第487話 ニーズヘッグとの戦闘開始

 俺とアーティフはクセイルダンジョンの近くにある冒険者ギルドへ向かう。そこでニーズヘッグの情報を手に入れようと思ったのだ。


 その冒険者ギルドは古いビルの一階にあった。中に入ると昼間から酒を飲んでいる冒険者たちが居た。日本の冒険者ギルドでは、昼間から酒を飲んでいるような冒険者は少ないのだが、ここでは当たり前のようだ。


「アーティフ、#%ー&$&ー%$#」

 最初の名前の部分しか分からなかった。たぶん公用語のアラビア語であると思うが、俺はアラビア語は分からない。


 アーティフと地元の冒険者が話し始めた。

『ニーズヘッグを倒すために来た日本人だと、アーティフが説明しているようです。ですが、冒険者たちはすぐに逃げ出すんだろうと、グリム先生を馬鹿にしています』


 メティスが何を話しているか教えてくれた。たぶん、こういう事が何度もあったのだろう。それだけニーズヘッグが手強いという事だ。


 しかし、いつの間にかアラビア語を覚えているメティスには驚いた。何ヵ国語を習得しているのだろう。今度確かめてみよう。


「グリム先生、資料室はこっちです」

 アーティフが資料室へ案内してくれた。大量の資料が並んでおり、その中からニーズヘッグに関する資料を選び出さなければならない。


「俺のシャドウパペットを出すから、驚かないでくれ」

 俺は影からエルモアを出した。アーティフがエルモアを見て目を丸くするが、声は上げなかった。

「エルモアにも手伝ってもらう」


 俺は役に立たないので、エルモアとアーティフに任せた。その結果、分かったのはニーズヘッグのデスブレスが、凶悪だという事だ。


 日本の冒険者ギルドで調べた時、ニーズヘッグは酸のブレスを吐くと書かれており、戦う時はゴーグルとエアボンベが必要だと資料にあった。


 ところが、単なる酸ではなく強烈な腐蝕液をブレスとして吐き出すらしい。その威力は鉄さえどろどろに溶かすほど強烈だという。さらに厄介なところは、腐食液を吸い込んでも死ぬという点である。


 ゴーグルとエアボンベは持って来ている。問題はないはずだが、ニーズヘッグは速攻で倒さねばならないようだ。装備が腐蝕液の影響で劣化しそうだからである。


 その他にもニーズヘッグの癖や戦い方についても調査して、エルモアとアーティフが伝えてくれたので、準備は完了した。


 俺たちは車でクセイルダンジョンへ向かった。その後ろを付けて来る者たちが居た。冒険者ギルドで笑っていた連中である。


 車を運転しているアーティフに確かめた。

「後ろの連中は、何で付けて来るんだ?」

 アーティフはバックミラーでチラリと見てから、吐き捨てるように言う。

「死んだ冒険者の装備を、奪おうと考えているんです」


「もしかして、俺が死ぬと思っているのか?」

「連中はそう思っているようです」

「しかし、装備を剥ぎ取るには、中ボス部屋に入らなければならないぞ」


「いいえ、あの中ボス部屋には珍しい機能が、付いているんです。死んだ冒険者を部屋から放り出すという機能です」


「なるほど、珍しい中ボス部屋だ。しかし、ハイエナのような連中だ。気に入らないが、ルールを破っている訳ではない」

 俺も不動が死んだ時、雷鎚『ミョルニル』を手に入れている。非難する資格はないのかもしれない。


 クセイルダンジョンに到着した俺たちは、着替えて中に入った。一層は広大な草原である。ここで遭遇する魔物は、アーマーボアとハイゴブリン、リザードソルジャーなどだ。


 俺はすぐにホバービークルを出して、飛んで通過する事にした。

「便利なものを持っているのですね」

 ホバービークルに乗ったアーティフが感心したように言う。


 アーティフの道案内で一層を進み、問題なく階段へ到着した。その階段を下りて二層へ入ると、砂漠が目に入る。荒涼とした砂漠の向こうにピラミッドが見える。


「あのピラミッドは?」

「あれは罠です。中に入ると転送の罠が発動します」

 どこに転送されるのかは分からないという。それで近付く者は居なくなったらしい。


 二層の砂漠もホバービークルで通過する。付いて来ていた連中がいつの間にか消えていた。ホバービークルを使ったので、追って来れなかったのだろう。


 二層は問題なく通過し、三層、四層へと進む。四層の森で四メートルほどのトロールと遭遇、パワーは有るがスピードのないトロールに近付き、五重起動の『ハイブレード』を発動し巨大なD粒子の刃で切り裂いた。


「トロールくらいだと、一撃なんですね」

 アーティフが感心したように言う。

「これくらいできないと、A級にはなれないよ。それより次の五層には中ボス部屋があるんだろ?」


「ええ、ミノタウロスジェネラルが中ボスです。現在は復活待ちの状態だそうです」

 俺たちが進んでいる道は、冒険者たちによって踏み固められた道である。木の枝や葉っぱが上空を覆い隠し、周りは薄暗くなっていた。


 その時、ドシンドシンという足音が聞こえてきた。またトロールである。今度は『クラッシュボール』で串刺しにして仕留めた。


 四層の森を通り抜け、五層から十層で遭遇した魔物も全て瞬殺した俺は、やっと十一層へ到着。アーティフはかなり疲れた顔をしており、とぼとぼとした足取りになっている。


「何で、平気な顔をしていられるんです? 普通は五層で一泊するんですよ」

「鍛えているからかな。それより、中ボス部屋は?」


 アーティフが荒野の真ん中で連なっている岩山を指差した。

「あの岩山の向こう側です。岩山で囲まれた場所が中ボス部屋になっているんです」


 俺たちは岩山へ向かい、岩山に開いた穴から内部に入った。そして、中ボス部屋への入り口を見付ける。そこから中を覗くと、岩山に囲まれた場所に横になって寝ているニーズヘッグの姿が見えた。


「デカイな。何人もの冒険者が殺されたのも無理ない」

 そう言えば、神威というのを得るのに、チームで戦って良いんだろうか?

「アーティフ、ニーズヘッグに挑んだ者たちの中で、チームで挑んだ者は多いのか?」

「ほとんどがチームです。ただ人数が多いと、ニーズヘッグがデスブレスを吐く回数が多くなるそうです」


 人数とデスブレスの回数が比例するなら、一人で戦った方が良いのか。まず一人で戦ってダメそうなら、エルモアと為五郎を出そう。


 まず休憩して疲れを取ってから、ニーズヘッグへ挑む事にした。二時間ほど休んでから、不変ボトルの万能回復薬を飲んで立ち上がる。


 俺はいくつかの指輪を嵌めて、衝撃吸収服のスイッチを入れた。そして、神剣グラムを手に持ち中に足を踏み入れる。


 ニーズヘッグはすぐに気付いて起き上がると、ゆっくりと上を向いて咆哮を発する。響き渡る咆哮が俺の身体を細かく震わせた。それが戦いの合図だった。その瞬間からニーズヘッグから凄まじい魔力と覇気が溢れ出し、俺にプレッシャーを掛け始める。


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