第483話 緑塔ダンジョン
「アリサ、シャドウパペットを見せてくれる約束でしょ」
美姫が思い出したように言い出した。
「そうね。授業が始まるまで、もう少し時間があるから、今でいいか」
「聖子、アリサがシャドウパペットを見せてくれるって」
美姫は友人の織島聖子を呼んだ。その声が聞こえたらしく、周りの学生たちがアリサのところに集まって来る。
「アリサさん、もしかして自分で作ったの?」
男子学生の一人が尋ねた。
「ええ、一人で作った訳ではないけど、希望通りのシャドウパペットが完成したわ」
「いいな。生活魔法を使える人は」
「アリサ、早く見せて」
「見て驚かないでよ。凄く可愛いから」
美姫の催促に答えてアリサが可愛いと言ったので、見物に集まった学生たちは、影から可愛い小型のシャドウパペットが出て来るのだろうと思っていた。
「ベルカ、出て来て」
影からのそりと犬型シャドウパペットの『ベルカ』が出て来た。アリサよりも大きそうな犬型シャドウパペットを目にした見物人たちは、思わず身を引いた。それほど迫力があったのだ。
「デ、デカイのね」
美姫が顔を強張らせて言う。
「まあね。でも、可愛いでしょ」
アリサは真っ黒で艷やかな毛で覆われた首に抱き着いた。
ベルカは睨むようにして、学生たちを見る。まるで、主人に近寄らせまいとしているようだ。それに気付いたアリサが注意する。
「この人たちは、私の知り合いだから大丈夫よ」
「ワン」
ベルカは睨むのをやめて、甘えるようにアリサの身体に頭を擦り付ける。それを見た美姫は微笑んだ。
「大きいけど、可愛いのね」
アリサはニコッと笑って、美姫に触るのを許可する。
「こ、これはビロードのような手触り」
美姫はベルカを撫で始めると、手が止まらなくなった。
「そろそろ授業よ。ベルカ、影に戻って」
「後もう少し」
美姫が頼んだが、ベルカは影に沈んだ。それを見て美姫が残念そうな顔をする。
「あれをオークションで売れば、どれぐらいの値段になるんだろう?」
学生の一人が言い出した。
「五千万くらい」
「いやいや、一億はするんじゃないか」
そんな話を始めた。そこに西嶋教授が教室に入って来る。
「授業を始める前に、連絡がある。これから名前を呼ばれた学生は、授業終了後に私の部屋に来てくれ」
アリサと美姫の名前も呼ばれた。その後、授業を受けた後に教授の部屋に向かう。
部屋に入ると名前を呼ばれた他の学生たちが揃っていた。アリサたちが入って来るのを見て、教授が話し始める。
「揃ったようだね。話というのは、緑塔ダンジョンで発見されたエベツ壁画の調査についてだ」
緑塔ダンジョンというのは、渋紙市から三駅離れた町にある中級ダンジョンで、最近九層の隠し部屋で壁画が発見されたとニュースになっていた。
「その壁画を調査する事になったのですか?」
アリサが尋ねた。
「そうだ。壁画には『神に挑戦する者』というタイトルが付いていた」
発見者は壁画の一部だけを撮影して写真を冒険者ギルドへ提出したという。西嶋教授は自分の目で調べたくて、緑塔ダンジョンへ潜る決心をしたらしい。
「諸君を呼んだのは、一緒にダンジョンに潜って欲しいからだ」
西嶋教授は助手の新田と潜るつもりだったようだが、二人だけでは無謀だと大学から言われた。そこで学生の中でE級以上の冒険者に協力してもらおうと呼び出したのである。
呼び出された男子学生三人と美姫はE級らしい。そして、緑塔ダンジョンの九層にはオークナイトが居るという。男子学生三人はオークナイトが相手では無理だと言って断った。
「教授、腕利きの冒険者を雇うという手もありますよ」
アリサが提案すると、教授が恥ずかしそうな顔をする。
「予算がない。情けないと言われても仕方ないが、君たちの厚意に期待するしかないのだ。結城さんはどうだね?」
その壁画を見たいと考えたアリサは、
「分かりました。協力します」
「アリサが協力するなら、私も協力します」
美姫も同行するという。
「相手はオークナイトだけど、大丈夫なの?」
「一匹だけなら、なんとか。でも、アリサが居れば楽勝でしょ」
それを聞いたアリサが苦笑する。美姫はアリサがB級だと知っているのだ。だが、教授はなぜ楽勝なのか分からないという顔をする。
「教授、聞いていないんですか。アリサはB級冒険者ですよ」
「そうなのか。学生課に頼んでE級以上の学生を選んでもらったのだが、詳しい事は教えてもらえなかったのだよ」
大学でも個人情報を簡単に漏らさないようにしているので、教授に伝えなかったのだろう。アリサたちは三日後に緑塔ダンジョンへ潜る事になった。
アリサは緑塔ダンジョンについて調べた。九層でオークナイトが出るというのは、厳しい中級ダンジョンのようだ。だが、アリサにとって手強そうな魔物は居ない。問題ないだろう。
三日後、緑塔ダンジョンの前に集合した。アリサの装備は衝撃吸収服と竜王鎧だ。竜王鎧はグリムからのプレゼントである。
教授たちと美姫が来た。
「教授、『神に挑戦する者』という壁画は、どういう事だと思いますか?」
パルミロの件もあるので、『神に挑戦する者』というタイトルに、アリサは興味を持ったのだ。
「まだ分からんのだよ。ただ神になるための試練が描かれているらしい」
ダンジョンに潜ると、早速魔物と遭遇した。遭遇したのは五匹のゴブリンである。
「教授たちと美姫は一匹ずつ、私が二匹を倒します」
「分かった」
冒険者のルールとして、実力が高い者が指揮をするというものがあるので、アリサが指揮を執る。それは教授たちも承諾した。
教授たちはE級冒険者らしい。ただ久しぶりのダンジョンなので、その戦いぶりは危うい。アリサは二匹をトリプルアローで瞬殺してから、他の三人を観察したが、一番マシなのは美姫だった。
美姫は攻撃魔法を使えるらしく『バレット』で仕留めた。
「おりゃ!」「はっ!」「なんの!」
教授と助手の新田は騒がしい声を上げながら剣で戦っている。
アリサは肩を落として溜息を漏らす。教授と新田を
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