第482話 アレンジとライセンス料
新しく創った『アブソーブシールド』の検証は、根津に手伝ってくれと頼んだ。
「どうすれば、いいんですか?」
「俺が魔法を発動したら、竹刀で攻撃してくれ」
「分かりました」
地下練習場で『アブソーブシールド』を発動する。俺の周りに九枚のD粒子赤色シールドが生まれ、周囲を回り始める。
根津が竹刀を振り被り、俺の頭を目掛けて振り下ろす。D粒子赤色シールドがシュンと動いて竹刀を受け止めた。
「どんどん打ち込んでくれ」
根津が移動しながら連続で竹刀を打ち込むが、その尽くをD粒子赤色シールドが受け止める。
「はあはあ……もうダメです」
根津の体力が尽きたので検証は終了した。動作機能については不具合はないようだ。後は十分な強度を持っているかどうかである。<衝撃吸収>の特性が機能していれば、巨人の一撃でも耐えられるはずだ。
防御用の『アブソーブシールド』が完成しても、何かが足りないような不安が胸に残った。それが何か必死で考えたが、分からない。
それをメティスに相談すると、パルミロの事が気になっているからだろうという。
「パルミロか」
『不老不死になったのでないか、という情報が気になっているのではないですか?』
「そうだな」
不死が気になっているのだ。不死の存在と戦って勝てるのだろうか? それが棘のように心に突き刺さっている。
『ならば、不死の存在さえ消滅させてしまうような魔法を、創り出せば良いのではありませんか』
メティスの言葉に驚いた。
「無理言うなよ。不死なんだぞ。どうやって殺せと言うんだ?」
『まずは、不死の仕組みを解き明かす事です。それが分かったら、その仕組みを破壊するような魔法を創り出すのです』
呆気に取られた。
「俺は神様じゃないんだぞ」
『お忘れですか。不老不死になって神を目指しているパルミロも、人間なのですよ』
「人間だった、というべきだな。……だが、そうかもしれない」
不死について調べ始めた。不死にはいくつかの種類がある。一番目は身体が滅びて霊魂だけの存在になっても消えずにいられるというものだ。
二番目は強烈な再生能力を持つ不死である。細胞が一欠片でも残っていれば、再生できるという能力ならば、不死と言えるかもしれない。
三番目はダンジョン的な不死である。中ボス部屋の中ボスのように何度殺されても復活するという不死である。ダンジョン内に復活の仕組みが存在すると推測できるが、それを破壊するのは難しいだろう。
四番目は時間を遡るような不死である。死の瞬間、時間を遡り無傷である時まで戻るというものだ。
まだまだ不死の種類は有るかもしれないが、この中で二番目だけが対処できるかもしれない。一片の細胞さえ残さずに焼き尽くせば良いからだ。『ジェットフレア』ならできるだろう。
一番目がレイスなどの魔物と同じなら光剣クラウ・ソラスで倒せるかもしれないが、本物の幽霊の場合、倒せるかどうかは分からない。本物の幽霊をダンジョンが作り出した魔導武器で消し去ったという実例がないのだ。
問題は三番目と四番目だ。ダンジョンが復活させている場合は、全てのダンジョンを破壊しないと復活を止められないという事になる。四番目だと理解不能だ。
ダンジョンというものを知る必要があるようだ。但し、様々な学者や冒険者が長年調べているが、分からない事の方が多いというのが現状なので、時間が掛かるだろう。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
アリサはご機嫌な様子で大学に向かう。昨日ついに犬型シャドウパペットが完成したからだ。グリムとエルモアにも手伝ってもらい、シャドウクレイ百五十キロを使った超大型犬にした。
外見はフラットコーテッドレトリバーという犬種を真似ている。高速戦闘ができるようにソーサリーアイも特別製にして、コア装着ホール五個、マジックポーチ、魔力バッテリー三個を組み込んだ。
「アリサ、おはよう」
大学で同じ分析魔法を専攻している大沢美姫が声を掛けた。
「おはよう」
「ん? 何だか嬉しそうね?」
「分かる。犬型シャドウパペットが完成したの」
「シャドウパペットか。私も欲しいけど、高いんでしょ?」
アリサは首を傾げた。自分で作るので値段を気にした事がなかったのだ。だが、ソーサリーアイなどの値段を考えると高くなるのは理解していた。
「そうね。高いと思う。でも、それだけの価値は有るから」
美姫がシャドウパペットを見たいと言ったが、道路で出すのは騒ぎになるからダメだと断る。
「大学の教室で見せるから」
「約束よ」
アリサたちが大学の教室に到着すると、数人の学生たちが集まって騒いでいた。何の騒ぎか気になったので、アリサたちが近付くと、攻撃魔法をアレンジしたものを魔法庁に登録したアメリカの学生兼冒険者が、数億円の利益を上げたという話題だった。
その学生は『アレンジシステム』を手に入れ、『ソードフォース』をアレンジして劣化版を作り登録したらしい。その劣化版が人気となったそうだ。
日本の冒険者登録数は三百万人ほどだと言われている。その中で実際にダンジョンで活動しているのは、七十万人ほどであり、他はペーパー冒険者である。
これを世界で考えると登録者数が四千万人、実際に活動しているのは九百万人ほどになる。アレンジした魔法を魔法庁に登録した場合の購買対象は、この九百万人になる。値段を一万円にして一万人の冒険者が購入すれば一億円、その一割がライセンス料だとしても一千万円になる。
グリムが登録した『Dクリーン(廉価版)』の掃除用魔法は、冒険者でもない人も購入しているので、凄まじい利益を上げていた。
「僕が『アレンジシステム』を手に入れたら、絶対大金持ちになるんだけどな」
学生の一人が言い出した。それを聞いた友人が笑いながら言う。
「『アレンジシステム』を持っていても、しょうもない劣化版しか作れない連中が、大勢居るんだぞ。どうやって金持ちになるんだ?」
「『デスショット』の劣化版を作るんだ。それなら絶対人気になる」
アリサはどうだろうと首を傾げた。アレンジにおいて難しいのは、威力をそれほど落とさずに習得する魔法レベルを下げる事だったからだ。
それには高度なアレンジ技術が必要であり、アリサはグリムから魔法を創る時のノウハウを聞いているので、技術を高められたが、他の人たちはノウハウを蓄積する事から始めなければならない。簡単にアレンジできるものではないのだ。
アリサ自身もアレンジについては考えており、『ウィング』をアレンジして足の不自由な人やお年寄りが階段を上り下りできる魔法を作ろうかと研究している。
足を怪我をした人が苦労して階段を上っている姿を見て、必要だと思ったのだ。
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