第484話 ベルカの活躍
アリサは教授と新田の実力が分かり、戦力としてベルカを出す事にした。中級ダンジョンの低層なら必要ないと思っていたのだが、思っていた以上に教授と新田はへっぽこだった。
ベルカを出さずに二人に戦ってもらえば、二人の経験値?になると考えていたのだが、あの実力では危険だと判断する。
何とかゴブリンを倒した二人は息を切らしてヘトヘトになっていた。
「ゴブリンを一匹倒しただけで、これでは話になりませんね」
こういう事ははっきり言った方が良いと判断したアリサは、教授たちに戦力外通告をする。下手に庇うと全員の命に関わる事にもなるので、明言した方が良いのだ。
「面目ない。もう少し身体が動くと思っていたのだが、かなり
「教授たちは戦わないでください。私とベルカが戦います。美姫はどうする? 一緒に戦う?」
「アリサに任せた方が良さそうだけど、戦える魔物なら参加させて」
「分かった」
西嶋教授がアリサへ顔を向ける。
「ところで、ベルカというのは?」
「ベルカは、私の犬型シャドウパペットです。護衛兼ペットなんです」
アリサは影からベルカを出した。のそりと出て来た超大型犬の姿に、西嶋教授たちが息を呑む。
「こ、これはまた、デカイシャドウパペットなんだね」
「上級ダンジョンで戦うとなると、これくらいの大きさが必要になるんです」
アリサたちは草原を進み森に入った。一層のほとんどは木が生い茂る森になっていて、見通しが悪かった。なので、徒歩で進んでいるのである。
「ベルカ、魔物と遭遇したら倒してね」
「ワン」
ベルカが先頭に立って進み始め、二匹のリザードマンと遭遇する。ベルカが駆け出し、一方のリザードマンがロングソードを振り上げた瞬間に加速して体当りする。リザードマンを弾き飛ばしたベルカは、その首に牙を立て頸骨を噛み砕いた。
もう一匹のリザードマンがロングソードをベルカに向かって薙ぎ払う。ベルカは後ろに跳んでロングソードの攻撃を躱し、低い姿勢で跳び出してリザードマンの足首に噛み付く。
噛んだままリザードマンを引き摺り倒し、後ろ足二本で立ち上がってリザードマンを振り上げ地面に叩き付ける。ベルカの凄まじい力で叩き付けられたリザードマンの肉体が潰れた。
その様子を見ていた西嶋教授たちは顔を強張らせていた。
二匹のリザードマンを仕留めたベルカは、アリサのところへ戻って来た。
「頑張ったのね。偉い偉い」
アリサが褒めると嬉しそうにくるくると回る。それは自分の尻尾を追い掛けているように見える。
ベルカがほとんどの魔物を倒して、森を抜けると二層へ下りる階段を見付けた。その階段を下りて二層へ向かう。二層は大きな湖があるエリアだった。湖を船か何かで渡ると近道になるようだ。
アリサは持ってきたホバービークルを収納リングから出した。
「これは?」
教授が尋ねた。アリサは何と説明するか迷ってから返事をした。
「これはホバービークル。水の上も飛べる乗り物です」
それを聞いた皆は、ダンジョン産の品物だと思ったようだ。偶にダンジョンから変な乗り物が産出する事が有るのだ。空飛ぶ
ベルカはアリサの影に潜り、全員がホバービークルに乗る。二層はホバービークルに乗って攻略した。ほとんど魔物とは遭遇せず、海面に顔を出したマーマンを一匹仕留めたくらいである。
三層に下りたアリサは、目の前に広がる山岳地帯を見て渋い顔になる。この地形だとホバービークルが使えないからだ。『ウィング』が使えれば簡単なのにと思ったが、教授たちは生活魔法使いではない。
「アリサ、ベルカは出さないの?」
美姫が尋ねた。まだ出していなかったと思い出したアリサは、ベルカを影から出した。三層にはオークとアタックボア、レッドコングが居る。
最初に身長二メートルほどの赤い大猿に遭遇した。レッドコングである。アリサは五重起動の『サンダーバードプッシュ』を発動し稲妻プレートをレッドコングに放つ。
勘の良いレッドコングは横に跳んで躱したが、そこにベルカが噛み付いて振り回し投げる。アリサは『クラッシュボール』のD粒子振動ボールで胸に穴を開けて仕留めた。
「レッドコングは、そこそこ強い部類の魔物なのに、あっさりと倒すのね」
美姫が感心したように声を上げた。美姫も攻撃魔法を使おうと思ったのだが、出すタイミングが難しすぎた。ベルカとアリサが攻撃するタイミングが早すぎるのだ。
アリサとベルカの連携も上手くいくようになり、三層は無事に通過。四層は砂漠エリアだったが、ホバービークルで飛ぶ。
五層はアンデッドの巣食っている廃墟だった。多数のスケルトンソルジャーとグール、ファントムが襲って来るとアリサがファントムを倒し、残りをベルカと美姫が倒す。
アリサにとって、教授たちを守るのが負担になっていた。これがグリムだったら、と思うと苦笑いが浮かぶ。グリムだったら、アリサが手を出す前に片付けてしまっただろう。そう思うとちょっと幸せな気分になる。
教授たちは恐怖を抑えながら足を進めていた。それなりに頑張っていると思うが、どうしてもグリムと比べてしまう。
「ちょっと。スケルトンソルジャーと戦いながら、ニヤニヤするのは、怖いからやめて」
美姫に注意されたアリサが、顔を赤くする。
「ごめん。ちょっと別な事を考えてた」
決して油断している訳ではない。D粒子センサーを使って周囲を警戒しているし、ファントムが襲って来ないか警戒もしている。
その時、大型の魔物をD粒子センサーにより感知する。
「気を付けて、大物が現れた」
アリサが声を上げ、左の方角に目を向けた。そこには途中から崩れ落ちた塔があった。その塔がぐらぐらと揺れて、完全に潰れる。
潰れた瞬間に舞い上がった土煙の中から現れたのが、単眼の巨人キュクロープスゾンビだ。
「そ、そんな。もう終わりだ」
助手の新田が大声を上げて逃げ腰になる。
「大丈夫なの?」
美姫も不安そうに声を上げる。身長五メートルもあるゾンビを見て恐怖を覚えたようだ。
「あれくらいは大丈夫よ」
ベルカが吠えると駆け出した。近付いて来るベルカに、キュクロープスゾンビが棍棒を振り下ろす。ベルカの目は高速戦闘が可能な高性能ソーサリーアイなので、しっかりと棍棒の動きを捉えていた。
棍棒を避けたベルカはキュクロープスゾンビの右足の横をすり抜けた。それを見た美姫が首を傾げる。ベルカが何も攻撃せずに通り過ぎただけに見えたのである。
しかし、ベルカが通り過ぎた次の瞬間、キュクロープスゾンビの右足が切断された。脛から下が切り離され、その巨体が地響きを立てて倒れたのだ。
ベルカはすり抜けた瞬間、『クラッシュソード』を発動し空間振動ブレードで右足を切断していたのである。アリサは『クラッシュボールⅡ』を発動して高速振動ボールでトドメを刺した。
「えっ、何で?」
ベルカの『クラッシュソード』に驚き、美姫が声を上げた。教授たちも腑に落ちないという顔をしている。
「あれはベルカが持つ攻撃能力の一つです」
アリサは魔法回路コアCについて秘密にしているので、曖昧な説明をする。
キュクロープスゾンビがドロップ品を落とした。魔石を回収してから、そのドロップ品を拾い上げる。それはビリヤードのボールほどの大きさがある玉だった。重さも同じ程度である。
習得したばかりの『アイテム・アナライズⅡ』でドロップ品を調べると、『ホーリーボール』と分かった。これはファントムなどの霊体型アンデッドに大ダメージを与える効果がある魔導武器らしい。
覇王級の魔導武器であり、投げると敵に命中して戻って来るようだ。威力はアンデッドに対しては効果が大きいが、普通の魔物には木製のボールを命中させた程度だという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます