第485話 神属性

 五層の廃墟を通り抜け、六層へ下りる。六層は砂漠だったのでホバービークルで飛んで通過。七層は草原だったが、空を飛ぶ魔物が居たので、ホバービークルを使わずに歩き出した。


 その草原は大人の腰辺りまである草で覆われていた。ベルカが先頭で草を押し退けながら進む。そこに道が出来たので、その細い道をアリサたちは進んだ。


「このルートで良いのかね?」

 アリサたちが進んでいるルートは最短距離で次の階段へ行けるルートである。冒険者ギルドで手に入れた地図には、遠回りになるが安全なルートも載っているのだ。


「ブラックハイエナの群れなら、私とベルカで片付けます」


 この七層ではブラックハイエナが群れを成していた。一匹一匹は弱いブラックハイエナだが、群れると厄介な魔物になる。だが、早撃ちを訓練した生活魔法使いならば問題なかった。


 ブラックハイエナの群れと遭遇したアリサは、三重起動の『パイルショット』を連続で発動しD粒子パイルでブラックハイエナを串刺しにする。


 時には二匹のブラックハイエナを同時に貫通するD粒子パイルもあった。それでも撃ち漏らしたブラックハイエナがアリサたちに近付こうとした時、ベルカが襲い掛かって蹂躙する。


「本当にベルカは頼もしいよね」

 美姫がベルカの頭を撫でながら言う。アリサは周りを見回して安全を確認してから、『マジックストーン』を発動し魔石を回収した。


 教授が疲れているのに気付いたアリサは休憩しようと提案する。座る場所がないので、ホバービークルを出して乗り込む。


「このまま飛んでいければ楽なのに」

 美姫が愚痴を零す。だが、ここの上空にはマーダーカラスという大鴉が居るので、戦闘用ではないホバービークルでは危険なのである。


「教授、九層の壁画ですが、もう研究を始めておられるのでしたら、見解を聞かせてください」

 アリサが教授に尋ねた。

「壁画の写真を調べて分かったのは、巨大なドラゴンを倒した者は、『神に挑戦する者』と呼ばれる事と、進む道が示される事だ」


「それだけですか?」

「いや、神に挑戦する者は、三つの試練を受ける事になるらしい」

 ただ試練の内容は写真を調べただけでは分からないらしい。教授は直接壁画を調べて研究するつもりだという。遺跡の壁画というのは、風化が進んで写真に映らない部分も有るので、間近で見て質感や空気を感じる事で分かる情報も有るという。


 西嶋教授はダンジョン分析学の第一人者であると言われている。但し、それを研究すれば新しい技術が開発できるとか、人間社会に役に立つという分野でもないので、大学や政府はあまり研究費を出してくれないらしい。


 そのせいで冒険者は雇えず、学生に協力を求めるしかなくなったようだ。

「しかし、教授と新田さんだけでダンジョンに潜っていたら、確実に死んでいましたよ」

「その点については、痛感している。大学が許可を出さなかったのも納得した。だが、二人が協力を申し出てくれたと話したら、簡単に許可が出たのだ」


 美姫がなるほどと頷いた。

「それはアリサがB級冒険者だと知っているからですよ」

「私は知らなかったが、有名なのかね?」

「渋紙市の冒険者の間では有名です」


 アリサは教授に視線を向けた。

「教授が緑塔ダンジョンの壁画を注目したのは、なぜです?」

「ダンジョンの研究をしていて、一つの事に気付いた」

「それは?」

「神話に基づいた魔導武器やアイテムを再現してドロップ品としている点やダンジョン内に残された情報から、ダンジョンが神と呼ばれるものに、大きな関心を示しているという事だ」


「ダンジョンが神に関心がある?」

「そうだ。まるでダンジョンが神を求めているように、感じる時もある」

 それを聞いたアリサは、どういう事だろうと考え始めた。


 しばらく考えていると、教授が出発しようと言い出した。アリサは頷き、ホバービークルを仕舞うと階段に向けて歩き出す。


 遠回りした場合の三割くらいの時間で階段まで到達する事ができた。階段を下りて八層は湿地帯だった。アリサはホバービークルで飛ぶ事を選ぶ。


 そして、九層への階段へ到着して下りる。九層は草原と森が混在しているエリアで、右手の方角に遺跡があるらしい。アリサたちは草原をホバービークルで飛んで、遺跡がある森まで行く。そこでホバービークルを降りて、森に入った。


 予想通り多数のオークナイトと遭遇したが、アリサとベルカがオークナイトをアッと言う間に倒して進む。三十分ほど進んだところで、遺跡が見えた。


 それはカンボジアのアンコールワットのような遺跡だった。門のところにある階段を上ると寺院のような建物への入り口があり、そこから中に入る。


 全て石で作られた遺跡は、かなり風化していた。崩れている部分もあるが、構造自体はしっかりしているようだ。中はひんやりしており、通路のあちこちから魔物の気配が伝わってくる。


 ここにもオークナイトが居て、偶に遭遇すると襲って来た。それを倒しながら進み、壁画がある部屋まで辿り着く。


「おおっ」

 壁画を目にした教授が感動の声を上げる。アリサと美姫、ベルカが警備している間に、教授たちが詳しく調べ始めた。


「んんん……」

 教授が唸り声のように声を出しながら、絵の横に書かれている文章を調べる。それは秘蹟文字で書かれたものだった。写真では判別できなかった部分も、直接見ると読めるようだ。


「教授、何か分かりましたか?」

「試練の最初のものは分からないが、二つ目は膨大な情報を与えられて、それを処理するというものらしい」

「情報の処理? 分析魔法使いが得意そうな分野ですね」


「そうかもしれん。最後の試練は相手を選んで神威で倒すというものらしい」

「神威というのは?」

「神格を持つ者が、身に付ける神属性の力のようだ。それは不死の者でも滅ぼす事ができる特別な力なのだそうだ」


 アリサは腑に落ちないという顔をする。神属性というのは何だろう? 不死者でも倒せる? それだと不死という言葉と矛盾するのではないだろうか? それとも限定的不死というものが存在するのか?


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