第488話 ニーズヘッグvsグリム

 ニーズヘッグは後ろ足の先から頭までが二十五メートルも有るようなドラゴンである。その巨体が歩くと地面が揺れた。ズシンという響きを聞きながら、俺は左へと走り出した。


 『デスクレセント』を発動しD粒子ブーメランを巨大な足に向かって放つ。ニーズヘッグが巨体を捻って長い尻尾を振り回す。


 その尻尾がD粒子ブーメランを横から弾いた。空間振動波が放射されたが、尻尾を少し傷付けたくらいで明後日の方向に飛んで行った。


「あの尻尾は邪魔だな」

 そう言った時、ニーズヘッグがジャンプした。しかも、俺の頭上に向かってである。ヤバイと思い、『フラッシュムーブ』を発動する。


 身体がD粒子で形成されたフラッシュリーフに包まれて百メートル上空に移動する。その後、ニーズヘッグの巨体が着地すると、地面が陥没し土煙が舞い上がる。


 ニーズヘッグの頭上へ落下しながら『トーピードウ』を発動しD粒子魚雷を投下する。D粒子魚雷はニーズヘッグの足元で爆発し、ニーズヘッグの足にダメージを与えた。


 巨体が倒れ、俺は『エアバッグ』を使って着地。ニーズヘッグの首に向かって駆け寄ると『ニーズヘッグソード』を発動し拡張振動ブレードを巨大な首に向かって振り下ろす。


 ニーズヘッグがギロッと睨むと寝返りを打つように転がった。拡張振動ブレードによる斬撃はニーズヘッグの首を二十センチほど切り裂いただけで終わる。


『グリム先生、エルモアを影から出そうとしたのですが、出せません』

「えっ」

 為五郎へ影から出るように命じたが出て来なかった。ここは何か特殊な空間となっているらしい。


 ニーズヘッグが立ち上がると、俺を睨み大きく口を開ける。デスブレスに違いない。『フラッシュムーブ』を発動し、ニーズヘッグの左側に回り込むように移動する。


 その瞬間、デスブレスが吐き出された。腐蝕液が地面に叩き付けられ、土砂を溶かし始めた。俺は急いで眼を保護するゴーグルとエアボンベを咥える。


 その時、尻尾が飛んで来た。逃げる時間がないタイミングだった。俺は腕を交差して顔をガードする。身体に巨大な尻尾が命中したが、俺は弾き飛ばされなかった。


 衝撃吸収服が尻尾の運動エネルギーを吸収したのだ。俺は神剣グラムで尻尾を切り裂いた。大量の血が流れ出し、ニーズヘッグが叫び声を上げる。


 俺はニーズヘッグから距離を取ろうと考え、『フラッシュムーブ』で百メートルほど後退する。それを目にしたニーズヘッグが追い駆けてきた。俺を巨大な足で踏み潰そうと考えたようだ。


 『韋駄天の指輪』に魔力を注ぎ込む。すると、周りの動きが遅くなるのが分かった。周りが遅くなった訳ではなく、俺の感覚や思考速度が上がったためだと理解しているが、感覚としては周りが遅くなったように感じるのだ。


 ニーズヘッグが追い付き、俺の頭の上から叩き付けるように足を踏み付ける。俺はギリギリで躱して神剣グラムで斬り付けた。本当は『ニーズヘッグソード』で巨大な足を真っ二つにしたかったのだが、躱しながらだと『ニーズヘッグソード』は難しい。


 ダメージを与えたが、大したものではない。ニーズヘッグの足が着地した衝撃で地面が揺れ転びそうになった。素早さを上げていなければ本当に転んでいただろう。


 そして、地面に刻まれた足跡を目にすると、恐怖が込み上げる。恐怖と戦いながら、ニーズヘッグの足を躱し神剣グラムで何度も斬り付ける。


 何度目かの斬撃か分からないが、神剣グラムでニーズヘッグを攻撃した後、ニーズヘッグの動きが遅くなった。


 神剣グラムの斬撃効果が効き始めて、ニーズヘッグの足が重くなったのである。足が動かなくなったニーズヘッグはバランスを崩して倒れ始めた。


 俺は頭の落下地点へ向かって走り、『カタパルト』を使って身体をニーズヘッグの方へ投げ上げる。十メートルほどで魔法が解除され、俺とニーズヘッグの頭が交差した。


 その時、『ニーズヘッグソード』を発動し拡張振動ブレードでニーズヘッグの首を切り裂いた。巨大な頭が首から離れ地面に落下する。


 俺は『エアバッグ』で着地すると、ニーズヘッグへ視線を向ける。巨体が消え始めている。

『お見事です』

 メティスの声が頭に響いた。それと同時にエルモアが影から出て来る。俺も為五郎を影から出した。エルモアに確かめると命令が聞こえなかったようだ。


 俺はハクロやゲロンタ、タア坊も出してドロップ品を探させる。最初に見付かったのは白魔石<大>だった。次に指輪が見付かり、そして、巻物を発見した。


『こちらに宝箱を発見しました』

 エルモアが宝箱を見付けたようだ。

 俺はドロップ品を鑑定する事にした。マルチ鑑定ゴーグルを取り出して、まず指輪を鑑定する。すると、『スカンダの指輪』と表示された。


 スカンダはヒンドゥー教の軍神であり、それが仏教に伝わって韋駄天と呼ばれるようになった、と聞いた事がある。


 その効果を確かめると『韋駄天の指輪』と同じ、素早さを上げるというものだった。しかも最高十二倍にまで上げられるようだ。


 巻物を調べてみると『身体操作の奥義』と分かった。これはまた珍しいものを引き当てたな。奥義系の巻物はいく種類か存在するが、『身体操作の奥義』とかはレア中のレアだったはずだ。


 俺は指輪と巻物を仕舞い、宝箱へ行った。たぶん宝箱の中に『神威』に関するものが入っているはずだ。


 マルチ鑑定ゴーグルを使って宝箱を調べる。罠はないようだ。蓋を開けると、水晶球が入っていた。その水晶球を拾い上げ、鑑定してみる。


 すると、『神威の宝珠』と表示された。この『神威の宝珠』に魔力を流し込むと神威について伝授してくれるらしい。それをメティスに伝える。


『神威とは、どういうものなのでしょう?』

「試してみないと分からないな」

 そう言うと『神威の宝珠』に魔力を流し込んだ。その瞬間、俺の意識が途切れた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る