだ。


「これは攻撃魔法使い用の武器らしい」

 俺はアーティフに渡した。俺では使い熟せない武器だが、アーティフなら有効に使えるだろうと思ったのだ。


「私が使ってもいいんですか?」

「構わない。案内の礼だ」

 その他のドロップ品を探すと、革の袋が見付かった。中を見てみると様々な種類の宝石が入っていた。一億円ほどにはなるだろう。


 それで終わりらしい。俺たちは十二層をちょっと覗いてから帰る事にした。十二層への階段を見付けて下りると、そこはジャングルだった。


 空にはワイバーンが飛んでおり、密林の中には猿の魔物が居るようだ。少しだけ調査してから、俺たちは地上に戻った。それから冒険者ギルドへ行って、報告する。ついでに宝石は換金して、アーティフにも分配した。


 魔導武器を譲ってもらったので、少しで良いと言う。一割ほどをアーティフに渡した。それが嬉しかったアーティフは俺の事を褒め、ニーズヘッグ討伐を広めた。それでニーズヘッグを倒した事がエジプトでニュースになった。


 それが切っ掛けとなって世界中にネームドドラゴン討伐のニュースが広まり、俺の名前が再び世界中に拡散された。


 ただ俺がニーズヘッグを倒して、神威を手に入れた事は、誰にも知られなかった。ニーズヘッグの首を斬り落として倒すと、神威が手に入るという事実は知られていないようだ。


 日本に戻った俺は、冒険者ギルドの近藤支部長に帰国の報告をした。

「エジプトでの活躍を聞いて、私も嬉しくなったよ」

「ありがとうございます」

「ところで、何でニーズヘッグだったのかね?」


「欲しいドロップ品が有ったんですよ」

「なるほど、ドロップ品狙いか」

 支部長はどんなドロップ品か質問しなかった。俺が秘密にしていると感じたようだ。


 報告を終えて自宅に戻った俺は、まだ試していない『身体操作の奥義』について確かめる事にした。


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